2月15日 オンエア
家族も知らない過去…母は脱獄犯だった!
 
 
photo  今から10年前、アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ。 この地に住むウォルシュ家は、幸せを絵に描いたような家族だった。 会計士として一家を支える、父・アラン。 そして、家庭を第一に考える理想の母・マリー。
 マリーは、子供の手が離れた頃からボランティアにも積極的に参加するようになった。 彼女は、近所でも評判の女性だった。
 
 
photo  幸せで平穏な日々は、この先もずっと続くと思われた。 ところが…ある日、不審な車が家の前にずっと停まっていた。
 家族でレストランで食事をしている時も…ずっとこちらを伺っている男たちがいた。 さらに数日後、次女のケイティが家に帰ってきた時…家の前に停められていた不審な車に、レストランにいた男たちが乗っていたのだ! 異変はさらに続いた。 夫婦で出かけた帰り道…誰かが二人をつけてきていたのだ!
そしてついにその時が…
 
 
photo  ミシガン州デトロイト女子刑務所、一人の女が刑務所から脱走した! 女の名はスーザン・ルフェーブル、21歳。
 この2年前、スーザンは麻薬取引を行っていた現場を取り押さえられ、逮捕されていた。 その後の取り調べで、容疑を認め、麻薬組織のリーダーとして懲役20年の判決を受け服役中だった。 そんな凶悪犯が突如、刑務所を脱獄。
 
 
photo  警察はすぐさま、スーザンと付き合いがあった不良仲間たちを当たったのだが、行方は分からなかった。 さらに、彼女の祖父は「あんな恥知らずな孫は家族でもなんでもありません。」と言い、家族の誰も行方を知らなかった。
 懸命な捜査にも関わらず、スーザンの行方は一向に掴めなかった。 もはや、手がかりはなくなり、捜査は完全に暗礁に乗り上げていた。
 
 
photo  だが…警察のホームページにスーザンと思われる女の目撃情報が寄せられたのだ。 そして…彼らはスーザンが住んでいると思われる家にやってきた。
 そこにいたのは…マリーだった! なんと、近所でも評判の理想の母親、マリーの正体は…32年前、刑務所を脱獄した麻薬組織のリーダー、スーザンだったのだ!
 
 
photo  実は、スーザンに関する捜査は、消息がつかめないことから、一度、迷宮入りになっていた。 しかし、アメリカでは重罪に関しては基本的に時効がない。
 警察は脱獄から30年が経過したのを機会に、再捜査を開始。 スーザンの写真をホームページに載せ、情報提供を呼びかけた。 すると2年後、目撃情報が…そこで彼らは、逮捕の機会を狙って内偵を続けていたのである。 つまり、家族を付けねらっていた不審な人物は…変装した警察の人間たちだったのだ!
 
 
photo  一枚の写真を手がかりに解決した30年以上前の事件。 この報道によって、マリーは脱獄した麻薬組織のリーダーであったことが全米中に知れ渡った。
 数日後…父・アランは、マリーに直接面会をして、彼女に起こったこと全てを聞いた。 そして、そのことを子供達に話した。 脱獄はマリーの意思ではなかったこと…麻薬の売人ですらなかったこと…
 
 
photo  母マリーの、元の名前はスーザン・ルフェーブル。 ミシガン州のアパートで一人暮らしをする学生だった。 その日、彼女の元をある人物が訪ねてきた。 男はスーザンの友人だったが…麻薬に手を染める不良だった。 実は、スーザンが学生時代、仲良くなった友人は不良グループと付き合いがあり、スーザンも彼らに誘われるままついドラッグを使用してしまったことがあった。 そこには、しつけの厳しい両親に対する反発もあったのだが、彼女はすぐに後悔。 不良仲間とは、距離を置こうと決めていた。
 
 
photo  しかし、突然家に押しかけて来たため部屋に入れてしまったのだ。 そして、ピザを食べに行きたいから車を出して欲しいと言われ、ピザ店まで一緒に行ってしまった。 そこで、なんと友人はスーザンに隠れて麻薬の売買を行っていたのだ。
 そして…そこに警察が乗り込んできて、彼女は友人たちとともに、麻薬密売の現行犯で逮捕されてしまった! 取り調べでは、当然、無実を訴えたのだが…友人は苦し紛れに彼女が組織のリーダーだと嘘をついていたのだ!
 
 
photo  当時のアメリカでは、麻薬使用の罪に関しては、執行猶予付きの判決が出ることが多かった。 しかし、麻薬の密売となると、数年の実刑判決が出る可能性もあった。
 だが弁護士は…スーザンが以前ドラッグをやっていたことから、裁判になれば、陪審員たちは誰も彼女の言うことは信じないと言う。
さらに、「罪を認めて情状酌量を狙おう。初犯だから売買を認めたとしても執行猶予がつくはずだ。」と言うのだ。 麻薬の密売など、全く身に覚えのないこと…なぜ認めなくてはならないのか?
 
 
photo  だが結局、まだ若かったスーザンは、自由の身になりたい一心で麻薬売買を行ったと認めてしまった。 そして…懲役20年という、信じられない判決が下ったのである。
 なぜ執行猶予がつくはずだったスーザンに、懲役20年という判決が下ったのか? 後に彼女が知ったのは、自分の力ではどうする事もできない、とてつもなく大きな力が働いていたという事実だった。 それが…刑務所ビジネスと呼ばれるもの。
 
 
photo  当時、ミシガン州の地元企業は、刑務所の受刑者を低賃金で雇い、大きな利益を上げていた。 出た利益の一部は寄付という形で政治家に献金。 受刑者が多いほど、企業はコストをかけずに多くの労働者を確保できる。 一方、刑務所にとっては、囚人が多いほど、州から運営資金が得られることになる。 つまり受刑者が増えれば増えるほど、政治家と地元企業、刑務所が潤う仕組みだった。 そこで政治家が、多くの受刑者を確保するため、裁判所に圧力をかけた結果…多くの被告に対し、法律で許される範囲の最高刑が言い渡されていたのである。 そんな特殊な社会的背景が災いし、スーザンは予想もしない重い刑を科せられてしまったのだ。
 
 
photo  こうして、受刑者となったスーザン。 獄中生活が20年間も続くと思うと、もはや生きる希望すら見い出せなかった。
 ある日、祖父が面会に来てくれた。 祖父は、躾の厳しい両親に代わってスーザンを子供の頃から可愛がってくれていた。 祖父は孫娘を助けようと奔走したのだが…一度、罪を認めてしまっているため、どうしようもなかった。
 そこで、祖父はスーザンにとんでもない提案をした。 なんと、脱獄しろというのだ!
 
 
photo  そして…早朝の作業中、看守の目を盗み、スーザンは高さ6メートルのフェンスを乗り越えた! 刑務所の前で祖父が待っていて、車にスーザンを乗せ、逃走。 こうして脱獄は成功した。
 警察の捜索から逃れるため、これからは一人逃亡生活を送らなくてはならない。 荷物を取りに、一度実家に立ち寄ると…両親が待っていた。 両親もスーザンの無実を信じてくれていた。
 
 
photo  警察に感づかれるかもしれないため、手紙や電話で連絡を取ることはもうできなくなる。 二度と家族に会えない可能性もあった。 知人の車で街を出たスーザンは、その後も車を乗り継ぎ、西へ西へと向かった。
 家族の元に警察の捜査が及んだ時…「あんな恥知らずな孫は家族でもなんでもありません。」 祖父のあの言葉は、自分たちの周辺から、孫の行方を探られないようにするためのものだったのだ。
 
 
photo  やがてカリフォルニアに流れ着いたスーザンは、マリーと改名。 職を転々としながら生活を続けた。
 アメリカでは、国民一人一人に社会保証番号という、番号が割り当てられている。 マリーという別の女性で生きる以上、彼女は本来の番号を使うことができなかった。 そのため、身分を証明するモノがなく、定職に就けなかったのだ。
 
 
photo  そこで彼女は自らの生活のため、やむなく適当な社会保証番号で運転免許証を申請。 すると、なんと免許証を入手することができた。 当時は、電子照合システムが発達していなかった為、免許センターも申請を受理してしまったと考えられる。 こうしてマリーは身分証と社会保証番号を得て、定職に就くことも出来た。
 
 
photo  そして逃亡生活を始めて9年。 マリーはアラン・ウォルシュと出会い、恋に落ちた。 孤独な逃亡生活の末、初めて出会った心を許せる相手。 だがどうしても、本当のことは言えなかった。
 結局、真実を話せないまま、翌年、結婚。
三人の子供に恵まれた。
 
 
photo  傍から見れば、絵に描いたような幸せな一家。 しかし、家族を欺く罪悪感、いつバレるかもしれないという恐怖。 常に何かに怯えながらの生活を強いられた。
 そして…危険と知りつつ公衆電話から実家へと電話した。 唯一自分の全てを知っている家族と話したかった。 その電話で、祖父の死を知らされた。 祖父は死ぬまで彼女のことを心配していたという。
 
 
photo  自分の幸せだけを願ってくれていた祖父。 その想いを無駄にしないため 自分に何ができるのか… 家族にとって誇れる母になる、それが彼女の結論だった。 マリーは今まで以上に、地域のボランティアにも積極的に参加。 いつしか近所でも評判の女性になっていた。
 それでも隠している過去の重さに耐えきれず、何度も家族に打ち明けようとしたのだが…どうしても言えなかった。 脱獄の果てにようやく掴んだ幸せ。 愛する家族との生活を失いたくなかった。
 
 
photo  そして逃亡から、32年の時が流れた。 マリーは、名前や身分を偽っていることがバレるのを避けるため、アメリカから出ようとしなかった。 誰にも言えない秘密を抱えながらも、よき妻、よき母として、誠実に生きてきたつもりだった。 ボランティア活動を通して、地域にもすっかり溶け込んでいた。 すべては家族にとって誇れる母になるため。
 
 
photo  しかし積極的に社会と関わりを持ったことが、かえって皮肉な結末をもたらすことに… 目撃情報をきっかけに素性がバレ、メディアによって自らの過去が全米に知れ渡ることになったのである。
 すべてを知った子どもたち。 母はかつて麻薬を使用し、脱獄という罪を犯していた。 なにより、正体を偽っていたということが裏切りにも近い、計り知れないほどのショックだった。
 
 
 マリーは自分を責めた。 ドラッグに手を出しさえしなければ、悪い友人と知り合うこともなく、逮捕されることもなかった。 過去に過ちを犯した自分は、幸せを望んではいけなかったのではないか…
photo  マリーに子供達から手紙が届いた。 どんな厳しい言葉でも受け入れる覚悟だったが…そこにはこう書かれていた。
『お母さんへ、昔の事を聞いた時はとってもショックだった。私たちお母さんのことなにも知らなかった。でも わかっていることが一つだけある。それは 私たちにくれた愛情は嘘偽りのない 本物だったってこと。やっぱり お母さんへの愛はかわらない。だから今度は僕たちが、恩返しする番。3人で力を合わせて 必ず救い出してみせる。愛するママへ。あなたの子供たちより』
 
 
photo  実は…父から話を聞いたあと、子供たちはすぐに母を助けるべく行動を開始。 そして、『母を救ってください』というタイトルのホームページを立ち上げた。
 すると…ホームページを見た人々から手紙が届いた。 そこには、『あなたが釈放されることを待っている人が多くいるのよ。希望を捨てないでね。』と書かれていた。 差出人はみな、マリーをよく知る近所の人たちだった。 それは、彼女が長い間、良い人間であろうと、誠実に生きてきた証だった。
 やがてマスコミを通じて、子どもたちの活動を知った人々が動き出した。 マリーを救うために司法機関に多くのメッセージが送られたのだ。
 
 
photo  そして裁判が始まった。 30年以上も前の事件だったため、弁護士は真相の究明が難しく、無実を証明することは難しいと判断。 そこで、麻薬密売の罪を争うのではなく、与えられた刑期が長すぎるということを主張した。 すると、異例の判決が出る。
 脱獄に関しては、執行猶予付きの判決。 そして残りの刑期18年については、わずか13ヶ月へと大幅に減刑されたのである。
 
 
photo  それは脱獄してから長い間、良き母としてだけでなく、地域の人に愛される良き市民として暮らし続けたこと。 さらに彼女を救って欲しいと、多くの人が司法機関にメッセージを送ったこと、すべてを考慮した上での判断だった。 そして…マリーは出所し、家族と再会を果たした。
 
 
photo  マリーさんが釈放されてから9年。 今家族はどうしているのだろうか? 家を訪ねたスタッフをマリーさんと、2人のお子さんが迎えてくれた。 仕事の関係でご主人と長女のモウリーンさんは不在だったが、元気に暮らしているという。
 過去を知ってお母さんとの関係性は変わりましたか?という質問をしたところ…
ケイティー「いいえ。以前となにも変わらないわ」
アラン「一緒だよ。変わらず家族として、これからも僕たちはお互いをずっと支え続けるさ。」
9年経った今でもウォルシュ家は変わらず幸せに暮らしているようだ。
 マリーさんの母はすでに他界してしまっていたが、父とは今も頻繁に連絡を取り合っているという。 最後にマリーさんはこう話してくれた。
「家族にとってとても辛い経験でした。でも(私の過去を知った後も)家族や周りの多くの人たちは支え続けてくれました。私は本当に幸せです。」