9月7日 オンエア
勇気 〜偶然の連鎖が起こした奇跡の救出劇〜
 
 
photo  現場となったのは、千葉県白井市 国道464号。 今年5月23日の朝、伊東都さん(50歳)は、職場へ向けて車を走らせていた。 実はこの朝、彼女は携帯電話を忘れたことに気づき、一旦家に戻っていた。 そのため、いつもより15分ほど遅れて、この場所に差しかかっていた。
 その時、伊東さんは、かすかな違和感を覚えたという。 この道は片側二車線の一方通行。 いつもなら50キロ程で車が流れている。 しかし、何故か今日は、前を行く車が、次々と車線変更をしていた。
 
 
photo  その時! 前を走るトラックが、側壁に車体をこすりつけるようにして、白煙を上げながら走っていたのだ。 しかもブレーキランプは点灯していなかった。 伊東さんは、スピードを上げ…右車線に出るとトラックと並走。 運転席を覗き込んだ。 すると、運転手はハンドルから手を離し、助手席側に倒れこんでいた!
 
 
photo  500メートル先には、駅前の交差点がある。 この時間は、通勤や通学の人々でかなり混雑する場所。 もしそんなところに、トラックが突っ込んでいったら、大惨事になる。 伊東さんは、自分が止めるしかないと思い、自分の車をトラックの前に入り込ませた。
 今、走っている道は下り坂のため、トラックのスピードは加速しているように感じた。 そのため、上り坂に差し掛かって、スピードが緩んだところで自分の車をぶつけ、止めようと考えたのだ。
 
 
photo  しかし、トラックは2トン車、下手をすると自分自身も無傷ではいられない。 伊東さんが迷っていたその時、何と暴走するトラックとの間に割って入る乗用車が現れた。 間に入った乗用車はすぐに停車。
 トラックを止めたのは、長原桂三さん(40歳)。 車の検査機器を製造する会社の社員だった。 長原さんは、安全運転管理者という資格を所持していて、講習で事故の映像をたくさん見ていたこともあり、トラックを止めらると判断したのだ。 さらに、AEDの講習を受け、救命率が時間とともに急激に落ちていくという知識があった。そのため、一刻を争う状況だということが分かっていた。
 
 
photo  長原さんがトラックを止められると判断した理由の1つは、スピード。 実際、トラックは壁に車体をこすりながら走っていた。 さらに平坦な場所にさしかかっていたことから、スピードは落ち、時速40キロを下回っていたと考えられる。
 また、車体をトラックに少しずつぶつけ、減速させてから停止させた方が安全にも思えるが、それもかなりの運転技術が求められる。 隣の車線にはじきとばされないよう、自分の車を真っすぐに止め、追突させる方が確実だと判断したのだ。
 
 
photo  運転手の様子を見て、何かしら救命措置を行う必要があることは、すぐに分かった。 しかし、長原さんはまず、後続車の誘導にあたった。 何故なら…トラックを止めても、そこに後続車が追突して二次災害が起きては元も子もない、そう考えたからだ。
 そして、電話で救急車を呼んだ。 命の危険にさらされている運転手は、自分が何とかしなければ…そう思っていたのだが、後続車の誘導に手いっぱいで、運転手の元に行く事すらできないでいた。
 
 
photo  その時、伊東さんが駆けつけ、救急車を呼んだことを確認すると、慣れた手つきで運転手の容体を確認し始めた。 実は、彼女は総合病院で看護部長を勤める、ベテラン看護師だったのである。
 意識や脈がない状態の原因を知るため、瞳孔を確認。 頭の病気であれば左右で瞳孔の大きさが異なるのだが、大きさに違いが見られなかったため、心臓の病気による意識障害の可能性が高いと判断。 心臓マッサージが必要だったが、平らな場所でなければ、心臓マッサージはできない。 運転手をトラックから下ろさなければならなかったが、この高さから引きずり下ろせば、運転手も伊東さんも大怪我をする可能性が高かった。 そこで、下ろすのを手伝ってくれる助けを求めた。
 
 
photo  協力を申し出てくれたのは、小畠聡さん。 彼も通勤中、異変に気付き、車を止めて駆けつけたのだった。 小畠さんは仕事で常日頃から重い荷物を運んでいた。 そのため、人ひとりを担ぐくらいワケがなかった。
 
 
photo  小畠さんが運転手を車の脇に降ろると、伊東さんがすぐに心臓マッサージを始めた。 本来であれば、車の陰など、より安全な場所に運びたいところだった。 だが、一刻を争うこの状況では、ただちに心臓マッサージを行う事の方が重要だった。
 専門家に確認したところ、この状況下で車外に出る場合、車の後方はもちろん、実は前方も後続車から死角になるという。 車もろとも追突される危険がある。 後方から見える「車の横」という位置は、最善と言えるのでは…とのことだった。
 
 
photo  小畠さんは、AEDを探しに行った。 救急隊の到着と、どちらが早いかわからない。 だが命を救うために自分ができる最大限のことを尽くす、そこにいる皆が同じ気持ちだった。
 心臓マッサージをはじめて3分ほど経った頃、運転手が1度だけだがあえぐような呼吸をした。 伊東さんは、必死で心臓マッサージを続けた。 すると、小畠さんがAEDを見つけるよりも先に救急隊が到着。 救急隊到着までの20分間、1人心臓マッサージを続けた伊東さんの膝は、血まみれになっていた。
 
 
photo  運転手はそれまでいたって健康な60代の男性。 突発性の心筋梗塞によって意識を失ったことがわかった。 その後ドクターヘリで病院へと搬送されたが、意識不明の重体だった。
 集中治療室に入ってから3日後、運転手は意識を取り戻した。 しかも一切、後遺症なく回復したという。 その一因は、治療にあたった医師が驚くほど、完璧な心臓マッサージが施されていたことだった。 医師は『奇跡だ』と驚いたという。
 
 
photo  しかし、今回の救出劇の背景には、まだ触れられていない更なる偶然があった。

『奇跡の偶然① トラックの荷物量』
 長原さんが止めたトラック。 実は、直前に荷物をほとんど下ろしており、偶然にも荷台が空に近い状態だった。 もしも大量の荷物が積まれていたら、衝撃で車は右車線にはじかれ、大事故を招いていたかもしれない。
 
 
photo 『奇跡の偶然② 伊東さんの忘れ物』
 伊東さんがこの日に限って忘れ物をして、いつもより15分遅れた。 その結果、ベテラン看護師である彼女が現場に居合わせ、完璧な救命処置を施すことができたのだ。
 
 
photo 『奇跡の偶然③ 3人目の協力者』
 伊東さんたちが困っていたその時、現場に通りかかった小畠さん。 実は、何と、長原さんと小畠さんは会社の同僚だったのだ。 偶然通りかかった小畠さんは、長原さんが事故に遭ったのかと思い、助けようと停車。 結果、救助に協力することになったという。
 
 
photo  男性の一命を救い、さらに二次災害も防いだという功績から、3人には、警察から感謝状が贈られた。 いくつもの偶然が重なって起きた奇跡の救出劇。 だが、何より大きかったのは、異変を目の当たりにした時、決して知らぬ顔をする事なく行動に出た、3人の勇気だったのかもしれない。
 
 
photo  3日間、生死の境をさまよったトラック運転手は、伊東さんにお礼を言いに来られるほど順調に回復。 職場復帰を目指してリハビリ中だという。
 
 
photo  その運転手から、伊東さん達にメッセージが届いた。
「この度は、奇跡的な偶然が重なり、命を助けて頂き、『感謝』の一言です。たくさんの人たちの祈りや願いなどで、まだ使命があり、生かされているのだと、確信しております。不思議な縁に心から感謝をいたします。一生忘れません。本当にありがとうございました。」
善意の連携が生んだ、大きな奇跡だった。