2月9日 オンエア
寝たきりの祖母へ 〜孫が贈る、涙の結婚披露宴〜
 
 
photo 2015年10月10日。この日結婚式を迎えた新郎。
彼には生まれた時から、ずっとかわいがってくれた大好きなおばあちゃんがいた。だが彼女は2年前から入院中。寝たきりで、病室からは一歩も出られない状態。愛する孫の結婚式に出席することは不可能だった。
ところが…なんと、念願叶い、孫の結婚式に出席することができたのである。いったい、どうやって?
始まりは今から2年前の4月、愛知県犬山市。その日、入院中の祖母、嘉子さんを見舞いに高木紀和さんが東京からやってきた。
1986年に愛知県犬山市に生まれた紀和さんは、大学を卒業後上京して就職。3年間勤めたのち、自らインターネット関連のベンチャー企業を立ち上げ、忙しい日々を送っていた。
 
 
photo 一方嘉子さんは当時、90歳。胃潰瘍で倒れ2年間の闘病生活を送っていた。
手術後は体調が優れず、意識はあるものの、言葉を発したり体を動かしたりすることはできない、ほとんど寝たきりの状態だった。
この日、紀和さんは婚約者の奈々さんをつれてきた。結婚式が半年後の10月に決まり、入院中の嘉子さんに挨拶と報告にきたのだ。いつも『自分の家族は、世界一の家族だ!』と恋人に自慢するほど、紀和さんにとって家族は特別な存在だった。
 
 
photo 中でも特に祖母の嘉子さんは、大好きな鍋焼きうどんを作ってくれたり、テストでいい点を取ると褒めてくれたり、進学・就職など晴れの舞台を誰よりも喜んでくれた。
だがこの時の嘉子さんは、意識はあるものの、言葉を返す事も手を握り返す事もなかった。
「紀和の結婚式を見ないうちは、死にたくても死ねないよ」と以前から話していた嘉子さん。
どうしても寝たきりのばあちゃんに式に出てもらいたい、と考えた紀和さんは、あることを思い立った。
 
 
photo そしてそのひらめきを、早速、社内のプログラマーに伝えた。紀和さんの熱意が伝わり、難しいかもしれないがやってみようという返事だった。
だが実現にはさらに多くの協力者が必要で、遠隔操作を専門分野とする大学の研究室、アイデアの実現に絶対に欠かせないある物を借りるため、知り合いの会社にも協力を仰いだ。
紀和さんがどうしても借りたかったもの、それはロボット。いったい、なにを始めようというのか?
実は、紀和さんの会社が開発しているのは、バーチャル・リアリティ関連のシステムだった。
 
 
photo バーチャル・リアリティとは、特殊なゴーグルをつける事によって、そこに映し出された映像世界をあたかも現実のように認識させる技術。
この技術を使えば、離れた場所にいても嘉子さんに結婚式に参加したように感じてもらえる、紀和さんはそう考えたのだ。
彼が協力を求めたのはゴーグルの開発者、ロボットの遠隔操作とカメラの開発をしている慶応義塾大学の大学の研究者、さらにロボットのペッパーの貸し出しをする会社だった。
 
 
photo それから間もなく、紀和さんは一度、嘉子さんに計画を伝えるために愛知に帰った。
「おばあちゃん。VRって技術を使えば、おばあちゃんも僕たちの結婚式に参加できるんだ。だから元気になってね。」
どれだけ理解できたかわからなかったが、それでも伝えずにはいられなかった。
そして、結婚式の4ヶ月前にあたる、6月。紀和さんが協力を仰いだメンバーが一同に会し、他に類をみないチャレンジがスタートした。
 
 
photo ヴァーチャル・リアリティの技術を使う紀和さんの計画は、東京の披露宴会場にカメラを搭載したペッパーを置き、愛知の病院では患者にゴーグルをつけてもらう。患者が頭を動かすとそれに合わせてペッパーに搭載されたカメラが動き、ゴーグルに映像が送られてくる。これにより病院にいながら、あたかも結婚式に参加しているように感じる事が出来るのだ。
だが、嘉子さんの場合、そう簡単にはいかない問題があった。寝たきりの状態で、ほとんど首を動かすことができなかったのだ。
 
 
photo そこで彼らが思いついたのは、とんでもないアイデアだった。視線を動かすとゴーグルがその動きを感知、ペッパーに伝えることで、カメラが同じ動きをするようにしたのである。
これにより嘉子さんは首を動かさずとも、式場内を自由に見ることが出来るようになった。
だが、このシステムの実現には、超えなければならない大きな壁があった。それは病院と式場のインターネット回線。両方とも速度が遅く、大量のデータを瞬時にやり取りすることが難しかったのだ。
 
 
photo そのため、視線を動かしてからカメラの映像が動くまでに、わずかな遅れが生じてしまう。その遅れが0.2秒以上になると、脳が混乱をきたし気分が悪くなってしまうのだ。
実験は難航。メンバーの誰もが本来の仕事を持っているため、プロジェクトは深夜に行われることが多くなり、体への負担も大きくなっていった。
そして9月の終わりに差し掛かったある日。
ゴーグルの映像がスムーズに動くことが確認できた。画質を落とし、送るデータの量を少なくすることでようやく映像の遅れを解消したのだ。
 
 
photo だがインターネットは周囲の回線の利用状況に左右されることがある。遅い回線の場合その影響が特に大きく、映像が途切れがちになってしまうのだ。披露宴は2時間以上もある。回線の速度が遅い状態では、たとえ画質を落としても、長時間安定して映像を送り続けることは不可能だった。
結婚式まであと2週間。回線に問題を抱え、プロジェクトは暗礁に乗り上げていた。
 
 
photo と、その時、病室で予想もしていないことが起こっていた。嘉子さんの体調が、回復に向かい始めていたのである。
紀和さんの「VRって技術を使えば、おばあちゃんも僕たちの結婚式に参加できるんだ。だから元気になってね。」という言葉が嘉子さんの励みとなり、それまで以上にリハビリをがんばったことが功を奏し、体調が飛躍的に回復したのだ。紀和さんの嘉子さんを思う気持ちが、小さな奇跡を起こしていた。
 
 
photo そして紀和さんはあることを思いつく。
2015年10月10日、結婚式当日。
なんと、嘉子さんが愛知県の病院から、県内にある自宅に戻ってきた。紀和さんは、嘉子さんを一日だけ自宅に戻す事を思いついたのだ。
実は、自宅のインターネット回線の方が病院よりも遥かに速度が早かった。体のことを考えれば本来不可能な事ではあったが、体調が想像以上に回復、一日だけ、帰宅を許されたのである。
これにより一気に回線の問題が解決した。
 
 
photo そしていよいよ二人の結婚披露宴が幕を開けた。
招待客が見守る中、特別ゲストが紹介された。ロボットのペッパーだ。
「このペッパーくんは、新郎のおばあさまなんです」と司会者が紹介すると、会場からは驚きの声があがった。
嘉子さんの手が動くようになったため、ペッパーの手を動かすコントローラーも用意された。嘉子さんがボタンを押すと、ペッパーはバンザイをした。ウェディングケーキを切るところ、紀和さんと奈々さんの幸せそうな様子が見えて喜ぶ嘉子さん。 最新の技術と、祖母を思う孫の気持ち。その二つが融合したとき、奇跡は生まれた。
 
 
photo さらに披露宴で、紀和さんと奈々さんの二人にサプライズがあった。春まで字を書けないほどだった嘉子さんが、二人にお礼を言いたいという気持ちから一生懸命練習をして、メッセージカードを書いてくれたのだ。
孫の気持ちに応えたい嘉子さんの思いが詰まったカード。
この春、嘉子さんはひいおばあちゃんになる。4月に奈々さんは出産予定だ。