3月10日 オンエア
女子高校生リンチの真相★空想暴走族の正体
 
 
photo  元警視庁の警視で、現役時代は公安部などで捜査に尽力した江藤史朗さん。 現在も危機管理のスペシャリストとして活躍している。 そんな江藤さんの脳裏に、今でも焼きついている事件がある。
 今から10年ほど前、江藤さんは都内のいくつかの警察署を周り、少年事件の捜査指導を行っていた。 その事件を担当した警察署は、若者に人気の繁華街を管轄していたため、暴走族や若者同士の事件を数多く扱っていた。
 ある日、病院から通報がはいった。 被害者は16歳の女子高校生。暴走族の仲間にリンチにあったというものだった。 暴走族内での、未成年のメンバーによる傷害事件ということで、少年係が通報のあった病院へ向かった。
 
 
photo  被害者は近藤美雪、16歳。私立高校の1年生だった。 彼女が所属していたのは『紅薔薇』という、少女だけの暴走族で、メンバーは30人ほどだという。 そして、美雪が仲間にリンチにあった理由は、彼女が『紅薔薇』を抜けようとしたためだった。
マユミとユカという2人のメンバーにリンチされたという。
 しかし、美雪はそのマユミとユカがどこに住んでいるのかも知らなかった。 さらに、彼女たちが所属していた『紅薔薇』は、集会はほとんどやっておらず、縄張りもないという。 ただ、メンバーたちは『紅薔薇』を名乗って勝手に活動しているという。
 
 
photo  美雪は、暴走族に興味を持ってインターネットで調べているうちに、あるサイトのチャットで紅薔薇のマユミと知り合い、誘われてメンバーになったという。 チャットとは、見知らぬ相手や友人同士など、複数の人たちがリアルタイムで文字入力して会話ができるツールのこと。 今でいうLINEのようなもので、若者の間で流行っていた。
 
 
photo  美雪はメンバーとはチャットでやりとりをしていたが、マユミとユカと親しくなったため、携帯のメールでも連絡を取り合うようになったという。 そこで警察は、美由紀の携帯に登録されていたメールアドレスから2人の身元の割り出しを行った。 携帯電話の契約者はマユミとユカの親のようだった。 住民票を調べてみると、どちらも17歳の娘がいることが分かった。 だが…「マユミ」と「ユカ」という名前は、偽名である可能性が高かった。
 
 
photo  2人は本当に傷害事件の犯人なのか? 警察は確証を得るため、張り込みを行った。 マユミだと思われたのは、私立の女子校に通う、17歳の高校2年生。 そしてユカだと思われたのは、公立高校に通う、同じく17歳の少女だった。
 警察は、2人の日常の行動をチェックするとともに、密かに写真撮影を行った。 そして…美雪に2人の写真を見せ、確かめると…警察がつきとめた2人に間違いないことが分かった。 確証を得た警察は、すぐに2人を署に連行、取り調べを行った。
 
 
photo  これでリンチ事件は解決したと思われた。 ところが…マユミとユカは、『紅薔薇』のリーダーである「サキ」に命令され、仕方なく美雪をリンチしたと供述した。 さらに、サキのバックにはすごく怖い人たちがついているという。
 絶対的なリーダーであるサキは、2人に偽名をつけ、さらに他のメンバーにも同じように偽の名前を与えていた。 リンチされた美雪は、『紅薔薇』に入ったばかりだったため、まだ名前を与えてもらっておらず、他のメンバーが偽名であることも知らなかったのだ。
 
 
photo  さらに、2人の証言から思いがけない事実が判明した。 なんと、2人ともサキに会ったことがなく、顔も知らないというのだ! 彼女たちがサキと知り合ったのは、ネットのチャットだった。 それは、もともとは暴走族に興味を持つ女子高生たちの集まるチャットで、サキは後から加わった。 するとサキは、メンバーたちを過激な言葉で圧倒し、やがてリーダーに君臨。 『紅薔薇』を結成すると、メンバーたちを支配し始めたという。
 サキからの命令はメールで送られてきたが、それは携帯電話からではなく、パソコンからだった。 マユミとユカは、サキに対する恐怖心から犯行におよんだのだ。
 
 
photo  警察は、事件の黒幕とされるサキの捜査を開始した。 警察はサキが使っているメールのIPアドレスの分析を行った。
 IPアドレスとは、パソコンの住所のようなもので、IPアドレスには、インターネットに繋がれた全てのパソコンの位置や所有者といった情報などが含まれている。 パソコンや携帯に送られてきたメールを分析すると、送信したパソコンのIPアドレスがわかり、どこから送ってきたのか判別することが可能だった。
 
 
photo  サキのメールは意外なところから送られてきていた。 そこは…学校内のパソコンルームだった! 警察は学校の協力を得て、パソコンルームに隠しカメラを設置し、録画することにした。 サキを名乗る人物がメンバーに送ったメールは、すべて学校のパソコンルームから送られていた。 そして監視カメラのことは、メールが送られた時間帯にアリバイが確認された校長以外には極秘にされた。
 
 
photo  それから警察は、マユミとユカに協力してもらい、連絡が欲しいと携帯からサキにメールを送ってもらった。 すると間もなく…サキからメールの返信がきた。 IPアドレスを調べた結果、サキからのメールは、確かに学校のパソコンから送られていた。
 警察はすぐにパソコンルームに仕掛けた隠しカメラの録画映像を確認した。 隠しカメラに映っていたのは、14歳の女子中学生、桐谷亜美だった。 この学校は有名大学の付属学校で小中高一貫のエリート校だったが、中でも彼女は勉強熱心で成績優秀、教師たちにも評判のよい優等生だったのだ!
 
 
photo  桐谷亜美は、あっさり自分が「サキ」であることを認めた。 しかし…マユミとユカが実際に美雪にリンチを行ったことを知らせると、驚愕した。 桐谷亜美は、自分が指示したことが実際に行われているとは思っておらず…全てバーチャルなゲームだと思っていたのだ。 『紅薔薇』のメンバーも全員それを承知していると思っていた。
 さらに…亜美は、メンバーに「エリカ」や「カレン」という名前をつけ、タイマンするように命令していた。 しかし、それは全部、漫画に登場する名前や出来事だったのだ! そう、亜美は漫画を真似てネットに書き込んでいただけだったのだ!
 
 
photo  学校に限らず、家でも模範的な少女だった亜美が暴走族の漫画を読むようになったのは、この2年ほど前の小学生の時のこと。 クラスの男の子たちの間で流行っていた少年漫画雑誌に興味を持ち、貸してもらったことがきっかけだった。
 亜美は特に暴走族の漫画に引きつけられたのだが、それには理由があった。 小学生の時、暴走族がうるさく迷惑していたものの、暴走族とはどんな人たちなのか興味がわいたという。 そして…漫画を読み、面白いと思い…どんどんハマっていったという。
 
 
photo  同じ頃、彼女はネットで暴走族に興味のある女子高生たちが集まっていたチャットに、サキという偽名を使い、少年漫画で見たことを書き込んだ。 それは…まだ小学生だった亜美にとって、バーチャルな遊びに過ぎなかった。 ところが、その過激な言葉にメンバーたちは一目置くようになり、勝手に自分たちより年上だと思い込んだ。 その結果、いつのまにか彼女はリーダー的な存在になった。
 
 
photo  そこで亜美は、バーチャルな遊びを拡大して、中学に進学してまもなく…『紅薔薇』を結成。 しかし、亜美本人に女子高生たちをリアルに支配しているつもりはまったくなかった。
だがメンバーたちは、少年漫画を読んでいなかったので、フィクションを元にしたバーチャルな世界が作り上げられていることに気づかなかったという。
 学校のパソコンを使用していたのも、家には自由に使えるパソコンはなかったからだった。 亜美はまだ携帯電話すら持っていなかったのだ。
 
 
photo  警察の調べによって、近藤美雪の傷害事件以外にも、亜美の指示で引き起こされた複数のリンチ事件が浮かび上がった。 だが、家庭裁判所は、彼女に本当にリンチが行われるとの認識はなかったと判断。 少年院に送るのではなく、社会生活を送りながら専門家の指導のもとで更生を促す、保護観察処分とした。 また、リンチを実行したマユミとユカも、恐怖にかられ犯行を犯したとして、亜美同様、保護観察処分にするとの判断が下された。