6月19日 オンエア
謎の病原体!?★世界中で発症者急増中
 
 人の体が壊れ始めていた。
手の施しようもなく・・・恐ろしいことが世界中で広がっていた。
 今から20年ほど前、ある高校生の身にもそれは突然襲いかかった。 新学期が始まって間もない、5月のこと。
 
photo 高校生活は順調そのもの。勉強にも部活にも積極的に取り組み、気持ちは充実していた。
ある日の帰り道、チョコドーナツを食べながら 仲間たちとくつろいでいた。 部活後の楽しいひととき。
 しかし この日は、それが悪夢に変わった。 突然、呼吸困難に陥り、手足が痙攣しはじめた。 病院に運び込まれた時、彼はほとんど呼吸が出来ない状態で、意識を失っていた。 人工呼吸器で何とか呼吸を確保。 しかし、体中に赤い痣のような湿疹が現れた。 そして、倒れてから20日後、彼は帰らぬ人となった。
 
 
photo  同じ頃、アメリカ西海岸のカリフォルニア州で造園業を営んでいたローレンスにも、それは突然襲いかかった。 仕事を切り上げようとしたその時、ローレンスは、突如 呼吸困難に陥った。 彼の体には、日本の高校生と同じような異変が現れていた。 病院に運び込まれたローレンスは、幸運にも命を取り留めた。
 日本の高校生やアメリカのローレンスのようなケースは、決して特別なことではない。 今、こうした異変に襲われる人が全世界で急増しているのだ。 彼らの体に起こったのは、現代人を悩ませる、ある症状と全く同じものだった。 それは・・・花粉症。
 花粉症は、本来は人には無害なはずの花粉やチリなどに体内の免疫が過敏に反応するアレルギー症状。 実は、男子校生Aさんや、アメリカのローレンスに襲いかかっていたのは、非常に強いアレルギーの症状だったのだ。
 
 
photo  高校生Aさんの場合。 チョコレートに強いアレルギー反応を起こしたことが判明した。 それまでは、チョコレートを普通に食べていたが問題は起こらなかったという。 花粉症がある時 突然始まるように、チョコレートアレルギーは突如 発症したのだ!
 一方、アメリカのローレンスは、猫の毛に対して激しいアレルギー反応を起こしていた。 そして彼の場合も、強いアレルギーは突然始まった!!
 
 日本アレルギー協会によると、現代社会には花粉症や喘息をはじめ様々なアレルギーがあり、患者は増加しているという。 原因は はっきりしていないが、一般的には免疫に何らかのエラーが起こり、本来無害な物を攻撃することで起こるとされている。
 
photo  だが、そんなアレルギーに対し、大胆な仮説を立て、驚くべき実験を行った人物がいた。 イギリスのデヴィッド・プリチャード博士。 彼は 人間をあるモノに感染させる実験を行った。 それは、寄生虫。
 実験に使われたのは、腸に寄生する鉤虫(こうちゅう)と呼ばれる虫だった。 卵や幼虫の時は、20分の1mmほどの大きさだが、人間の腸の中で1cmほどにまで成長する。 現在、世界でおよそ13億人が感染していると言われ、アフリカや南米など、開発途上地域での感染率は特に高い。 衛生環境の整った先進国では、ほぼ見られなくなった鉤虫だが、それをなぜ わざわざ感染させたのか?
 
 
photo  実は、鉤虫感染者の多い地域では、花粉症などのアレルギーが見られないという研究報告が何例も上がっていたのだ。 そこでプリチャード博士は、アレルギーの原因について、次のような仮説を立てた。
 何百万年もの間、人と共存してきた寄生虫。 しかし、社会が清潔になっていく中で、それはどんどん駆除されていった。 すると、今まで寄生虫に対して働いていた体内の免疫は、敵を失ってしまう。 そこで、寄生虫に変わる新たな敵として、本来 人間には無害な花粉や食べ物などを攻撃、過剰に反応している。 それが、アレルギーの原因ではないかと。 つまり、寄生虫がいなくなったことが、免疫のエラーを引き起こしているというのだ!
 
 寄生虫を体内に入れ、免疫に本来の敵を与えれば、アレルギー反応はおさまるはず。 それを証明するため、博士は 鉤虫の感染実験を行った。
 
photo まずは、寄生虫に感染していない人の体が何匹の鉤虫に耐えられるのか? 博士と仲間の研究者たちが体を張って確認した。
 10匹、25匹、50匹、100匹と、鉤虫の幼虫を入れた液体を作成。 それをガーゼにしみ込ませて、皮膚に接触させる。 すると、肌を食い破り、体内へと侵入するのだ。
 鉤虫の幼虫は、自然の状態では土の中にいて、主に裸足で歩いている人の皮膚から体内に入り込む。 血流に乗って、心臓から肺へと運ばれ、のどへ移動。 そこから消化管に入って、腸に定着する。
 
 
photo  だが、そもそも鉤虫などの寄生虫に感染しても大丈夫なのだろうか? 最先端の寄生虫研究に詳しい専門家・防衛医科大学校 宮平靖教授によると、寄生虫に感染する量によって異なってくるという。 少数感染の場合、無自覚無症状のまま、長期間 寄生虫と共存して生活している人は多数いるが、大量感染の場合は、治療が必要だという。
 
 
photo  プリチャード博士の事前実験の結果、体調を崩さなかったのは、10匹以下の鉤虫に感染した研究者たちだった。 そこで、10匹までが副作用のない安全な数だと決定された。
 そしていよいよ、一般の人たちへの実験が行われた。 花粉症と喘息患者、合計31人を鉤虫10匹に感染させ、症状の変化を調査。 しかし・・・花粉症と喘息の症状にはっきりとした改善は見られなかった。
 実は、博士が調査した開発途上地域の人々は、平均で23匹もの鉤虫に感染していた。 鉤虫の数を20匹ほどにすれば、効果は期待できるかもしれない。 しかし、副作用のリスクは否定できない。
 
 
photo  冒頭で紹介したアメリカの造園師・ローレンス。 猫の毛に対して激しいアレルギー反応を起こした彼は、一命を取り留めたが、その後 ひどい喘息に苦しみ、花粉症にも悩まされるようになっていた。 そんな彼は、治療法を探し求めるうち、プリチャード博士の感染実験を知り、強い興味を抱く。
 そして、彼は鉤虫が多く潜んでいるアフリカに向かった。 そこで、ローレンスは 鉤虫が潜んでいそうな泥の中を裸足で歩き回ったのだ!! すると、カリフォルニアに戻った後、喘息の発作はおさまってしまったという! 猫の毛も花粉も平気になったというのだ。

 
 
photo  そして、アレルギーから解放されたローレンスは、思いがけない行動に出る。 アフリカで感染した鉤虫を、お腹の中で繁殖させ始めたのである!! そして、自分の便から取り出した卵をふ化させ、感染力のある幼虫へ育てると、アレルギー症状に苦しむ人たちに向け、インターネットで鉤虫を売り出すことにしたのだ!
 これが、アレルギー疾患で苦しむ人たちの間で話題となり、マスメディアも注目。 ローレンスは脚光を浴びるようになっていった。
 
 
photo  そんなとき、食品衛生局の局員がローレンスの家へやって来た。 食品衛生局、それは、アメリカ国内の食品や医薬品などを監視して、取り締まりを行う政府機関。 アレルギーを抑える目的の寄生虫は薬品と見なされ、無許可での販売は違法となる。 販売を続ければ、罰金だけではなく、逮捕される可能性もある。
 数日後、食品衛生局の局員が再びローレンスの家を訪れると・・・ ローレンスは、何もかもを捨てて、アメリカから逃げ出していた! だが、彼の寄生虫販売をきっかけにして、法律の目を搔い潜るかのように、無認可の寄生虫販売が広まっていった。
 
 そして、こうしたアンダーグラウンドの寄生虫販売の様子を注意深く見つめている男性がいた。 深刻なアレルギーを抱えていたその男性は、やがて、寄生虫の闇ディーラーと取り引き。
 
photo 安全な基準を超える数の寄生虫に感染した。 我々は、その男性に接触!!
 モイセズ・ベラスケス・マノフさん、39歳。 モイセズさんは、長年 体の異変に苦しめられていた。 11歳で髪の毛が抜け始め・・・その後、2〜3年の間に全身の毛が全て抜け落ちてしまったのだ。 体内の免疫が、毛根付近の細胞を体に害を及ぼす敵と勘違いして攻撃するため、次々と毛が抜け落ちてしまうという。 免疫が敵を間違える、アレルギー症状と診断された。
 
 モイセズさんは、現在、科学ジャーナリストとして、ニューヨークタイムズマガジンなど、名だたるメディアに記事を発表している。 そんな彼は、常にアレルギーという謎めいた存在に惹きつけられていた。
 
photo そして、4年前に結婚して子供を授かったとき、自分の子供もアレルギーに苦しみ可能性があると考え、それを克服する方法を真剣に調べ始めたという。
 モイセズさんは、アレルギーに関する 約8500本もの研究論文を読み、資料のデータベースを作った。 さらに、南米の原始的な生活をしている部族を実際に訪ね、寄生虫に感染している人たちには、アレルギーが見られないことを自分の目で確かめた。 そして、寄生虫に感染してみようと決断した。
 
 
photo  モイセズさんは、インターネットを通じて アンダーグラウンドの寄生虫ディーラーに接触した。 待ち合わせ場所は、カリフォルニア州南部のサンディエゴ。 アメリカ国内で、治療を目的として寄生虫に感染させることは違法にあたる。
 そのため、寄生虫ディーラーはモイセズさんをメキシコのティファナに連れ出した。 寄生虫に感染する手順は、イギリスのプリチャード博士が実験で行ったのと同じやり方だった。 鉤虫の入った液体をガーゼに染み込ませ、腕に固定。 1分もしないうちに、鉤虫が皮膚に穴をあけ、血管の中に入り始めた。 すぐに腕がヒリヒリし、突き刺さるようなかゆみを感じたという。
 
 そのとき、寄生虫ディーラーが「30匹にしておいたよ。30匹なら効果てきめんだ」と言ったのだ! 実験で安全性が確認されているのは、10匹まで。 健康に影響がででも、おかしくない数である。
 
photo  さらに、1週間くらいすると、のどのあたりに違和感を感じ、咳が出る可能性があるが、咳が出ても唾を吐き出してはダメだという。 先にも説明したように、通常 鉤虫は皮膚から体内に入り込み、血流に乗って心臓から肺へと運ばれ、のどへと移動。 そのとき、のどに違和感を感じ、咳が出るというのだが、唾を吐き出すと鉤虫まで吐き出すことになってしまうという。
 こうして、30匹の鉤虫に感染。 体外に放出することなく、1週間が経過した。 すると・・・肌がムズムズするような感じがした後、軽いインフルエンザのような症状になったという。 さらに、激しい腹痛にも襲われた。
 
 
photo  そして、感染から1ヶ月が経った頃。 眉毛が生えてきたという!! 10代の時に失った毛が、うっすらとだが再び生えてきたのだというのだ。 さらに、はっきりとした変化が・・何と、花粉症が治ってしまったという!
 見事、アレルギーを克服! と、思われたのだが、寄生虫の効果は徐々に薄れなくなっていったという。 それにも関わらず、腹痛は続いていたため、モイセズさんは鉤虫を全部 体内から追い出した。
 
 寄生虫に慣れていない先進国の人が、突然、鉤虫に感染したときの反応には個人差がある。 モイセズさんの場合、副作用が強く、寄生虫による効果も限られたものだった可能性があった。 彼の体は、感染する前の状態に戻り始めている。
 
photo  しかし、寄生虫がアレルギーに何らかの作用を及ぼすことを、身をもって体験できたことが収穫だったという。 モイセズさんは、寄生虫に感染した体験と、8500本にもおよぶ論文の情報を『寄生虫なき病』と題した書物にまとめ、発表。 現代医学に対する問題提起を行った。
 急速に発展してきた社会は、寄生虫や細菌などを、病の元凶として排除してきた。 しかし、皮肉にも それはアレルギーという現代の病を生んでしまったのかもしれない。