12月12日 オンエア
奇跡を運ぶノラ猫★人生ドン底男とのキズナ
 
photo  人口一千万人の大都市、イギリス・ロンドン。 今から6年前、28歳の青年、ジェームズ・ボーエンは、最悪の人生を送っていた。
 職業は売れないストリートミュージシャン。 朝から晩まで演奏し続けても、稼ぎは1日3000円がやっと。 ロックスターになるという夢はとっくに消え失せ、毎日ただ食べていくために路上で演奏を続けていた。
 
photo  さらに、ジェームズは重度のヘロイン中毒だった。 路上で行き倒れていたところ、ボランティア団体のサポートを受け、公営アパートに入居。 薬物依存更生プログラムを受け始めたばかりだった。
 薬物依存を克服するプログラムの1つに、医師が処方する合成麻薬を飲む方法がある。 徐々に強いものから弱いものに変えていくのだが、ジェームズは未だに強い合成麻薬から抜け出せないでいた。
 
photo  そんなある日のこと。 アパートの前に一匹のノラ猫がいた。 翌日も、そのノラ猫はいた。 よく見ると、ネコは傷を負っていた。 ジェームズはネコと自分がタブって見えた。
 イギリスで生まれたジェームズは、3歳の時に両親が離婚。 母と共にオーストラリアに移住したのだが、ジェームズは、転校する先々でいじめにあった。 さらに、母の再婚相手とも折り合いが悪く、学校にも家にも居場所がなかった。
 そして18歳で、ロックミュージシャンを目指し、逃げるようにロンドンに旅立ったものの、すぐに挫折。 路上生活を続けるうち、寒さと孤独を紛らわせるため、ヘロインに手を出してしまったのだ。
 
 ジェームズは、ネコを病院に連れて行った。 治療代は22ポンド(約3600円)、それはジェームズの持ち金の全てだった。 そして、ジェームズは、ネコの傷が治るまでの2週間、ネコの世話をすることにした。
photo  だが、いつしかジェームズは、ネコとの生活を楽しく感じるようになっていた。 しかし、あっという間に2週間が過ぎた。 ネコを飼う余裕のないジェームズは、ネコを遠い公園まで連れて行き、置いていった。
 その日、帰宅すると、ネコは数キロ離れた公園からアパートに戻ってきていた。 そして2人は一緒に暮らし始めた。 ジェームズはノラ猫に『ボブ』と名付けた。 大都会ロンドンで孤独に生きてきた2人にとって、お互い初めて出来た友達だった。
 
photo  ノラ猫ボブと一緒に暮らし始めたものの、収入は自分一人が食べていくのがやっとだった。 ある日、ボブがついてきてしまったため、ボブを連れてストリートで演奏していた。 いつもは何時間演奏しても見向きもされなのだが、この日は普段の3倍の収入があった。
 それからジェームズは、毎日ボブと一緒に行動した。 バスに乗るのも一緒、片時も側を離れることはなかった。 そして、ボブの不思議な魅力に引き寄せられ、多くの人が足を止めてくれるようになった。 ジェームズの生活は一変した。 クリスマスが近づく頃には、多くの常連客がつくようになったのである。
 
photo  だが、突然、ジェームズは、脅迫罪の容疑で逮捕されてしまった! 客に謝礼を強要しているのを見たという通報があったというのだ。 そんなことはしていないと主張したが、ジェームズのいい分は聞き入れてもらえず、有罪に。 執行猶予はついたものの、もう一度捕まれば懲役刑になる。
 路上で歌うことは禁じられてしまった。 ミュージシャンの夢は完全に絶たれた。 そのストレスから、強い合成麻薬に手が伸びてしまう。
 
photo  このままでは生活ができない・・・そう考えたジェームズは、ある雑誌の販売を始めた。 その雑誌の名は『ビッグイシュー』、ホームレスなど、生活困難者の自立を支援する団体によって、毎週発行されているカルチャー情報誌である。
 支援の仕組みは、販売員が一部1ポンドで本部から雑誌を購入、2ポンドで販売。 つまり、一冊売れば1ポンドの利益になる。 ジェームズは、その正式な販売員となり、街頭に立ち始めた。
 ジェームズは、仕事を始めてわずか2週間あまりで、トップクラスの売り上げに。 収入はストリートミュージシャンの時より少なかったが、ボブと食べていければ、それで十分だった。
 
photo  だが、またしてもジェームズを悲劇が襲った! ジェームズが自分の受け持ち地区以外で雑誌を販売しているとして、本部に他の販売員から苦情が入ったのだ。 そして、本部に出頭するように勧告されてしまった。
 もちろん、規則違反などしていない。 だが、ジェームズには思い当たる節があった。 自分の受け持ちの地区に移動するまでの間に、ボブと一緒にいる姿を写真に撮りたいなどと声をかけられることがあった。 そんなつもりは無くても、成績の良いジェームズは、他の販売員から強い嫉妬を受けていたのだ。
 
 本部に出頭し、もし販売資格を取り上げられたら、再び路上生活に舞い戻ってしまう。 先が見えない不安から薬の量も増えていった。 photo ジェームズは、本部に出頭できずにいた。 監視の目を気にしながら、毎日逃げるようにロンドン市内を渡り歩いた。
 だが、自分を見つめるボブの目を見ていたら・・・「君は間違っている 逃げちゃダメだ」と言っているように思えた。 そしてジェームズは、雑誌販売の本部に赴き、謝罪することに決めた。 どんな罰も受ける覚悟だった。 すると・・・与えられた罰は、数週間販売する時間を制限するだけだった。
 
photo  ジェームズは、合成麻薬を医師に返し、48時間の禁断症状に耐えることを決意した。 だが、その苦しみは想像以上だった。 体の中を虫が這いずり回るような不快感に襲われた。 さらに、幻聴や幻覚や・・・。
 薬の禁断症状が極限にまで達する中、ボブはずっと見守り続けてくれた。 ジェームズは、苦痛に耐え続けた・・・ボブとの生活のために。
 そして、ジェームズは地獄の48時間を絶え抜いた!! こうしてジェームズは、薬物依存から抜け出した。
 
photo  その後、更なる奇跡が起きた。 2人の物語が「ボブという名のストリート・キャット」という本になったのだ。 きっかけは、路上で雑誌を売る、ジェームズとボブの様子が編集者の目に留まったことだった。 この本はイギリスで80万部の大ヒットを記録した。
 現在2人の物語は、日本をはじめ世界27か国で翻訳出版され、多くの人々を勇気づけている。 まさに、ドン底からの奇跡の大逆転だった。
 
photo  ジェームズとボブは、今もロンドンで一緒に暮らしている。 街を歩けば、誰かが声を掛けてくる。 本で得た印税のほとんどを、捨てられた犬やネコを救済する基金に寄付してしまったというジェームズ。
 彼にとって幸せとは一体何なのだろうか?
「誰かに助けを借りることを恐れてはいけない。きっと誰かチャンスを与えてくれるよ」と、ジェームズさんは語ってくれた。