第2回は、STRAY SHEEPのすべてのはじまりである30秒の スポットアニメーションがいかにしてできたか、その経緯についてお話をします。 深夜だからできる、深夜しかできない、斬新で画期的、それでいてあたたかい番組群を提供し続けてきたフジテレビの深夜番組帯、JOCX MIDNIGHT。それらの各番組には、オープニング・スポットがもれなく放送されていました。 「8チャンねる」「ねこにコンバンワ」「ジャングル」等々さまざまなスポットが制作されフジテレビの番組に対するコダワリをアピールしつつ、深夜番組自体を活性化してきました。そのオープニングスポットの流れとして、今をときめく「スワロウテイル」の岩井俊二カントクによる「音楽美学」をひくつぎ「STRAY SHEEP」が登場したのが1994年の10月です。 1年ごとに変わるこのコンセプトワードは、局内の番組編成部の人が持ち回りで考え、そのスポットを制作するらしいです。 というわけで1994年10月からの担当がストレイシープの父、斉藤秋水氏となり、「STRAY SHEEP」というコンセプト・ワードを打ち出したわけです。 別紙面(?)に本人の弁で詳しく語られているので細かくは書きませんが「深夜というコトで、眠れない時に羊を数える…、『聖書』、夏目漱石の『三四郎』に出てくる『STRAY SHEEP』というコトバ、これらをコンセプトにアニメーションでスポットをつくりたい…」、という話がかねてからアニメーションを得意とするCMディレクター(自分でいうな!)の僕のところに原田泉プロデューサー(前作スポット「音楽美学」や「フライド・ドラゴン・フィッシュ」「打ち上げ花火 上から見るか? 横から見るか?」等岩井カントクのドラマや「水曜日の怪談」「世にも奇妙な物語」等々のプロデューサー)を通じて来ました。さっそくプランを3方向 すごくラフなカタチで斉藤秋水氏にプレゼンテーションしました。 その1 羊が一匹砂の上にねむっている〜カメラ、ズームバックして鳥瞰までひくとナスカの地上絵のような巨大な羊の絵が描かれている〜羊はその絵の中心でポツンとねていた…、同様にミステリーサークルだったりモアイ像のような巨大な石像のたもとに寝ていたり、といったビッグビジュアル系 その2 深夜、車を運転中の男、いねむりをしかけると突如、目前の路上にピョンと羊が現れ去っていく、目覚める男…、とか深夜のコインランドリーで洗濯中、いねむりをする女子大生、洗濯機の泡がみるみる羊になって…、というように眠くなると現れる羊という感じで実写の映像にアニメのキャラクターを合成するプラン その3 (実際つくるコトになったのはこの方向です。)非現実的な状況を羊が眠りながらさまよっていると不幸な目に遭い目をさます… 「サブマリン」篇は、この段階でほぼ実際つくられたカタチになっていました。「バス」篇は、「サテライト」篇という名で、宇宙をさまよっている羊が大気圏突入で火がついて目を覚ますトコロまででした。もう一篇は「UFO」篇というタイトルで、すごく牧歌的な原っぱにUFOが着地していて、そこから無数の羊があふれている、というようなプランでした。 自分としてはその3の方向が良いと思っていたところ、斉藤氏も同意してくれたのでその方向を詰めつつ、もう少しバリエーションを考えるコトにしました。アニメーションである以上、羊に具体的にカタチが必要です。ですから同時にキャラクターデザインも進めました。 アニメーションのキャラクターというと、その背景や世界観から技法にまで密接に関係してくるのでとても重要です。 自分が最初から考えていたのは、いわゆるTVマンガとかでやっているセルのアニメーションじゃないアニメーション。セルのようにキッチリとキレイにぬりわけられた無機的なものではなく、絵画のような柔らかい調子を持った絵が動くアニメーションです。(自分がこだわりつづけているアニメーションは、このようなアニメーションなワケで、この点については後日ゆっくりお話したいと思っています。) そこで、あらゆる技法を駆使するコマーシャルのアニメーション等を中心につくっているアニメーション・スタッフルームという会社に実作業をお願いするコトにしました。 先ほどもお話ししたようにキャラクターは、ストーリーとその背景に流れる精神性を人に伝える大切な役割をはたさなければいけません。それで、どのようなキャラクターのフォルムとタッチがあるのか、とにかくいろんなパターンを考えるコトにしました。一人で考えられるパターンは、たかがしれているので、アニメーションスタッフルームにキャラクターデザインを発注して全部で30近くのデザインがあがりました。それはそれはさまざまな案がありました。それらを斉藤氏と検討し、今のポーのカタチ(厳密にいうと少しずつ変わってきているのですが)に決めました。最終的には自分の考えたタイプに決まったのですが、それぞれにそれぞれの世界観があって、それはそれでおもしろいものになったと思います。 その3方向のバリエーションを考えている時、一つ問題が起こりました。いままでのプランは15秒でしか考えていなかったのに、オンエアは30秒もある、というコトです。15秒を3つつくるのと、それに加えて30秒を3つつくるのでは、当然ながら作業量が倍、違います。故にあたえられた予算と時間ではムズカシイ…、というワケであのポーの眠っている森のシチュエーションが誕生したのです。眠っているポーと夢からさめたポーでポーの遭遇する不幸をサンドウイッチするコトで夢の図式をつくったというか、悪夢の絵解きをしてあげたワケです。 実はこのような発想順序で、いつも悪夢にうなされたり、夢の世界を旅するポーのキャラクターコンセプトがハッキリしたのです。意外でしょ? だから30秒は森の中で悪夢を見てる羊なのですが、15秒はただただ不幸な羊なのです。 とはいえ作者はただただ不幸な羊を描こうとしたワケではなく、そこに一つの精神性を持たせているのですけど…。そのあたりの話は次回にお送りします。 そんなコトもあり、最終的に制作するコトになった3本のコンテを載せるので見てみて下さい。ポーのカタチや色も企画段階なのでずいぶん違いますがご了承を…。 1つは「ボトル」篇 下水道の中を瓶詰めされたポーがプカリプカリ流されてくる…。 最後にポーはいつものように「メヘヘ」と鳴くのですが瓶の中なので鳴き声も聞こえない…というかわいそうな(いつものコトか)お話です。 ポーが手前にくるまでに手のもげた人形や飼い主に捨てられて大きくなったワニなんかがカメラの前を通りすぎていく、下水道のパレード(?)といったイメージです。 もう1つは「ANTLION」篇 これはポーが蝶を無邪気に追いかけて、知らずのうちに蟻地獄に落ちてしまう悲惨なお話。ポーの動きはピョンピョンかわいらしく動かしたいと思っていたものです。動くものには無意識のうちについていってしまうクセの現れです。ポーが一人、群れや家族から離れているのもこのあたりに原因がありそうです。 By 野村辰寿 |
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