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2002年7月のある日。習志野高校の体育館に見慣れぬ男の姿があった。「男」の名前は川合俊一。言わずと知れた元全日本のスタープレイヤー、日本バレーの黄金期を支えたヒーローのひとりだ。川合は習志野の特別コーチを買って出たのだっ。
テレビで見たことのある川合の姿に好奇心まるだしの選手たち。彼らは、川合の全盛期を知らない世代。その選手たちに川合はこう言い放った。
「全国大会優勝とか、そーゆー高いレベルまでいきたいと思ってます!」
顔を見合わせる選手たち。明らかに戸惑いが見て取れる。あまりにも大きな目。
「目標は高く持たないと」と語る川合だが、高校生の指導は初めての経験。いったいどうなるのか。 |
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夏合宿は千葉の蓮沼海岸。川合川合はここでビーチバレーをやろうというの。プロのビーチバレー選手も2人参加し、練習とはいえ夏の浜辺でのちょっと変わったイベントに選手たちは盛り上がる。しかし、それもつかの間。1チーム2人のビーチバレーは、バレーとは全く勝手が違う。そのうえ、走り回ろうにも砂浜に足をとられて自由に動けない。疲労も激しい。プロ選手相手の試合では、もちろん相手になるはずもなく、人数を4人に増やすハンデをもらっても、まったく歯がたたない。
「いまコートにいる4人は仲間。仲間のミスはカバーしないと」
「人のミスをカバーしてやろう、誰か取ったらそれを追っかけてあげようっていう精神でやると…本当に強くなるから」
ポイントを的確に見抜き、わかりやすく説明していくのが川合流。無理に怒鳴ったりはしない。モットーは「明るく楽しく、そして厳しく」。
川合は、いつもの体育館から砂浜へ場所を移すことで、仲間と助け合う気持、そんなあまりにも当たり前すぎて、だから思わず忘れてしまいそうなバレーの基本を選手たちに思い出させようとしていた。 |
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8月、都内で行われた合同練習会。習志野の試合を見るのも、コーチとしてベンチ入りするのも初めてな川合は興奮気味。大いに盛り上がっている。チームも順当に勝ち進み決勝へ。相手は東京の強豪・安田学園。第1セットは獲ったものの2セット目は押され気味。13-20でリードされてのタイムアウト。川合は選手たちに軽く言った。
「このセットは負けてもいいから…」えっ?「ただ、ミスを絶対しない、ミスすると嫌な雰囲気になるだろ。イヤな思いするのは嫌じゃん、な」そうか、ミスをしなければいいのか…ここから確かにミスがなくなった習志野は一気に逆転。練習試合とはいえ優勝してしまった。
「ああ言って目標を変えてやると軽い気持ちになって、逆転しちゃったりするんだよね」と川合。
うーん、このコーチ凄いかもしれない…。 |
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秋に入ると、各地の強豪との練習試合が続いた。しかし、ここで守備を崩され、ミスが連発。順調そうに見えた習志野の欠点が露呈しはじめる。リベロの坂下が徹底的に相手から狙われたのだ。習志野のメンバーは中学時代から県の代表として活躍してきた。そんななかで、この年から唯一レギュラー入りした坂下。
2日後、「負けた原因が分からないのが、一番不安なんだ」と川合は選手たちに負けた試合のビデオを、穴が開くほど見直させた。ダメな自分を見ることは、つらい。坂下は最初から最後まで釘付けになったように画面を見つめていた。数日後、控え選手に交じって居残り練習をしている坂下の姿が。なんと頭を短く刈り込んでいる。「うまくなりたい――」。それは自らの意思が突き動かした行動だった。これも川合の考えた意識改革の表れなのか。
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12月に入り、チームはかねてからの課題であったブロックに取り組んでいた。中心はチーム一の長身、188cmのセンター久保木。中学の全国選抜にも選ばれた習志野の中心選手だ。「ブロック」は、世界と伍して戦った川合自身の代名詞でもある。川合直伝のブロックをものにできれば、大きな戦力になるのは間違いない。しかし、久保木もまた、悩んでいた。両親が営んでいる接骨院を継ぐため、専門学校に行くのか、それとも大学に進学してバレーを続けるのか…。進路の決断を迫られていた。春高出場がひとつのきっかけになるかもしれない。久保木は自らの将来を、その両手に託した。でいた。中心はチーム一の長身、188cmのセンター久保木。中学の全国選抜にも選ばれた習志野の中心選手だ。「ブロック」は、世界と伍して戦った川合自身の代名詞でもある。川合直伝のブロックをものにできれば、大きな戦力になるのは間違いない。しかし、久保木もまた、悩んでいた。両親が営んでいる接骨院を継ぐため、専門学校に行くのか、それとも大学に進学してバレーを続けるのか…。進路の決断を迫られていた。春高出場がひとつのきっかけになるかもしれない。久保木は自らの将来を、その両手に託した。 |
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年が明けて1月、新人戦にのぞんだ習志野。これでベスト4に残れば春高最終予選に出られる。秋以降実践的になってきた川合の指導で実力もついてきている。大丈夫だ。一回戦から大差で勝ち進み、準々決勝も勝利。
しかし、新人戦最終日。準決勝、習志野は苦戦を強いられるが、相手のミスに助けられ、僅差で勝利。とはいえ勝ちは勝ち、笑顔で引き上げてきた選手たち。試合を見ていた川合の目つきはいつもと違っていた。
「…なんでお前らこんな試合でビビってんだよ! ビビってんから手が遅れてくるんだろ! ケンカだよ、試合はケンカ。ケンカ腰でやってみろ!」
地の底から響いてくるような声だった。力では負けていない、気持ちの上での弱さを思い知らされた選手たち。決勝の結果がすべてを物語っていた。相手は市立松戸、習志野は完敗した。 |
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1月21日、春高最終予選を目前に控え、最後のコーチング。めずらしく川合は基本練習から参加し、選手ひとりひとりに語りかけた。そしてコートをなかなか離れようとしなかった。練習後、川合から選手たちに、試合で締めるはちまきが手渡された。1本1本に川合からメッセージが書かれていた。「楽しめ」「1セットブロック3本」「勝負どころはお前だ」…ひとつとして同じものはない。
「あとは本人たちに任すだけだもんな、楽しみだね」笑顔で去っていった川合だが、笑顔はどこかこわばっていた。
1月26日、それぞれに書き込まれた言葉を胸に、選手たちは、春高出場を決める決勝戦のコートに立った。相手は新人大会決勝で完敗した記憶も新しい市立松戸。試合は序盤から相手にペースを握られた。第1セットを失い、嫌な思いが頭をかすめる。
しかし、迎えた第2セット、主将の澤田寛年がサービスエースを連発し、流れを引き寄せた。勢いを取り戻したチームの背中を、坂下の好レシーブが後押しする。しっかりとボールをつなぎ、習志野が第2、3セットを連取し逆転。王手をかけた第4セット、あとがない市立松戸も簡単には引き下がらない。 一瞬一瞬が緊張の連続。 相手のセットポイントをしのぎ続け、28-27とはじめてリードを奪ったその直後、久保木のブロックが炸裂。川合と練習してきたブロックが最後の最後で決まったその瞬間、誰よりも大きなガッツポーズをとったのは、客席でムズムズしながら試合を見つめ続けていた川合だった。
コートに川合の長身が舞った。胴上げだ。習志野は、17年ぶりで代々木への扉を開けた。 |
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