コラム

仕掛けるブロック戦術で世界に挑む、新生・全日本男子

2014年5月16日
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2014年の全日本男子がいよいよ始動。南部監督は重責を担うことに。

写真・©Michi ISHIJIMA

 「高さとパワーにまさる海外のチームに対し、日本は技術とチームの総合力で勝っていく」

 5月13日に行われた全日本男子の記者会見で、南部正司新監督は「技術力」「団結心」という言葉を何度も繰り返した。その言葉自体は目新しくないが、練習では、思い切った戦術を実行するための緻密な組織作りがスタートしていた。

 5月23日のワールドリーグ開幕まで日数がないが、限られた練習時間の中で最も多くの時間を、ブロックとディグのシステム作りのために割いている。

 相手のパスの状況など、シチュエーションごとにブロックとディグの約束事を細かく決め、そこに選手を当てはめていく。組織の枠組み作りから入っているという点では、昨年ゲーリー・サトウ前監督が、選手個々のフォーム作りから始めたのとは対照的なアプローチだ。

 さらに、相手がAパス(セッターのもとに正確に返ったパス)の場合には、トスを見て動くリードブロックではなく、相手のデータ分析をもとに、トスが上がる前に大胆に絞り込んで動くブロックで対応しようとしている。例えば、「相手のこのローテーションはレフト攻撃が多い」というデータがあれば、ミドルブロッカーはクイックを捨ててレフトに走り2枚ブロックを形成し、それ以外の攻撃には、もう1枚のブロックとディグで対応する。

 「全部が全部止めることはできないので、どこかを捨ててでもどこかに絞るという、割り切ったシステムです」と南部監督。

 ローテーションごとに、センター、レフト、ライトのどこに絞り、どのコースをふさぐのか。それに合わせてディグはどう位置取りするのか。無数のパターンが発生するが、どのケースにも選手がオートマティックに対応できるようになるために、パターン練習が繰り返されている。

 チームの戦術面を担当するのは、パナソニックでも南部監督のもとでコーチを務めた真保綱一郎コーチだ。

 ヨーロッパでコーチングを学び、イタリア・セリエAでは、昨年までイランの監督で、今年はアルゼンチン代表監督となったジュリオ・ベラスコのもと、コーチを務めた。南部監督は、「彼に任せておけば、ブロックディフェンスのシステムをしっかり作ってくれる」と信頼を置く。

 イタリアでの経験をベースにしながら、2013/14シーズンにパナソニックでアドバイザーを務めたブラジル人、ドス サントス・ジョセ フランシスコ(シーコ)から受けた影響も非常に大きいと真保コーチは言う。

「僕はもともと、どちらかというとあまり動かないタイプだったんですが、シーコさんは相手がAパスになったらどんどん仕掛けていくという発想でした」

 それを全日本の戦術にも反映させようとしている。

 13/14シーズンのパナソニックはその割り切ったシステムで戦い、要所ではまった。特に黒鷲旗決勝のJT戦は、第1セットを取られた後、ブロックの割り切りを明確にしたことで、JTの越川優とイゴール・オムルチェンの二枚看板を封じ、逆転勝ちにつながった。JTのヴコヴィッチ・ヴェセリン監督は、「パナソニックのディフェンスは完璧だった。決まったと思ったスパイクをあれだけ何本も拾われると、こちらのリズムが崩れてしまう」とお手上げだった。

 それが対世界で通用するのか。ベストな方法なのか。それはわからないが、試してみなければ何も始まらない。

 南部監督は、「全日本なら高さのあるミドルブロッカーがいるので、さらにいろいろな戦術が組めるなと、真保とワクワクしています。日本の2メートルクラスのミドルが、海外のミドルに対してコミットブロックをした時に、どれくらい対等にプレッシャーをかけられるのかなど、試していきたい」と言う。

 ただ、慣れていない選手、特にミドルブロッカーにとっては、目の前のクイックを捨ててサイドに走るのは勇気のいることのようだ。合宿中、伏見大和(東レ)や山内晶大(愛知学院大学)など若いミドル陣はどうしてもクイックが気になり、スタートが遅れる。南部監督は、「いいから(サイドに)走れ。今までやったことのない戦術かもしれないけど、思い切ったことをやっていかないと。それで狙いが外れても、選手の責任じゃなくスタッフのせいだから」と言い聞かせた。

 「監督がそう言うことで、選手は委縮せずに動いてくれると思う」と伊藤健士アナリストは言う。「相手がAパスの場合はこちらがかなり不利。いつもリードブロックをしていても、得るものが少ないので、割り切ってやらないと。全部をまんべんなく守ろうというのは、日本にとっては贅沢です。挑戦者ですから、後手後手にならないように仕掛けていきたい」

 そうしたブロック戦術にしろ、メンバーの顔触れにしろ、新鮮さと可能性は感じられる練習風景だった。

 何しろ今年の登録メンバー30人のうち、全日本初選出は12人。過去に選出されたことはあっても試合に出たことのない選手を含めると20人近くになる。25歳以下が19人を占め、身長207センチの伏見、204センチの山内といったミドルブロッカーを中心に、大型の若手選手が数多く選出されている。

 ワールドリーグ前半(第1週~第3週)の登録メンバー14人のうち、ウイングスパイカーには経験豊富な越川優、清水邦広、福澤達哉がいるが、その他のポジションは未経験者がほとんどだ。これまで全日本の年齢層が高かったためか、初選出の若手選手たちは、「こんなに早く全日本に選ばれるとは思っていませんでした」と口を揃える。そんな彼らを、ドイツ、フランス、アルゼンチンという世界の上位チームとの勝負の場に立たせて戦えるのだろうかという不安はあるが、昨年まで世代交代にまったく手をつけてこなかったせいで、今、急ピッチでやるしかなくなっている。

 「今しかチャンスがないんですよ」

 16年のリオデジャネイロ五輪出場を目指しながら、20年東京五輪につながる芽も育てなければならないという難題を引き受けた南部監督は、そう危機感を募らせる。

 「今年はどうしても若い人材の発掘をしなければ。来年にはもうワールドカップがありますから。若い選手の伸びしろは非常に大きく成長も早いので、必ずやチームにプラス材料を運んでくれると思っています。若手が成長してくれれば、来年メンバーを選ぶ時に、これまで活躍してきたベテランと合わせて大きな枠の中から絞れるので、日本のレベルが上がることになります」

 日本は世界選手権に出場できないため、ワールドリーグは今年世界と戦える唯一の公式戦だ。苦戦が予想されるが、その中でも先につながる収穫を一つでも多く得て欲しい。

著者プロフィール

米虫 紀子(よねむし のりこ)

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのスポーツライターに。バレーボール、野球を中心に活動中。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。


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