コラム

メダリスト監督が呼び起こした、メダリスト新鍋理沙の自覚

2013年05月01日
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五輪メダリストとしてたくましさを増した新鍋理沙。その成長がチームを優勝に導いた“武器”になったことは間違いない。

2012/13V・プレミアリーグ女子は、中田久美監督率いる久光製薬スプリングスが、優勝決定戦で過去5年間で4度優勝している強豪・東レアローズにストレート勝ちし、6年ぶりの優勝を飾った。

就任1年目の中田監督はシーズン中、「今年優勝したら、このチームは勝手に転がり始めると思いますよ。そこまで私がどうやって押すか、ですね」と話していた。しかし、セミファイナルのあたりからもう、選手たちはひとりでに走り始めていた。

レギュラーラウンドを2位で通過した久光製薬は、セミファイナルを3連勝で駆け抜けた。初戦の東レ戦の序盤こそやや硬さが見えたが、2戦目は、レギュラーラウンドで一度も勝っていないNECレッドロケッツを下し、決勝進出を決めた。レギュラーラウンドでは、「内容が全然ダメ」と、勝っても手放しで喜ぶことのなかった中田監督が、「セミファイナルは強かった」と認めた。「どうだったの?」と聞く監督に、選手たちは「体が勝手に動きました」と答えたという。

中田監督が就任して以来、「相手とケンカできる選手じゃなきゃ勝てない」「そんなプレーでは世界に通用しないよ」と毎日言い聞かせ、世界を見据えたプレーや戦う姿勢を植え付け、自覚と自立をうながしてきた選手たちが、負けられない舞台で、各々の役割をきっちりと果たした。「セミファイナルあたりから、私はほとんどしゃべってない。選手たちが自発的にやってくれました」と中田監督。

長岡望悠、石井優希という21歳の2人の新星が成長著しいシーズンだったが、決勝の舞台で光ったのは、新鍋理沙だった。

新鍋は10/11シーズンに久光製薬でレギュラーをつかみ、全日本入り。昨年のロンドン五輪にも出場した。身長173センチと上背こそないが、サーブレシーブ力と勝負強い攻撃を買われ、五輪の後半はライトで先発出場し銅メダル獲得に貢献した。

五輪から帰国後は、各所への挨拶回りや行事に追われた。捻挫をしたり、体調を崩したこともあって、Vリーグ開幕が迫ってもなかなかコンディションが上がらなかった。そんな姿にしびれをきらしたのが中田監督だった。

「私としては許せなかった。それはメダリストの姿じゃないでしょって。レギュラーの保証はないよ、理沙はこのチームに何を上乗せしてくれるの? どうやってチームを引っ張るの? と言いました」

そして、ことあるごとに、「苦しい時にこそ光らないとメダリストじゃない」「メダルを持つ選手のやるべきことは、他の選手とは違うんだよ」とハッパをかけ続けた。ロサンゼルス五輪銅メダリストである指揮官の言葉は、重く響いた。

同時に、新鍋に与えたポジションが、無言の期待の表れだった。昨季の久光製薬でも全日本でも、新鍋はライトとしてセッター対角に入っており、どちらかといえば守備に重点が置かれ、攻撃の中心はレフトの2人だった。しかし今季、中田監督は、長岡をサーブレシーブをしないオポジットとしてセッター対角に置き、新鍋をレフトで起用した。

「サーブレシーブもしなきゃいけない、二段トスも打ちきらなきゃいけない、ブロックもしなきゃいけない、という、一番大変なポジションを、あえてやらせています」と中田監督。

シーズン前半は決定力が上がらず苦しんだが、後半、トスを昨季と同じ速さにスピードアップしたり、コンディションが上がったこともあって、持ち前の巧みで勝負強いスパイクが戻ってきた。

何より、意識が変わった。「昨季は、人任せで、苦しいところは誰かが決めてくれる、という感じだった。でも今季は、苦しい時には自分が流れを変えるんだという気持ちでやっています。監督から言われた『メダリストはコートの中で一番光らないといけない』という言葉で、私がやらなきゃいけない、と思うようになりました」と新鍋。

優勝決定戦を前にして、こう語っていた。

「去年も決勝に行ったけど、去年と今年はぜんっぜん違います。去年は、もちろん勝ちたかったけど、絶対勝てる自信があったかというと… あまりなかったし、何が何でも勝ちたいという思いも、そこまでなかった。でも、今年は絶対に、勝ちたいです」

ほんわかとしたイメージだった新鍋が、黒い瞳にギラギラと闘志をたたえ、「自信はあります。早く試合をしたいです」と言い切る姿に一瞬圧倒されたほどだった。

セッターの古藤千鶴は、「責任感と勝負強さが去年とは全然違う。勝負どころで自分が頑張らなきゃいけないという雰囲気が前面に出ています。もともとセンスのある選手ですが、そこにいろんな経験が加わって、強くたくましくなったなと感じます」と新鍋の変化を語る。

決勝前のミーティングで新鍋は、「苦しくなったら私に(トスを)持ってきてください」と、全員の前で宣言したという。

「あの時は『うわーっ!』って、感動しました。そういうことを言える子じゃなかったので」と古藤は回想する。

そして決勝で、新鍋は有言実行した。どちらが先に流れをつかむかという試合序盤のせめぎ合い、長岡にやや硬さが見える中、新鍋が立て続けにスパイクを決めて9-7と抜け出し、チームを勢いに乗せた。

「たくさん点数を取るというよりも、ここで絶対1点欲しいとか、流れが相手に行きかけたところの1本とか、そういう勝負どころの1点を取るのが、自分の役割だと思ってやっていました」と新鍋。

決してずば抜けた高さやパワーがあるわけではないが、新鍋はコースを間違わない。ここなら決まるというポイントに正確に打ちこみ、ブロックの間を抜いたりブロックアウトを取って、得点を重ねていく。終わってみれば、両チーム最多の15得点を奪い、サーブレシーブ成功率も90パーセントを超え、攻守に渡ってどっしりとチームを支えた。

「今までで今日が一番強かったと思います」。五輪メダリストの存在感を示した新鍋は、新たに手にした金メダルを首から下げ、充実感を満面に漂わせた。

その新鍋も、まだ22歳。成長著しい若手選手がひしめく久光製薬が、今シーズンの皇后杯、V・プレミアリーグの二冠を達成した。4月21日に開催された日韓Vリーグトップマッチでも、韓国チャンピオンのIBK企業銀行アルトスを圧倒し優勝。勢いをさらに増して、次に狙うはもちろん最後の冠、黒鷲旗だ。5月6日まで開催される今シーズンを締めくくる大会で、就任1年目の中田監督率いる久光製薬が、三冠を成し遂げるのか、注目が高まる。

著者プロフィール

米虫 紀子(よねむし のりこ)

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのスポーツライターに。バレーボール、野球を中心に活動中。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。


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