PARA☆DO!

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コラム

vol.2

文=高樹ミナ

2016年5月30日

パラスポーツ×デザインのチカラ

スポーツは見てもよし、やってもよし。最近はそこに“支える”楽しさが加わって、スポーツの魅力は何倍にも膨らんでいる気がします。ことパラスポーツシーンでは、体の障がいと向き合い、自己の限界を超えようとするチャレンジングなアスリートと、彼らの生き様に共感し支える人々が、これまでになかった新たなコラボレーションを生み出しています。
そこで注目したいのが、デザインのチカラ。これがとってもクールで、カッコイイんです!

GKダイナミックスがデザインした義足を履く真田選手

GKダイナミックスがデザインした義足を履く真田選手

全国のあちこちで開かれているパラスポーツの競技大会。3ヵ月後に迫ったリオデジャネイロパラリンピックの代表選考も最終局面を迎え、どの競技も大いに盛り上がっています。そんな中、5月17~22日には車いすテニスのジャパンオープンこと、「飯塚国際車いすテニス大会」が福岡県で開催され、世界ランキング9位の眞田卓(さなだ たかし)選手が伸び盛りのプレーに加え、あることで話題になりました。それは、彼が履いている右足の義足です。

車いすテニスは競技用車いすに乗ってプレーするスポーツ。それなのに、なぜ義足?と不思議に思われた方もいらっしゃるでしょう。実は、眞田選手はテニスをするときは車いすに乗り、日常生活では義足で歩いているのです。車いすテニスプレーヤーといえば、世界王者の国枝慎吾選手のように普段から車いすで生活していると思いきや、眞田選手のように車いすと義足のダブルユーザーもまれにいるのです。

こんな義足、見たことない!

サクションバルブと本体をつなぐパイプが特徴的

サクションバルブと本体をつなぐパイプが特徴的

眞田選手の義足は、ひとことで言えば、今までに見たことのないカッコイイ義足。デザインがすこぶる洗練されていて、初めて目にする誰もが、あっと驚きます。私もその一人で、仲間のカメラマンが撮った写真をすぐさまSNSで拡散したところ、大きな反響がありました。

アニメのロボットやサイボーグを思わせる斬新さがありながら、奇をてらわない安定感のあるデザインは、優れた工業デザインで世界的に知られる「GKデザイン」のグループ会社「GKダイナミックス」によるものです。母体のGKデザインは、日本の工業デザインの先駆者である故・榮久庵憲司(えくあん けんじ)氏が1952年に創設。デザイン性を追求しながら、人々の暮らしや環境に寄り添う製品を数多く生み出してきました。主な代表作にはキッコーマンのしょうゆ卓上瓶や、秋田新幹線こまち、ゆりかもめといった鉄道車両などがあります。そして、眞田選手の義足デザインを手がけるGKダイナミックスは「動態美」をテーマに、主にモーターサイクルデザインを得意としています。

「カッコイイ!」が変える人々の価値観

メカニカルな要素とスポーティーな要素が合体

メカニカルな要素とスポーティーな要素が合体

GKダイナミックスの義足を履いた眞田選手がコートサイドに現れると、人々の視線は彼の足下へと注がれます。これは、義足は隠すものという一般的な概念を覆すものです。このように、義足=カッコイイという認識が世の中に広まれば、義足は「隠す」ものから「魅せる」ものへと変わり、人々の障がいに対するネガティブなイメージも、ごく自然な形で変わっていく気がします。

ほかにも義足と工業デザインのコラボレーションは、以前「PARA☆DO!」セミナーに登場してくれた陸上の高桑早生選手の競技用義足にも生かされています。こちらの場合、自動車をはじめ数々の工業デザインで知られる、東京大学生産技術研究所の山中俊治教授が、日本の義足づくりをリードする鉄道弘済会義肢装具サポートセンターとの共同開発で、走る速さを突き詰めた究極の機能美を形にしています。

器具を多用するパラスポーツだからこそ、デザインが担う役割もどんどん増えて、従来にはない新鮮な発想が人々や社会の既存の価値観を変えていくのではないでしょうか。よく言われる、パラスポーツを通じた「心のバリアフリー」も、こんなところから進んでいくのかもしれませんね。