フジテレビ・スポーツコラム 武田 薫

1999.12.24

『凄い女がいるもんだ』



   雑誌『ランナーズ』の編集者からQ&A特集をやるというので幾つかの質問を受けた。その中に、どうして日本では駅伝が盛んなのかという質問があった。取って付けたような質問だが、私の答えは「サッカーがなかったから」である。
 日本には野球であり、水泳であり、サマースポーツはあった。ところが、ウィンタースポーツがなかった。本来ならここにサッカーが位置するはずだったのに、サッカーが根付かなかったのである。その理由は別な機会に譲るとして、サッカーの代わりにマラソンが入り込み、そのレース回数を増やすことで駅伝が隆盛したということではないか?

 というわけで、今回もまたマラソンの話になってしまうのである。  大阪国際女子マラソンの招待選手が発表になったが、有森裕子、浅利純子、安部友恵と同窓会のような顔ぶれになった。有森は伊豆大島で合宿をして米国に戻ったが、余り走れないでいるようだ。33歳の誕生日を迎えたばかり。彼女に聞かせたいような話が、ホノルルから聞こえてきた。
 日本からも大勢のランナーが参加して話題になるホノルルマラソンの女子の優勝は、昨年に続いて、キルギスタンの38歳、イリナ・ボカチュバという選手だった。彼女は今年の春のロサンゼルス・マラソンで優勝、10月のシカゴ・マラソンでは5位ながら2時間27分46秒の自己ベストを記録し、今回は「避寒休みを兼ねて」の参加、その言葉通り、レース前夜は夜の10時までハイヒールを履いてディスコで踊っていたという。
 それだけではそう驚かないが、とんでもない目撃証言が飛び込んできた。レース後半、前夜の食事がよくなかったらしく、下痢症状になった。マラソンではこういうことはよくあり、トイレも用意されている。昔、フランク・ショーターはびわ湖毎日で便意を催し、道ばたで用を済ませて、それでも勝った話が有名だ。5年ほど前の東京国際マラソンでが、旭化成の川嶋伸次がやはり腹をこわし、トイレに駆け込んで宗茂監督に叱られた。
「道ばたでやれ! その5秒、10秒のために1年間練習してきたんだろう!」
 鬼のような世界である。


 ところが、ホノルルで宗茂も真っ青な話があったらしい。便意を催したボカチュバが走りながらやったというのだ。それも手で拭いながら……広島のアジア大会で洩らした選手はいるが、こちらは手で拭いながらである。
聞いたことをより正確に記せば、掴んで捨てながら走ったという。優勝タイムからして、そばに日本の一般男子ランナーが何人もいたはずだから、この話はその内に広まるだろうが、これは凄い。
 日本の女子選手がトップ争いをしていたらどうだっただろう? こんなことが起きたら、フジテレビのアナウンサーやディレクターたちはどんな反応をするだろうか? (きっと、きれい事で済ませるのではないか)。
 汚いという問題ではない。こうした人間くさいハプニングはトラック競技やフィールド種目では起こり得ず、これぞ2時間半も走るマラソンの特徴、いや特長だろう。だからマラソンは面白いはずなのだ。口を開けばオリンピック、オリンピックを繰り返すモノトーン・マラソンの、なんと詰まらないことか。化粧してメソメソ走っているのは日本だけだよと、改めて思うのである。
 ボカチュバはシドニーの出場が決まっている。キルギスタンの女王に注目したい。





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