リスクの神様 毎週水曜よる10時 放送

2015.8.12 WED. UPDATE INTERVIEW #6 白井 邦芳さん

まず、今回のドラマ『リスクの神様』に関して、
具体的にどのような形で監修されているか教えていただけますか?

今回は特殊な職種ということで、最初の段階から脚本家の先生、プロデューサーの方々とかなり長い時間、どういう形で危機管理コンサルタントが企業に関わっていくのか、ということについてのお話をさせていただきました。それぞれ頭の中で構想されているプロットがありましたので、それを進めていく上で、どういった部分に注意していけばいいのか、というガイドラインのようなものをお伝えしたんです。その後、脚本家の先生が台本をお書きになって、それをプロデュースチームが修正していく中で、私もほぼ同時に原稿をいただいて、流れ的に大丈夫か、現実にこういうことはあるのか、ということと、実際にその出来事に対処する方法に間違いはないのか、というところを監修しています。リアリティーを追求したという点で言うと、例えば、台本の中では言葉のキャッチボールで進むわけですけど、それを俳優さんが演じて、演出家の方が目に見える形に置き換えるという中で、実際に映り込むPCの画面が不自然じゃないかどうかを確認するといった細かいところまで注意を払ってアドバイスしています。その際は助監督さんとも連携して、細かいやり取りが行われていますので、監修者として通常よりは口を出させていただいているかな、と思います。制作の現場で言いますと、台本が出来上がってくればこのシーンはいつごろ撮られるのかというのもわかってきますので、重要なシーンに関してはロケの現場やスタジオに入ってチェックもしています。

扱っている題材は企業におけるリスク管理の在り方ですが、
ドラマ自体も例えば何か間違った部分があったりすれば批判を
受けることもありますのでより慎重さが求められますね。

おっしゃる通りです。私の顧問先は数百社ありますが、ドラマを見ていただいた方からは、企業の複雑な動きや、危機管理コンサルタントという非常に特殊な職業に対して、よくフジテレビさんがこういう題材を扱ったな、という評価を得ています。かなりリアリティーがあるので、私の顧問先に関しては録画したDVDを研修資料にしたいと思っているくらいです(笑)。

わかりやすいところで、第1話では神狩かおり(戸田恵梨香)の
謝罪会見があり、第2話では異物混入事件があった食品会社の
総務部長の謝罪会見がありました。このふたつの謝罪会見は、
対照的な結果になったわけですが…。

あれは重要なものですね。かなり細かい点について…特に記者会見のやり方については、助監督さんとともに小道具などについてもこだわりました。女性の場合、足元を見せないようにしようとか、ネームプレートを見せようとか、衣装をどうしようかといった部分から、入場時の歩幅や謝罪時の頭の角度、話すスピードまでかなり慎重に作り上げました。一方、異物混入事件に関しては、最悪の状況に追い込まれるという流れをどう設定するか、という視点で、プロデューサーの方や演出家の方と打ち合わせをしました。私自身、180件くらい謝罪会見の対応をしたことがありますが、岡本信人さんが演じた総務部長の謝罪会見のようなケースは、実際の現場でもしょっちゅうあることなんです。「こういうことはしないでください」と予め喚起をしておかないと、人間は自然に動いてしまう。社会部の記者さんは、動揺して体を動かしたり、狼狽したりすると、間髪入れずに厳しい質問をしてくると言われています。「こういう質問がきたらこう答えなさい」というルールはありますが、そういうときにとても大切なのは、社長が現場を見る、ということなんです。いろんな質問に対しても現場を見ていないと推測の回答になり、大きな問題になってしまいますから。それから、何かわからないことがあったら消費者目線で答える。このふたつが重要なポイントなんですね。過去においていろいろな事件がありましたけど、例えばSTAP細胞の騒動のときのように、まだ真相はわからないのに「あるのか、ないのか」という質問をされたり、情報漏えい事件で「もうこれ以上、漏えいはないのか」というように可能性の質問をされたりします。あるいは、食品偽装事件で「リコールするのか、しないのか」という二者択一の質問をされることもあります。記者さんは、回答につまったりしたときは必ずこの手の質問をしてきますので、そういったことまで予測しておく必要があるんです。

ドラマの中で西行寺は、「すべてを救うことはできない」と言って
優先順位をつけています。現実的にも、そうしなければならない
ケースはあるわけですね?

必ず優先順位をつけています。ステークホルダー…株主、従業員、消費者、取引先、行政機関などがいる中で、例えば工場が爆発した、となれば近隣住民が一番被害を受けるわけです。そこがステークホルダーとして1番になるでしょうし、全国で販売しているようなナショナルブランドの場合は、たくさんの方が危険な目に遭うとなれば消費者目線にならざるを得ないですよね。そういったところで、どこに一番フォーカスするか、というのは常に考えなければならないわけです。実際、ある件を行政機関に報告してそこに立ち入り検査が入ったら、別の事故が発見されてふたつの不祥事が重なるというケースもあります。そうすると、そこにも重さや優先順位の問題があるわけです。ドラマの中でも政治家のスキャンダルとアイドルの問題がありましたけど、ああいうことも珍しいものではなく、むしろ普通に起こり得るんです。ついこの間も、ふたつの事件があって、そこに立ち入り検査が入ったら、新たに多数の不祥事が見つかってしまった、という例もありました。たったひとつで終わる、というよりも、膿を完全に出してしまう、という方がいいんです。何かを隠ぺいするのではなく、全部出し切って、残念ながら刑事責任を問われることになったとしてもそこをしっかりと対応する方が危機管理の対策としては良い結果に繋がったりするんです。1年間に2回大きな不祥事を出すと、これは信用毀損に陥りますので、株価が下落するだけではなく不買運動なども起こりますので、むしろ一気に膿を出して再発防止という形で進めた方がいい。実際に何か不祥事があれば損失・損害はすでに始まっていますので、もともと危機というのはゼロにできないんです。そこでもし別の不祥事が発覚すればさらに損害が膨らむだけですからね。

優先順位の付け方というのは難しそうですね。

難しいですね。昔は危機管理コンサルタントというのがほとんどいなかったと思うんですけど、弁護士の先生に話を聞くと、通常は「取締役会の判断基準にしたいので意見書を出してください」という要望があるんです。でも、弁護士の先生にしてもそこはとても怖いところで、実際の危機管理という立場で、会社が沈むか浮くか、というところで意見書を出す、というのはかなり難しいものなんです。大手の事務所でも「これは意見書ではありません」と最初に書いたりすることもありますから。まず参考事例として、過去にこういうことをしたらこういう結果になった、という事実関係を洗い出して、あとは取締役会で判断してください、という形式になっていることが多いですね。なので、結局自分たちで判断する、ということになるわけですけど、「何かアドバイスが欲しい」というときに危機管理コンサルタントが必要だ、というようになったのが最初なんです。我々が最初に行くときは、まずはこういう事実関係があって、どうすればいいのかということに回答して、その回答に対して法的に問題がないかどうかということを弁護士が確認する、という順番になっていることが結構多いですね。

今、私たちは日々進化しているIT技術を享受しています。誰かがネットに
上げた写真1枚が大きな事件に発展することもあったわけですから、
これからの時代はますます危機管理が重要になってきますね。そんな中で、
危機管理というものをどのように考えていったらいいのでしょうか?

危機管理のポイントは、まず起きた事象に対して事実確認をする。それに対して、何故起きたのか原因を調査するということですね。で、原因を究明した後に、すでにそれは進行している危機ですから、まずそこに対してピンポイントで是正措置をする。次の段階として、誰がそれを起こしたのか、という責任の表明を行うということです。そこで、対外的な鎮圧を行うということですね。で、「この会社、大丈夫なのか?」となったときに、株主を落ち着かせるために防止策を打つというのが一般的な初動です。その後に、外部組織などを使った監査を行って終息宣言を打つ、ということになるわけですが、この終息宣言というのが日本ではなかなかできないんです。原因究明で失敗して、自ら発表する前に責任を問われてしまい、結果、経営陣が退陣して終わり、というケースが多いので、結果的に鎮圧できずに終わってしまうんです。終息まで行って評価を受けるというのが重要なことなんです。実際にそういう手順で行えば、事故を起こす前よりも株価が上がったりするんです。ドラマの中で異物混入事件があったときに、社長が「自分たちも被害者だ」と言いましたけど、まず経営者が、危機に対する責任を認知していないといけないんです。危機対策の問題のもうひとつのポイントは予防です。危機に対して、経営者は何をしないといけないのかというのを予め認識しておいていただいて、実際に起きてしまったら逃げずにしっかり対応してもらう。実際、「これはやりたくない」「これは公表したくない」ということもあると思うんですけど、それを外部から指摘されたり、内部告発されたりすれば、結果的に最悪の状態になってしまうことがあるわけです。適切なプロセスを踏むということと同時に、経営者が危機管理に対する知識を持っていて、きちんとそれに従って行動するというのはとても大事なことだと思います。

お話をうかがっていると、教育の重要性も感じます。
社会人になる前の段階…高校なり、大学なりで危機管理に関して
きちんと学ぶ必要がありますね。

その通りだと思います。東証さんが経産省などと一緒にリスクマネジメントについてもある程度のガイドラインを出したんですけど、それが出る前は、リスクマネジメントの本質的なガイドラインについては認識がなかったんです。実際、アメリカでは日本より20年くらい前に始まっていたんですけど、なかなか日本には降りてこなかった。理由としては、日本の場合オーナー企業が多くて、オーナーが独自の概念でリスク管理をするという発想があったからなんです。「それについて一番知ってるのは私たちでしょ」という発想があったので、なかなか浸透しなかったんですよね。でも、予想を超えたものや新たなリスク…例えばSNSリスクなども急激に発展したものですけど、そういうある種の風評リスクみたいなものが出てきたときなどは対応不可能になってしまうんです。法令違反ならコンプライアンス部とか法務部が対応するとか、食品の品質に関しては例えば品質管理部が対応するとかということも可能でしょうけど、会社全体の危機に対してはどこが対応するのか、となりますし、トップが指示を出すと言っても、トップ自身が戦略を持っていないとなると、結局、会社が潰れるという図式になるわけですから。そうならないためにも、学生さんも就職するから勉強を始めて、採用の現場でもそういう部分を意識していくというのがこれからは重要になってくると思います。

ピンチをチャンスに変える、というセリフもありましたが、
それは危機管理をどのようにやっていくのか、という意味なんですね。

事故が起きると、株価や売り上げが下がっていきます。これは、ダウンサイド・リスク・プロテクションといって、落ちてしまったリスクを是正して、一回止めるという作業なんです。風評被害もありますから一定期間はV字形にならないわけですけど、それを止めないとどんどん下がって行って不買運動が起きたり、同業他社にシェアを奪われたりしてしまうわけです。同時に今度はアップサイド・ポテンシャルといって、将来このまま事故がなければこの会社はどのくらいまで売り上げを伸ばせたんだろう、という潜在的な売り上げ要素があるんですが、そこに向けてどういう方法をとるのか、ということを考えます。マスコミからは「6ヵ月はダメだろう」と思われていたものが2ヵ月でV字回復したら評価されるので、そういう対策を打つという形ですね。「ここまで対策をやったのか」と第三者を介して評価されるように透明性を確保するとか、社長のインタビューなどを発表してどのように取り組んできたのかをひとつひとつ明らかにしていったりする中で、経験したことから学んで会社の将来に結びつけた成功事例として扱ってもらう。過去の食品偽装の事件では、実際に保健所の立ち入り検査を受けることが予想されたので、マスコミに立ち入り検査を公開したりしたこともあります。場合によっては最初の報道が誤報になってしまうケースもあるので、新聞ですと朝刊と夕刊しかありませんけど、ネットの世界は常に発信していけるので、What’s newというところにいつも出していくようにするんです。報道を是正するといっても時間も手間もかかりますし、そういうことではなくて彼らが間違った報道をしたということに気づいてもらうために、昔は1日1回記者会見をやったりもしましたけど、何度でも会見をやる、何度でもプレスリリースを出す、と。そうやって正しい情報を出して、実際にマスコミの方々に見に来ていただいてもいいし、インタビューもやりますとなれば、新しいニュースがどんどん上に乗っかっていきます。それが、○○事件みたいにまとめられてしまうのか、一定の量で過去のものは削除されていくのか、ということまで判断して、48時間以内に悪いニュースを画面から消し去るというのもひとつの作戦なんです。

これから先、企業はますます大変になっていきますね。

何か不祥事があったときに、取締役会で何時間もかけて「いや、まだ判断材料が足りないから情報収集して…」なんてやっていたら間に合わないと思います。昔は何かが起きてそれが危機になるまでに3週間くらい時間があったんですけど、いまはもう数時間単位なので、情報を収集したら30分で判断しなければダメでしょうね。リスク管理に関しては、実行可能なルールを作る、というのが重要なんです。すべてのリスクを回避するというのは、リスクマネジメントの世界ではあり得ないことなんです。そんなことをやっていたら手間も時間もかかるし、すべての業務が停滞してしまう。どこまでやるのか、リスクテイクするというのが、リスクマネジメントの重要な部分なんです。そう言うと「こんなにコストがかかるならやりたくない」という風に誤解する会社が元々日本には多かったんです。そうではなくて、備えると言うのはリスクテイクをすることなんです。一番大事な起こりやすいものははじきましょう、というのがリスクマネジメントの発想なんです。そこで万が一、大きなことが起きてしまったときは危機管理をして終息させる、という両面が必要なんです。

最後に、監修のお立場から、こういう視点で見るとドラマが
より一層楽しめるというポイントを教えていただけますか?

今回のテーマでいくと、サンライズ物産の社長、投資先の企業、そして西行寺という3つのポジションそれぞれに若干考え方のブレがあって、それが激突するような展開がこの先にもあるんですけど、経営者がリスクをテイクするというのと同時に、消費者目線でどこまでやれるのか、というしのぎ合いがあるわけです。その中で西行寺は、危機対策室のメンバーすら察知していない中で、何十手先まで考えて手を打っていますので、自分だったらどうするのか、と考えながら見ていただくと、より楽しめるんじゃないでしょうか。

白井 邦芳さんプロフィール

危機管理コンサルタント。ACEコンサルティング株式会社エグゼクティブ・アドバイザー。危機管理、リスクマネジメント、内部統制、事業継続、企業再生など幅広い分野で活躍。日本法科学技術学会正会員。一般財団法人リスクマネジメント協会顧問。ドラマ『リスクの神様』の危機対策を監修。

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