NONFIX過去放送した番組

川遊び

川遊び

バーベキュー、竹細工、生活ルール決め、ツリーハウス作り、キャンプファイアー、川遊び、藍染め、ほうとう作り、キャンプ、マウンテンバイク・ハイク、民泊、ディスクゴルフ、ビバーク、プロジェクト・アドベンチャー、クッキング、パン焼き、八ヶ岳縦走。すべて小学4年生から中学3年生までの子供たち21人が2000年の夏、1ヵ月の間に体験したことである。

 八ヶ岳山麓の山梨県・日野春村に、国際自然大学校日野春校はある。ここでは毎年夏休みになると1ヵ月にも及ぶ「子ども長期自然体験村」というプログラムが行われる。少年犯罪の増加、理解不能といわれるテレビゲーム世代。何事にもクールで自分を表現しない。そんな現代っ子たちに、自然の中での集団生活を通して、本当の意味での生きる力を育んで欲しい、そうした試みである。
 スタートしてから3年目を迎える今年、私は1ヵ月の間、真夏の暑い盛り、子供たちと共に生活することとなった。30泊31日に及ぶ自然の中での集団生活が、子供たちにどんな影響を与えるのか、そしてどんな変化をもたらすのか、私が取材すべきはこの一点である

みんなで力を合わせて山頂をめざす

みんなで力を合わせて山頂をめざす

 子供たちの変貌を追う。しかしながら、明け透けな好奇心と物言い、始終動き回ってやかましい、無意味な反抗、そんな子供たちの印象が、むしろ変化した1ヵ月だったと言える。いや、印象が変化したのではない。もう一つ別の印象が加わったに過ぎないかもしれない。彼らは、私だった。そして、大人は彼らの中に、めいめいの自分を見つけるだろう。
 子供たちの社会は、デフォルメされた大人の社会。カリカチュア。私が寝食を共にした21人の子供たちの中には、子どもの皮をかぶった私自身がいて、そして私の友人がいて、私の会社の同僚や上司がいた。考えているであろうこと、行動パターン、そして発言。端々に私の知っている誰かを彼らの中から見出すことができる。そしてそれは、自戒となり自信となった。子供たちが純真で純粋で、そして社会を映し出す鏡だと主張するつもりはない。だが、そこにはいくばくかの真理がある。

 私が共に過ごした子供たちの中でも、特に私の目を引いた子供たち、「シト・クラッシュ・チーボー」(彼らはお互いの名をキャンプネームで呼び合う)。21人の中で特に彼らに注目した理由は、今思えばおそらく、多かれ少なかれ、自分の内にあるものを彼らの中に見つけたからだろう。
 大人になるにつれ人は、いくばくかの自尊心と、社会との妥協点を探すことを余儀なくされる。そうして外界との折り合いをつける術を身につけていくことになる。それを社会性、あるいは人付き合いの善し悪しと呼ぶ。子供たちはその過渡期にある。だからこそ、大人から見れば、本当に人付き合いがへたくそだ。そして結局、私はその部分に着目し続けていたように思う。そして何よりもその部分が面白かった。

 シト。阪神淡路大震災で親を失い、現在祖母と2人で暮らしている。学校にも行かずに深夜までテレビゲームにはまっているそうだ。取材中、カメラをまわす私を何度も攻撃し、撮影の障害になった。まったくの天の邪気。キャンプスタッフに対してもかなり反抗的。何故こんな子どもがこの長期自然体験村に来ているのだろう、何度もそう思った。

 クラッシュ。やはり阪神淡路大震災で両親を失った。シトとは被災者の会で知り合って依頼の友人だ。シトをこのキャンプに誘ったのもクラッシュだった。反抗的で、自分の思い通りに行かないことがあるとすぐふてくされる。長期自然体験村へは昨年、一昨年も参加しており、参加する度にキャンプスタッフにたてついて、問題をおこしていたそうだ。彼にしてみればそれほど不満だらけの長期自然体験村に、なぜ、何度も自ら参加してくるのだろうか。

マウンテンバイク・ハイクでみんなを引っ張るチーボー

マウンテンバイク・ハイクでみんなを引っ張るチーボー

 チーボー。彼女の大人顔負けの行動力と積極性、そして女子を統率するリーダーシップに、私は当初驚かされた。自然の中で思いっきり遊びまわる、この長期自然体験村はこんな子の為にあるものだ。しかし取材が進むにつれ、どこかもろい、そしてそれをガードしている彼女の姿が浮かび上がってきた。そしてそれは最後まで尾を引くことになった。

 時間が経つに連れ、子供たちは対立・反発を繰り返す。W・ゴールディングの「蝿の王」を彷彿とさせる混迷した状況の中で、「自ら悪い方向へ行こうとしている子どもはいない。」そう断言する校長・ロバこと野口透さん。長年、子供たちを指導してきた彼の、このロマンティック過ぎる言葉は果して真実なのか。
 都会では味わうことのできない大自然の中で、久しく見ることのなかった現代っ子たちの駆けずり回る姿。そしてある種、残酷とも言える子供社会の中で、時にはぶつかり、時には励まし会い、少しずつ自分だけではない、他者という視点を獲得していく子供たち。そしてそれをおおらかに、かつ真剣に見守るキャンプスタッフ。2000年夏、1ヶ月間の長期自然体験村に集まった人々に密着、その姿を通して、子供の成長とは何か、ひいては本来の人のあるべき姿を見た。たとえ表面には現れなくとも、21名の子供たちのそれぞれの心に、確かに何かが残ったに違いない。

芹田“カメ”洋

八ヶ岳山頂の子供たち

八ヶ岳山頂の子供たち

■プロデューサー
田野 稔
■演出・撮影
芹田 洋
■制作
グループ現代
フジテレビ