こうした野田財務大臣の発言を聞いて、すぐに僕は「官僚たちが巧妙に仕組んだ罠ではないか」、と疑った。
“B型肝炎訴訟の和解は、増税による国民負担は避けられない”という意図的な誤解。それを民主党政権が、国民に与えるように仕向ける。そして冷淡な対応ぶりから“政権の支持率下落へ世論誘導”、というシナリオである。B型肝炎訴訟の原告を“被害者ではなく、無理難題な要求をする団体”という、もう一つの誤解を生む相乗効果も想定しているかもしれない。。
疑り深くなるのは、過去に同じ例があるからだ。
しかし、政府の対応に世論は一斉に反発、支持率は低迷した。政権がもたないと判断した与謝野馨氏(元官房長官/当時は自民)は、極秘で福田康夫首相(当時)に議員立法による解決案を提案。福田首相(当時)は日曜日に異例の緊急記者会見を開いて「全員一律救済する」と発表した。直前まで官僚には一切関与させなかった。
今から振り返ると、これこそが政治主導の決断だった。ちなみに、現時点の薬害C型肝炎訴訟に関する国の負担金は、約340億円。3年前に、厚労省の官僚が試算した約1/100である。(※10月11日現在)
肝炎患者の多くは輸血の経験もなく、母子感染でもない。疫学を専門とする医師の中には、「ヒロポン(覚せい剤の一種)の回し打ちが有力な感染ルート」と主張、患者たちは汚名を着せられて、この世を去っていった。
この状況に怒りを覚えた美馬医師のグループは独自調査を行い、集団予防接種の感染ルートを割り出した。そして、国の法的責任を裁判で明らかにして、“B型肝炎とC型肝炎の患者の治療費を無料化させる(=医療費助成)”、という目標を掲げて提訴した。
これが、B型肝炎訴訟の原点である。
集団予防接種の連続注射は全国各地で行われていたから、多くのB型肝炎患者が同様の感染ルートであったことは疑いようもない。原告の木村伸一さんや弁護団は、肝炎患者全体を対象にした治療費の助成制度を厚労省に粘り強く求めた。
しかし、当時の川崎厚生労働大臣は「判決の対象は5人の原告のみ」として面会すら拒否、政策対応もしなかった。その後、薬害C型肝炎訴訟は和解成立、救済法が制定された。最高裁で勝訴しながらB型肝炎は、置き去りにされた。
血液製剤が感染原因として明確な点、製薬企業が感染リスクを把握していた悪質性の点で、薬害C型肝炎は極めて責任が重い。これに対してB型肝炎の感染ルートは、最高裁が「高度の蓋然性」と表現したように、様々な感染ルートを消去法的に検証したものであり、他原因の可能性も否定できない。
前述の美馬医師は最近の調査で、個人病院の感染ルートを報告している。注射器の消毒が不適切だったり、一つの注射器を複数の患者に連続使用して、感染拡大を引き起こした可能性が強いという。
野党は、このB型肝炎訴訟について集中審議を申し入れたが、尖閣諸島問題などでうやむやになったままだ。責任ある対応をせず、お得意の解決先送りをするならば、与党は二時被害を原告に与えることになる。
それでも原告が実名を公表して行動を続けているのは、“自分たちだけが救済されるような解決にしたくない”という強い想いがあるからだ。一部に自分の賠償のことだけで精一杯という原告もいるけれど、それは当然のことだろう。
原告弁護団は10月26日の和解協議で、『国が患者全体を対象にした治療費助成を行うならば、賠償額の交渉に応じる余地がある』と札幌地裁に示した。
原告にとって賠償額の引き下げにつながる可能性もあるが、より多くの肝炎患者の命が救われることを優先した決断は、深い葛藤の末に生み出された勇気ある行為だ。
原告は裁判の原点を取り戻した。次は、命を救うのか、見捨てるのか、国が試される番である。
国は今年4月から、『核酸アナログ製剤』の助成制度をスタートさせたが、薬の種類によっては月1万円を下回るケースもあり、実はあまり負担軽減になっていない。
ここで思い切った負担軽減策を講じることで、多くのB型肝炎患者の命を救うことができるはずなのだ。
「B型肝炎とC型肝炎は医療行為による感染なのだから、国が責任をもって治療体制をつくるべきである」
ノンフィクション作家の伊藤精介はC型肝炎で亡くなるまで、こう主張していた。
果たして、年内にB型肝炎訴訟は解決できるのか?
多くの肝炎患者が、菅政権の対応を厳しく見守っている。
ノンフィクション作家の伊藤精介はC型肝炎で亡くなるまで、こう主張していた。
果たして、年内にB型肝炎訴訟は解決できるのか?
多くの肝炎患者が、菅政権の対応を厳しく見守っている。




