ひときわ濃く、そして色鮮やかに咲き誇る桜。今年の春も、満開の桜を眺めながら運命の出会いに感謝している一匹のわんこがいます。
福島県郡山市。市の中心から車で30分ほどの山に囲まれた中田町。この町のとあるお宅の庭先で、今朝も夜明けと共に目を覚ましている一匹のわんこがいます。
名前は「モモ」。 この山間の町で暮らして今年で6年。いつも鳥のさえずりを聞きながら一日をスタートしているわんこです。
やって来たのは、76才のご主人。畜産をしているご主人と一緒に朝一番に牛舎に牛たちの世話をしに行くのが「モモ」の日課。
実は、「モモ」は震災の放射能の影響で多い時には10頭いた牛を少なくせざるを得なかった現状を目の前で見てきたわんこ。 「モモ」はご主人とともに震災を経験し、そのあとのご主人の苦労をじっと見守ってきたわんこなんです。
牛の世話が終わり家に帰ると朝ごはんの時間。 朝ごはんが済むと「モモ」はご主人夫婦と一緒にある場所へと向かいます。
そこはご主人の先祖が植えた一本の桜の木がある場所。 間もなく満開を迎えるこの桜は、『忠七桜』という名前で知られている有名な桜。『忠七』という名前のご主人の先祖が1868年に起きた戊辰戦争の犠牲者の霊を慰めようと植えた桜なんです。
この桜を先祖の遺言通りに守っているのが5代目のご主人。そのご主人が6年前にここで出会ったのが「モモ」でした。 生後1ヵ月の子犬だった「モモ」。
『忠七桜』のまわりの手入れが終わると、今度は一緒に畑へ。
一日のほとんどを畜産と農業、両方の仕事をしているご主人夫婦と一緒に過ごしている「モモ」。 今日も春の日差しの中、静かな時間が過ぎていきます。
暖かい日差しの午後、「モモ」の姿は、無人の野菜販売所にありました。
ご主人たちが丹精込めて作った野菜は毎日この野菜販売所に並べられ、「モモ」は忙しいご主人に代わって店先で看板犬をしながら買い物に来る近所の人達を出迎えているんです。
「モモ」は今ではご主人夫婦にとって大切な存在。先祖から受け継ぎ、代々守ってきた桜の木の下で出会った「モモ」。
桜の木の下でご主人と出会わなかったら失われていたかもしれない小さな命。「モモ」のことを救ってくれたのはご主人でした。
数日後。穏やかな春の風が心地良い庭先で「モモ」はいつになくちょっとそわそわしていました。 ご主人夫婦と向かった先はあの『忠七桜』がある場所。
「モモ」の頭上に大きく広がった桜の枝には今まさに満開の時を迎えた桜の花がいっぱい。 樹齢およそ160年、先祖代々、守ってきた桜が今年もひときわ色鮮やかな花を咲かせました。
「モモ」にとっては6回目の満開の桜です。桜の木の裏手にある小高い丘を登るとこの通り。そう、この丘の上は満開の桜が一望できるとっておきの場所なんです。
先祖から受け継いだ一本の桜の木を守るご主人とその桜に導かれるように出会った「モモ」。 今年も満開の桜の木の下で幸せを噛みしめる「モモ」なのでした。