沢の音に耳を傾けながら渓谷沿いの道を歩く一匹のわんこ。 実は、このわんこは町の人達にあることを託されたわんこなんです。
日本三大秘境のひとつ『祖谷渓』で知られる徳島県・三好市。 吉野川沿いの木々が色づき、深まりゆく秋。 かずら橋やびわの滝など大自然に囲まれた渓谷の町、 山城町は今日もゆっくりした時間が流れています。
そんな町のとあるお宅で一匹のわんこが暮らしています。 名前は「虎太郎」。
ご主人の娘さんのたっての願いで生後2ヶ月の時に奈良からやって来たわんこ。その娘さんは独立し今は定年退職したお父さんの良き相棒です。
そんな「虎太郎」には欠かすことのない日課があります。 子供達の声が聞こえてくると、 ご主人に長いリードをつけてもらって家の前のいつもの場所へ。 やって来たのは町の小学生達。
そう、「虎太郎」は家の前を通る小学生達を毎日見送っているんです。 毎朝こうしているので、「虎太郎」は町の小学生なら誰でも知っているわんこです。
子供達を見送ると「虎太郎」の散歩の時間。 吉野川を見下ろしながらのんびりと歩くのがいつものコース。 途中、谷に沿って走る電車を眺めてひと休み。
そして、日に日に色濃くなる紅葉を眺めながら山道を登ってやって来た所は山の中腹の絶景ポイント。 目の前に広がるのは刻々と姿を変えて行く雲海。 「虎太郎」は365日違う自然の姿を眺めて暮らしているんです。
大自然に囲まれた町で暮らす「虎太郎」は、今年の夏から今までと違う日曜日を過ごすようになったんです。 この日ばかりはのんびりとはしていられません。 ご主人と一緒に家を出て吉野川沿いを歩き、今日は大きな橋を渡ってある所へと向います。
毎週日曜になるとこの橋を渡って「虎太郎」がやってくる事は町の誰もが知っていること。今日も橋を渡りきった所で町の人達が声をかけてくれました。
そう、「虎太郎」は町では知られた存在。 実は、「虎太郎」は毎週日曜日に町にある『大歩危駅』という駅に通っているんです。 「虎太郎」が週に一度ここに通うようになったのには訳があるんです。
昭和10年に開業した大歩危駅は今年の10月に無人化となることが決定。それでも、多くの人に来てもらえる駅にしたい、という町の人達の願いから「虎太郎」が駅に来るようになったんです。
そう、「虎太郎」は大歩危駅を管轄する鉄道会社から正式に駅の助役を頼まれたわんこなんです。
助役をつとめる「虎太郎」と共にたたずんでいるのは妖怪伝説が残るこの町の木彫りの駅長です。
「駅に出勤すると帽子を被ってまずはホームの点検へ。 すると早速、白線がめくれ上がっているのを発見した「虎太郎」。
そして、駅を訪れるお客さん達を待ちます。一番の仕事はこの駅を訪れたお客さん達と一緒に思い出の記念写真に写る事。
今日も笑顔のお客さん達がたくさん来てくれて大満足の「虎太郎」。 時には外国からのお客さんの写真に収まる事もあります。
町の人達の想いを一身に受け、今日も駅を訪れる人達の笑顔に会いたくて頑張っている「虎太郎」なのでした。