――ここまで文子を演じてこられていかがですか?
とても難しく、とても楽しい作業でした。私には想像にしか過ぎないんですけど、母親にとって子供は何にも代えられないかけがえのない存在ですよね。それは文子も同じで、決して歩に無関心ではなかった。でもそう思っていながら、なぜ歩が直面していることを文子は気付いてあげられないのかなど、台本では描かれていない裏の部分を自分で考えながら演じていましたね。
――最初に“あえて特徴を出さず、ごく普通の母親を演じたい”と話されてましたよね。
これもあくまで想像でしかないんですが、16歳の娘と母親の距離感ってお互い親離れ子離れが始まってくる時期というか、微妙なのかなと思うんです。子供だって高校生にもなると友達との付き合い方が深くなるし、親に何もかもおんぶに抱っこではなくなる。一方、親もまだ子供だと思いつつもあまり子供の世界に出しゃばったりはせず、不良にならないか、勉強はちゃんとやってるかくらいの感覚で見つめていると思うんですね。そういう自然な関係を出していきたいと思っていたんです。
――歩がいじめられていることに気付かない文子を、真矢さんはどう感じましたか?
おそらく見ていて「なんで気づいてあげられないんだ!」と、はがゆく思っていた方も多いと思います。でも、歩みたいに頑張り屋で家の中でも明るく努めていると気づかないのも仕方ないと思う部分はありますね。だから私は“たまたま文子が気づかなかっただけ”ではなく、“母親なりのズレ”があることをしっかり表現したいなと思っていました。それは、直接話もしないで自分の思い込みだけで勝手に子供のことを決め付けているとこんなことになりかねないということや、反対に子供にもいくら親子でも自分から発信しないと伝わらないし届かないものがあるんだよってことを見せたかったから。そのズレがあることを知って欲しいと思いました。
――そして、廃墟の事件が…。
文子はあの病院で頭にかなりの衝撃をくらったんじゃないでしょうか。傷だらけの歩と直面して、勉強だとか不良化だとかの前に歩が心身共に健康で元気でいてくれることが一番大切なんだって、それまでは元気でいるのが当たり前に思っていたけれど実は当たり前じゃなかったんだってことに気付いたと思います。警察から連絡が入る前の歩を探そうとしている時に友達の電話番号も知らなくて、それどころか誰が友達なのかも知らない自分に愕然としていて。歩のことを見ていたつもりで、実は何も見えてなかったことに気付けたことで、文子は本当の母親になれた気がしましたね。もちろん文子が勉強のことばかり心配していたのは歩の将来や未来を思ってのことで、決して間違っていないと思います。病院のシーンでは、お芝居とはいえ歩から髪飾りをプレゼントされて本当に嬉しかったんですよ。「いつも黒いゴムで結んでるから」なんて、歩なりのかわいい目線で文子を見ていてくれていたんだってことが何より感激しましたね。
――その後、歩から「戦ってる」と聞いた時の文子の気持ちはどう思われますか?
ショックだったと思います。歩がいじめられてることもそうですが、それよりも何も知らなかった自分へのショックが大きかったと思います。文子にしてみればかなりショックを受けているはずで、演じる時にもっと大げさに表現すべきか迷ったんですが、急にそれを言われたことを想像してみると「えっ!」という感覚ではなくて、モヤのかかった恐怖を感じたんですね。その時点ではいじめがどんなものなのかもわからないしあまりにも漠然とし過ぎていて驚きよりも信じられない気持ちが強いのかなと。
――すべてを聞いた今、文子は歩のことをどう思っているのでしょう?
“守りたい”、それだけですね。歩が勇気を持ってすべてを告白してくれたことは母親を信じてくれたからだと思うし、それが文子に母親としての自信を与えてくれた。だから、歩が学校で戦っているのなら、私も保護者として見えない形で戦おうと決意したんだと思います。
――実際の真矢さんと北乃さんの関係はどのような感じですか?
なんか母親のような気持ちになっちゃうんですよ。きいちゃんは心身共に大変な役ですからつい健康面が気になっちゃって、会うたびに「大丈夫?」「元気?」「食べてる?」ってそればっかり。きいちゃんは同じことばかり聞かれるなって思ってるかもしれませんね(笑)。私自身、母親によく「食べてる?」とか同じことを聞かれてうるさいななんて思っていたのに自分も同じこと聞いちゃってますね(笑)。
――歩が受けていたいじめを真矢さんはどう思いましたか?
難しい問題だと思います。歩がそうであるように、いじめは正しいことをして素直に生きていれば避けられるという問題ではないですから。もちろんだからといってひねくれた生き方をした方がいいというわけではなくて、誰にでも起こりうる可能性があるんだってことを知って欲しいです。“たまたま周りが悪い人だらけだった”“歩はたまたまいじめにあってしまったかわいそうな子”と思うのではなく、見た人が何か学ぶことがあればいいなと。今こういう問題に直面している若い子たちにこの作品でいいメッセージが届けられればいいなと思います。
――最後に、視聴者の方へメッセージをお願いします。
いじめが残酷過ぎて直視できませんという方もいらっしゃるんですけど、私はそここそが肝心なところでぜひ見て欲しいって思うんですね。私も台本を読んで苦しくなることがあるけど、知ることはとても大切なことだなと改めて感じましたし、いじめに直面している子から頑張りますとか、いじめていた子が自分のやっていることのひどさに気付いて反省しているという感想を聞くと、頑張って作っている甲斐があるなって心から思うんです。子供たちだけじゃなく、大人も目を背けずに見てほしいですね。