インタビュー

木村 拓哉さん 風間 公親(かざま・きみちか)

Q. 教官・風間公親という役柄について

原作の「教場」シリーズは、「教場」「教場2」「教場0 刑事指導官・風間公親」、そこについ最近出た「風間教場」が加わり、現在4作品あります。「風間教場」はまだ読めていないですが、この役のお話をいただいたときに3つの原作を読ませていただいて、その面白さに驚いたのはもちろん、題材が題材なので映画ではなくテレビドラマとして一体どんなふうにやるんだろう? みなさんのメンタルが上がっているお正月というタイミングで、こういう題材をやるのか?と驚きました。というのは、令和という時代になり、何かにつけてハラスメントという言葉をつけてしまえば何でも成立してしまう今の世の中で、『教場』のようなドラマに挑戦するのはとてもパンクに思えました。そのパンクさにものすごく面白さを感じましたし、やるからには思いっきり楽しみたいとも思いました。この作品における風間公親をどうするかについては、(役をもらった段階で)現存していた「0」「1」「2」すべてに目を通して、そこからなぜ風間公親は警察学校の教官をやっているのか、彼がそこにいる理由を自分なりに受け取り、それを軸にして役に臨みました。

Q. 白髪に義眼、インパクトのあるビジュアル

風間の外側は完全にお任せしています。ただ、事前に白髪について、自分が通っているヘアサロンのカラリストに「白髪ってできる?」って聞いてみたことはありました。白髪にするのも白髪に近づけることも難しいという答えで……メイク担当のスタッフにお任せしました。風間が白髪であるワケは、原作(0と2)の表紙のイラストに描かれている風間の後ろ姿がヒントになっています。

Q. 風間公親だからこその役づくり

警察学校は普通の人がなかなか触れることのない場所、警察官を志す人しか過ごせない場所なので、どこまで(ドラマとして)デフォルメしていいのか、どこまでリアリティを出すのか、中江監督とディスカッションを重ねました。監督と一緒に警察学校にも伺いました。それは役を作るという感覚とはまた違って……演じるからには、その人たちが体験している空気を吸っておかないとすべてが嘘になってしまうような気がして。警察学校のみんなが吸っている空気を監督と一緒に吸いに行ったという感覚です。でも、その後の衣裳合わせで監督と再会したとき「学校に行った時、あの時すでに風間のイメージを作っていたよね?」と言われて。そんなことはないんですが、監督が「今回、眼鏡はありだと思うんだよね」と。隻眼になってしまったがゆえに義眼であるという描写が原作にあるので、眼鏡を組み合わせるのはありだよねと。そこからメイクの人にも加わってもらい、あの風間のスタイルが出来上がりました。

Q. 風間のミステリアスさについて

彼が警察学校の教官になった覚悟、その覚悟が風間公親を形成しているんじゃないかと僕は捉えていて。風間は、不適合な人間を絶対に世の中に送り出すわけにはいかないと思っている。彼がそう思うのは前例があるからで、その前例を目の当たりにしたがゆえに、彼は現職から送り出す側に戻って教官をしているんじゃないか、そう捉えています。風間教場の生徒たちが風間のことを、怖い、威圧的、何を考えているのか分からない……と感じてくれることで、視聴者の人たちも彼らの目線になって風間を捉えてくれるのではないか。どこかアンバランスで違和感がある、単純な怖さではないものが伝わればいいなと思います。

Q. 警察学校の所作訓練に参加したこと

生徒役のみんなが、役に対して(準備を重ねて日に日に)ステップアップしている、それを目の当たりにして、彼らの全力に自分も全力で向きあっておかないと後々そのステップアップに誤差が生じてしまうと感じて訓練に参加させてもらいました。撮影が始まって教官として存在する──教壇にガンッと上がった瞬間、この人は何を考えているんだろう? どこ見ているんだろう? と思わせる立ち位置になるには、みんなと同じようにスタートを切らないと、という思いからでした。

Q. 初めて教場に立ったときの気持ち

木を見ず森を見るという感じ、俯瞰で見ている感じですね。片方の目で生徒たちを見てはいますが、1人1人と目を合わせて対峙するというよりも、全体を見ている人という感覚でした。

Q. 実際の警察学校の印象

僕らが作ろうとした教場はどちらかと言ったらアンリアル。(ドラマの中でふるいにかけるというセリフがあるけれど)実際の教場ではいかに退行者を出さずに(という方針)で、警察学校に合格した時点で巡査という位が与えられ、国からお給料も出ていて、そういうなかで剣道、柔道、逮捕術、法律……警察官になるために様々なことを学んでいく、そういう6ヶ月です。そのリアルな警察学校のどこを僕らは描くのか──たとえば点検の所作は実際の警察学校のみんなと並んでもひけをとらないと思いますし、ほかにも行進、姿勢、そういうリアリティはどんどんドラマにも取り入れています。

Q. 風間教場の生徒たちの印象

すごいエネルギーでした。風間公親が存在する教場は、みんなにとっては居づらい空間だったらしいんですけど、木村拓哉という先輩に対して興味があったらしく、それは個人的に嬉しかった。ただ、みんなと僕の間には小学生と大学生ぐらいのジェネレーション差があるので、彼らの学生時代はどんなものが流行っていて、どんなものを「すげえ!」と思ってきたのか、いろいろ不透明ではありました。そんななか現場で「言いづらいんですけど……(共演できて)超うれしいっす」とか、そういう言葉をもらったときは、恥ずかしさもありつつすごく嬉しかったですね。また、顔合わせのときに、分かる人だけに分かればいいかなと思って言ったことがあって──「風間公親役の木村拓哉さんです」と紹介してもらったときに「中江教場出身の木村拓哉です」と自己紹介をした。生徒のみんなは「何言ってるの?」と思っていたはずだけど、今はその意味が分かると思います。(※中江監督と木村は『若者のすべて』をはじめ『ギフト』『眠れる森』『プライド』など何本ものドラマでタッグを組んできた)

Q. 『教場』という作品の魅力

いまの世の中は、何か嫌なことがあったとすると、それに対して単純に(簡単に)「嫌だ」と責任なく言えてしまう、それが主流になってしまっている。でも、もう少し自分のなかでいろんなことを考えて、いろんなことを感じてほしいというか……(嫌だなと思うことのなかには)痛みや苦しみ、辛さもあって、その感じ方や感度もそれぞれだと思うけれど、よく考えることで、そのなかに愛情というものが必ず含まれていることに気づくはずで。そういうことを『教場』から感じてもらえたらすごく嬉しいです。

Q. 作品を通して伝えたいこと

日本全国みなさんの生活のどこかにいてくれる警察官は、全員が教場を卒業した人たちで、志の低い人はいないはずです。お巡りさんって、目にするとどこか構えてしまう存在ではあるけれど、この『教場』というドラマきっかけで、ちっちゃい「ありがとう」と、ちっちゃい「おつかれさま」そんな感謝の気持ちを持ってもらえたら嬉しいですね。僕自身も風間を演じる前と後で変わりました。帰り道の途中に交番がいくつかあって、今では心のなかで敬礼をしています。24時間ノンストップで交番を稼動させるって大変なこと。交番をはじめパトカーや白バイ、警察機関全般に目が行ったときの気持ちはすべてプラスになりました。

Q. 後編の注目ポイント

前編を見て思ったのは、まるで陸上の団体リレーのようにバトンワークが凄いということですね。後編にどう繫がっていくのかも楽しみです。バトンを回していたみんなはやがて卒業して、そのバトンは風間に戻ってきて、そしてまた次の生徒に回すことになる。後編では前編以上のバトンさばきが期待できると思います。それから、風間公親だからと自分を納得させて演じていましたが、後編で風間がやっていることは変態的です。風間公親は普通じゃない、ある意味いっちゃってるヤツだと思うような場面も登場します。でも決して消化不良はないと思います。

Q. 前編と後編をつなぐ道場のシーンに込めたもの

原作に道場のシーンは一切ありません。道場のシーンをドラマに入れたのは──中江監督と警察学校を見学させてもらったときすごく印象的だったのが、警察学校在学中に有段者にならないと卒業の資格を得られないそうで、剣道を始めたばかりのクラスと有段者のクラス、その2つを見比べたとき、風間のビジュアルを防具で覆うことで、あるシーンを描けるのではないかと。脚本には風間の生活は描かれていないので、どこかで彼の精神的な部分を表現できないかと話していたんです。監督が「拓哉、剣道やっていたよね、じゃあできるよね」という流れで、道場のシーンができた。道場のシーンは、瞬間的に時代が行ったり来たりもしますが、前編と後編をつなぐそのシーンに関しては、木剣を目の前に置いて、胴着に身を包んで、道場に正座して黙祷している、それだけで風間は何を考えているんだろう、どんな時間を過ごしているんだろうと考える──。そして、その時間の裏側では生徒たちにバトンが回っていて、次のバトンに行きかけたとき、黙祷していた風間の眼が見開く。漂ってくる匂いなのか違和感なのか、何かを感じて、見えている目で見る、見始める。空気の変わりどころ、という意味で作ったシーンですね。ドローンを使ったワンカットです。