以前、当サイトでも『医師たちの恋愛事情』のセットを見学するツアーについてご紹介しましたが、このドラマでは、第一外科の医局、処置室、手術室、病室などがスタジオセットで撮影されています。そのセット作りのプロセスや、画面からはわからないような工夫について、美術デザインを手がける鈴木賢太氏にお話をうかがいました。

まずは今回のセットのコンセプトについて伺いたいのですが…。

今回、一緒に組むプロデューサー、ディレクターが、いままでの医療系の人たちではなく、主に恋愛ドラマを手掛けてきた人たちなんですね。僕は今までに、『医龍』『コード・ブルー』『ラストホープ』などをやってきて、そういう作品のときは「医療がドラマのど真ん中にあって、先端医療でカッコ良く見えるようにお願いします」というように言われるんですけど、今回は恋愛チームからのものだったので、最初は「ピンクの病院作んなきゃいけないのかな?」なんて思ったんです(笑)。でもいろいろ話を聞いていくうちに、真っ当な医療もので、医療を突き詰めれば突き詰めるほどその姿に恋していく、というような話で、「極めてまともな、実際にありそうな病院にしてほしい」というオーダーを受けて…。その上で、今回の衣装感とか映像のテイストを加味して、木調と白を基調にして、所々に青が刺さっていくような空間をデザインした感じです。

医局や手術室、処置室などがセット撮影されています。

医局が一番大きな部分としてあります。 医局につながっている大きい廊下、それとは別に、手術準備室、手術室、それを見る見学室、処置室。あとは病室やエレベーターを作りました。普段ですと、(空いているところに)「もうひと部屋、作ろう!」となってしまうものなんですけど、今回は春樹(斎藤工)と千鶴(石田ゆり子)が夜ふたりっきりになったときの奥の抜けを素敵に見せたいな、と思って敢えてその空間をキープして、遠くの景色だったり、夜の闇だったりをキレイに作れるよう心がけました。詰め込み過ぎずに、いい絵がキチンと撮れる、というのがテーマですね。

恋愛模様をどのように撮影していくのかも意識されているわけですね。

そうです。普通の病院、というオーダーでしたけど、やっぱり白い壁だけだと冷めちゃうんですよね。なので、所々、風が入りそうな窓があったり、窓の抜けに奥行きを感じてもらえたりするようにしました。オフィス家具も白と青を基調にして、たまに赤が入ってくるようなレイアウトを考えて…。

部屋によって天井が抜けているところもあります。照明さんとの打ち合わせなども重要だったのでは?

今回は特に綿密な話し合いをしました。現実的に見せるために、ロケとセットのつながりを強く意識して、「ここからがセットだな」と思われないようにして…。外から引っ張ってくる空気があるところは極力天井をかけて、外光が横から入ってくることを心がけています。で、中に行くにしたがって、天井を抜いて丁寧な明かりが作れるようにしています。

実際に参考にされた病院はありますか?

今回は9ヵ所くらい見学しました。「必要なかったんじゃないか?」と思うくらい、いろんな種類の病院に行きましたね(笑)。制作側も初めてのテーマだったので、「どれくらいのバランスがいいんだろう?」というのは体感しないとわからなかったんです。で、ちょっと古いタイプの実績がありそうな病院だったり、新しくてそれこそ空港のように見えるようなファッショナブルな病院だったり…といろんなタイプを見学して、その中でバランスを考えつつ、相性が良さそうなものを選んでいったんです。

いろいろな病院から、ドラマに合う部分をチョイスしていったんですね。

そうです。「ロビーはここがいいな」「ふたりが歩いているときに奥行きが凄くいいのはここかな?」とか。そういうのをひとつずつ切り取っていって、連ねたときにそこに同じ空気感が漂うようにコーディネートしていく、という作業でしたね。セットの基調になっているのは木調の部分なので、木目のパネルを常に持ち歩いて、ロケで映るシーンごとに木目を足すんです。そうすることで、どこを切り取ってもその病院の雰囲気が出てくるという感じで作っています。

スタジオ全体が本物の病院のようです。セットの場合、例えば主人公の部屋のとなりに別のセットが建っているような場合も多いわけですが…。

今回は、職業だけに没頭するわけではなく、それをやりつつ恋愛をする、ということで、より板についていないといけない、という思いがあったんです。ここの中にずっといることで錯覚してもらいたいな、というのがあって、例えば「春樹の部屋を作る?」という話になったら、それはもう脚本の段階から彼は部屋に帰らず、ここに人生がある感じにしよう、とか。脚本だけでなく、撮影の進め方も考慮しながら考えていったんですけど、今回の判断としては他の部屋を作らずに、どこを歩いても同じ病院だと感じられるものを目指しました。

斎藤さんや石田さんはこのセットに関して何かおっしゃっていましたか?

一番嬉しいのはシンプルな感想なんですね。「あ、病院だ」っていう(笑)。「カッコいい!」とかになっちゃうと、ちょっと違うじゃないですか。勤めているところなのに、「カッコいい」「オシャレ!」ってなってしまうのはちょっと違う。なので、ヘンな言い方ですけど、今回に関しては80点くらいを目指したんですね。ステキ過ぎない、という。一度、「素材も面白いし、絵的にも美しいし、こういう病院があったらいいな」というところまで考えた上で、引き算をしたんです。あくまで彼らがちゃんと働いている病院に見えるために。キャストのみなさんは、自分のデスクに座ったときに、置かれているものなどを見ながらキャラクターを確認なさっていましたね。引き出しなども開けてみて、「なるほど」と(笑)。

準備からこのセットが完成するまで、どのくらいの時間がかかりましたか?

恋愛と医療の両方をテーマにしたドラマをやる、という説明を受けたのがスタートなんですけど、そこから1ヵ月くらい、中々まとまらなかったんです。やっぱりちょっと難しかったです。恋愛を真ん中に置くと軽くなっちゃうし、医療を真ん中に置くと単なる医療ドラマになっちゃう…ということで、苦労しながらようやくバランスが見えてきて、そこから一気に動いた感じです。実際に声がかかって動き出すまでに1ヵ月近くかかったわけですが、そこからは早かったです。2週間ぐらいであらゆるものがそろった感じでしたね。

医療機器も最新のものが入っていますよね。それによってもデザインは変わってくるのでは?

そうですね。今回、病院のグレード自体が、新しい大学病院で、外観的にも築5年以内、という雰囲気だったんです。なので、これは最先端の機材でいい、というジャッジでそろえました。こだわったのはやっぱり色ですね。手術室は通常グリーントーンなのですが、ブルートーンに統一することで手術着のグリーンがきわ立つようにしました。手術のシーンになったときは恋愛的なものは度外視して、いっそう引き締まったものに見せるために器具も含め他の色調はおさえました。

セットで2階部分といういのはあまり作らないですよね。今回は見学室がありますが…。

最後まで聞いていました。「本当に作ります?」って(笑)。当然、面積も増えますし、人が乗るので鉄骨も入りますから。見上げるアングルになるので天井も必要ですしね。そうなると、料金的にも一気に跳ね上がるんです。でも作った甲斐のある、迫力ある絵がとれるようになりました。

一番大変だったのは?

長くて幅の広い廊下と医局の部分ですね。医局っていうのは一般的な考え方からすると、ただの部屋なんですよね。実際に、ロケハンに行ってみると、どんな素敵な病院でも医局は普通の部屋でした。でもここで恋愛を表現する、ということなので、逸脱せずに素敵な絵が撮れて、でもリアリティーがある、というところを目指さなければいけなかったので、いろいろ考えました。こちらの方向から撮るとレンガの質感を感じる。こちらから撮るとガラスの小部屋、また別の角度から撮ると抜けの抜けで外の景色を感じる…というように、どの角度から撮っても印象が変わっていくように心がけたり、ふたりが恋愛関係として接触できる場所を、イスに座っている状態、ソファーのポジション、小テーブルのところ、小部屋の中、というように、このセットの中で、いかにいろんなバリエーションのふたりのシーンが作れるか、というところは細やかに考えたところです。

カメラマンさん、音声さんら技術スタッフとの打ち合わせも重要になりますね。

いい絵が撮れることは大事ですけど、スピードも大事、という話になりまして。マルチ撮りというんですけど、複数のカメラで一辺に撮るんです。そうすれば、演者さんは繰り返しお芝居をしないで済むので、撮影時間も短縮できるわけです。ただ、そうすると、当然大きいスペースが必要になるわけです。だから、そのスペースを作るために、それこそ10cm、20cm削り出して空間を作って。医局も、たくさんのカメラで一辺に覗けるようにいろんな窓がついているんですけど、凸凹があって、影に隠れるように撮れるような仕掛けもここには施されています。各セクションが、医療ものなんだけど恋愛ものでもある、というのを常に意識しながらやっていますね。

この仕事をされていて、一番よかったと思うことは?

そのドラマに求められている世界観をキチンと作れて、現実にあるもので揃えたものより良いものが出来たな、と思ったときですね。演者さんが「思っていたとおり」「自分はこういうところにいるべきだと思った」って言ってくれたり、本番前に自分が映っている絵を見て「いいね」ってひと言言ってくれたり。家のセットを作ると、演者さんがずっとそこにいてくれたりするんですよね。靴を脱いで上がって、ソファーに座って…そこでずっと生活をしているような感じを染み込ませているところを見ると、映っていなくても端っこまでちゃんと作る、というのは芝居をするということに関しては必要なことだな、と思います。

―最後に、この辺を注意して見ると、より面白いというポイントがあれば是非教えてください。

メインのキャストの部分は、見ていただいているとおりなんですけど、サブキャストのみなさんの机の上のもの…本の背表紙、ポストイットの1個1個が意外と衝撃的だったりするので気を付けてみていただけたら面白いかもしれません。その辺にも注目していただけたら嬉しいですね。