今回の撮影現場の印象からお伺いしたいのですが…。

重厚かつシリアスな作品なので、途中からの参加は大変です(笑)。格調高い作品ですし、キャストやスタッフのみなさんのチームワークも出来上がっていますから、そういう現場に途中から参加させていただく、というのはやはりドキドキするものなんです。実はまだ、あまり慣れていないです(笑)。連続ものに1話だけ出る、というケースともまた違うんですよね。1話だけの場合ですと、ある種やり逃げ的な(笑)、キャラクターを作ってバーンと出ていけばいいんですけど、今回は里井副社長(岸部一徳)の影のような男ではありますけど、それなりに存在感もなければいけないですし…。
その角田保というキャラクターを実際に演じられてみていかがですか?
割と分かりやすい出世願望を持つ男で(笑)。寄らば大樹の陰、じゃないですけど、「ああ、この人が出世するかも…」となると、すぐそこにすり寄っていくような…。ですから、悲しい“分かりやすい男”だと思うんです。ただ、こういう作品なので、コミカルに行き過ぎてもいけないですし。ちょっと笑っちゃうような人物像ですけど、近畿商事という大会社の重役でもあるわけですから、それなりの男でもあろうし…。ですから、そういう人物としての風格も保ちつつ、「情けないなぁ」「出世欲に駆られると、こんなにも人は愚かになってしまうのか…」というような部分が、可笑しくも悲しく、出せるといいなと思っています。
重厚な人間ドラマゆえにその辺りのバランスも難しいということでしょうか?

そうですね。どの辺まで出せばいいのか、という部分は、とても難しいと思います。どのキャラクターもお腹にためているというか…。ビックリしても、「あっ!?」と表情や声に出すようなキャラクターではないので。ビックリしても出さないし、凄く悲しくても出さないし、嬉しくても出さない(笑)。比較的、喜怒哀楽があるのは、大門社長(原田芳雄)とか鮫島さん(遠藤憲一)あたりですけど、おふたり以外は、顔を見ているだけでは何を考えているのかわからない人たちばかりなので。ぶっちゃけ、見ていても、「何と笑顔のないドラマだろう…」と思いますからね(笑)。でも、笑ったり、笑顔を作ったりすると、何かが全部ダメになるというか…。僕は、腰巾着的な人物なので、少しは笑顔を見せられるといいな、とは思っているんです。ウソ笑顔でいいんですけどね(笑)。
壹岐正を演じている唐沢寿明さんとこの現場で実際に共演されてみていかがでしたか?
本来は、とても明るくて愉快な方なんです。でも、今回のように、ポーカーフェイスというか、すべてを自分の中にためこむようなああいう演技をなさっているのを見ると、凄いな、と思います。オンエアを見ていると、いろんなことを想像させてくれるんですよね。「いま、彼は何を思っているんだろう?」って。見ている者にイマジネーションを広げさせるというお芝居は、もの凄く難しいと思うんです。表現してしまう方がずっと楽ですからね。それはやっぱり、彼の人間性と、これまで積み重ねてきたものの大きさでもあると思います。
この作品のように、主人公があまり多くを語らず、
周囲は強烈なキャラクターというドラマも珍しいですよね。
主人公が一番大人しいですからね。基本的に受け身で、常に冷静沈着で…。
物語は、中盤のヤマ場である千代田自動車編で、
里井副社長の健康問題なども絡み、ますますスリリングになってきました。

割と、中高年の方が見てくださっているようで、思いもかけない方から…遠い親戚のおじさんとかから(笑)、「見ているよ!」って言ってもらえたりして。やっぱり大人がドキドキしながら楽しめるドラマ、という意味でも、素晴らしいなと思います。大人の方たちの目は肥えていますからね。あの時代に一生懸命働いていた方たちは、「昔はあんなじゃなかった!」「お前らじゃ軟弱過ぎる!」とか、心の中では思っていらっしゃるかもしれないので、怖いですよね(笑)。戦国時代とかの話なら、「お前、見てきたのか!?」って言えますけど、まさにいまの日本を築き上げた方たちが見ていらっしゃるわけですからね。梶原(善)くんとも話していたんです。「僕ら、商社マンからはもっとも縁遠いよね」って(笑)。それこそ、年に2回くらいしかプライベートでネクタイを締めないような人種ですし(笑)。サラリーマンになれないから役者をやっているにも関わらず、こんなにガッツリ、サラリーマン役を演じているわけで…。でも、この役を演じてみて、つくづくサラリーマンにはなれないな、と思いました(笑)。大変ですよね、本当に。
この作品は、昭和30年代、40年代が舞台ですが、
篠井さんにとって「昭和」とはどういう時代でしたか?
間違いなくある時代の日本だし、それもそう遠くない時代…僕が東京に出てきてもう30年になりますけど、当時は電車も初乗りが60円とか80円とかで、切符を買って、改札でそれを切ってもらって乗って…。いまは、カードでピッ、ですもんね。電話だってもちろんまだ黒電話でしたよ。それが、いまや誰でも携帯電話を持っている時代になって…。僕にとっての携帯電話は『鉄腕アトム』の中の世界でしたからね。たった30年の間のこの変わりようは、凄いものだな、と思います。僕は電車で通っているんですけど、今日もりんかい線やゆりかもめに乗ったりしながら、そんなことを考えました。このドラマをやっているせいかもしれませんけど、最近、よくいろんなことを振り返っちゃうんですね(笑)。便利になったから、あの時代に戻りたいとは思わないですけど、ノスタルジックな気分にはなりますよね。僕は昭和33年生まれなので、このドラマはまさにそのころのお話でしょ。いま父が77歳なんですけど、彼らはそれよりももう少し上の世代になるのかな? 「ああ、こんな時代を男たちは過ごしたんだな…」という思いはありますね。ですから、大事に演じなければいけないな、と思いました。『三丁目の夕日』で昭和ブームみたいなものもありましたけど、ある意味、一番描かれにくい時代でもあると思うんです。庶民レベルというか、風俗レベルではあっても、こういう企業ものを映像として、それもテレビでやるというのは、なかなか勇気がいることでもあると思います。作り手の志がないとやれないと思うんです。僕も、ひとりの参加者としてその志に沿わねば、と思います。でも、そんなことを考えていると、また緊張してしまうんですけどね(笑)。
最後に、視聴者のみなさんに向けて、メッセージをお願いします。

この人たちは、一生懸命働いているんですよね。権力闘争をしているだけに見えるかもしれないですけど(笑)、働いている。それは、自分のためであったり、家族のためであったりしているわけですけど、それはやがて、「何のために働いているんだろう?」ということに行きつくような気がするんです。壹岐さんは奥さんも亡くなってしまったし、何のためだろうといえば、それが彼の運命なのかもしれないし、世の中…日本のために何か自分が役に立つのかもしれない、と無意識に思っているからなのかもしれないですよね。いま、世の中も大変な時代ですけど、この男たちの群像を見て、フリーターの人も、派遣の人も、正社員の人も、会社が上手くいっている人もいってない人も、もう一度、働くということについて考えてもらえるといいな、と思います。人は働かないとダメだと思うんです。だから、職がない、というのは本当に辛いと思うんです。別にサラリーを貰う、という意味だけはなく、専業主婦の方が、お洗濯してお掃除しておさんどんするのも、誰かのために働いているということですよね。この男たちの世界は、極端ではあるんですけど、そういう姿を通して、もう一度、「自分にとって働くとはどういうことかな?」なんて考えてもらえたりしたらちょっといいな、と僕は思っています。