今回の現場の印象からお願いします。
この現場はとても良いですよ。じっくりとドラマ作りをしている感じがあって。丁寧に作っていますからね。スケジュール的に厳しいというのはありますけど、楽しいですね。
役者さんの凄みを感じる現場でもあります。
俳優はもちろん、スタッフのみなさんそれぞれが、持っている力を必要とされているのは実感しますね。だから、自分でもいろいろなことを考えながら、それをぶつけていって。そういうやり合いの中で、ひとつひとつドラマが進んでいくというのは、僕に限らず、みんなが実感しているんじゃないでしょうか。
里井副社長は、とても強烈なキャラクターですね。実際に演じられてみて、いかがですか?

自分が演じているということもありますけど、なかなか面白いキャラクターで、面白い人生だな、という風に思います。演じていても楽しいですよ。ドラマの中でのキャラクターの位置づけみたいなことで言うと、主人公を善だとすると、その対比として単純なところで「悪い役やってるんですね」って言われるような男でしょ。そのことだけでも楽しい。どっちをやりたいか、って言われたら、こっちの方が楽しいかもしれませんね。実際は、そういう単純なところだけじゃないわけで、やりがいもありますし。
冷静沈着な壹岐(唐沢寿明)、豪快な大門(原田芳雄)がいて、
そこに悪の匂いがする里井というキャラがいる構図は最高ですよね。
ある意味では、分かりやすいキャラクターですからね。その分だけ、ドラマの面白い展開の中に里井が置かれているので、上手くその中で、原作通りじゃない部分も含めて表現していきたいとは思っていました。
演じるにあたって、特に注意した点は?
里井というキャラクターは、壹岐を中心にして考えれば、崩れていくというか、剥き出しの本能みたいなものも引き出されていって変わっていくんですけど、もともとは、ちゃんとした家庭に育った男だと思うんですね。ボンボンというか、育ちみたいなものを、どっかでずっと引きずっているような感じをどうやって残すか…だから、乱暴に怒ったりする中でも、そこからはみ出さないものがあるんじゃないかと。そういうところは意識しているところではありますね。
間違いなく、優等生だったでしょうし…。

そうだったと思いますね。だから、「壹岐にさえ出会わなければ…」ってことなんでしょうね(笑)。まあそれは、里井に限らずなんでしょうけど…。みんな、壹岐という人に出会うことで、自分の中から何かが出てくる…嫉妬が生まれ、意味もなく彼を憎悪する、みたいなことになっていく。逆に言えば、壹岐という人物がなかなか面白い、複雑な、深い人、ということにもなっていきますね。
分かりやすい構図を持ちながら、その裏側には複雑で深い背景もある、という意味でいうと、
演出や役者さんのさじ加減ひとつで印象が違ってくることもありますよね?
そうですね。素晴らしい原作があるので、それを引きずってしまうということはあるんでしょうけど、キャラクターの置き方でいえば、やる人によって少しは変わってくるでしょうね。演出方法で「ここをもう少し膨らませたいな」というのが出てきたときに、僕でいえば、里井の表現みたいなものでそれに乗っかってみたりして、ドラマとしての面白さを出していくというのは常に考えています。でもそこには、はみ出すところと、はみ出しちゃいけないところ、というのがあると思うんです。それは、壹岐という人物とその生涯っていうのが、この『不毛地帯』のど真ん中にあるものなので、その周辺にいる人たちはいつも真ん中に彼を置いていなければいけないので。面白いからといって、過剰にはみ出していってはいけないんですけど、これだけの俳優さんが揃っていると、そういうことも考えながらできるような気がします。
物語は、千代田自動車とフォーク社の提携話が進行する中で、
里井副社長の健康問題が大きなウェートを占めてきました。

もう、何回倒れましたか(笑)。とうとう、「もうダメかもしれない…」というところですけど、執念みたいなものですね。健康問題というのは致命的ですよね。政治家の方なんかも特にそうでしょうけど、ひとつの企業ですら、「心臓だからもうダメなんじゃないか?」と言われるわけでしょ。だから、そのことを徹底的に隠して、「あいつにだけは社長の座を譲らない…」という執念を見せて…。凄いですよね。僕らにはちょっと理解できないようなところもありますね。
壹岐正を演じている唐沢さんの印象は?

ブレない人ですね。彼の心の奥底はわからないですけど、お互いに俳優同士というところから見てみると、壹岐正という役をやっている彼が背負うもの…少々のことで動揺してはいけない、ブレちゃいけない、これで行くんだというものを最後まで貫き通そうとする覚悟みたいなものを感じます。ひとつひとつの芝居をどうするか、ということではなく、覚悟みたいなものを感じられる優れた俳優だと思います。やるべきことはやらなければいけない、膨大なセリフを覚えなければいけない…それでいて、ある意味、自由にキャラクターを表現できる周りの人を受けなければいけない。その中で初めて、壹岐という男が浮かび上がってくるわけですから、なかなかキツイ役どころですよね。
強烈なキャラクター揃いの中で、あのように静かな男を演じる、というのは…。
もの凄く大変だと思いますよ。自分があれこれできないだけにね。
この『不毛地帯』は昭和という時代が舞台になっています。
岸部さんにとって、昭和とは?
昭和30年代から40年代って、ちょうど僕が音楽をやり始めたときで…。15、6歳のころですね。昭和っていうと、やっぱり子どものころの印象が凄く強いんです。僕は戦後生まれで、貧しい時代の小学生だったんで、そのころの懐かしさ、人間関係、貧しさ故の楽しさ…そういう思い出をずっと引きずっているようなところはあります。いまドラマでちょうどやってる40年代は、僕も音楽をやってたころで、自分にとってとても身近な時代でもあるんです。
1960年代~70年代は、音楽シーンも豊かで、とても重要な時代でもありますね。
そうですね。何かが始まる…新しいものがどんどん出てきていて、それを思い切ってやれる時代だったと思います。映像を見ていても、懐かしい感じがします。いくらCGを使うといっても、場所探しから始まって撮るのはなかなか大変ですけどね(笑)。