FNSドキュメンタリー大賞

2018.10.16更新

ザンビア共和国は、アフリカ南部に位置する内陸国。開発途上国の中でも特に開発が遅れる「後発開発途上国」に分類されています。そんなザンビアのへき地で活動する日本人医師が宮崎県出身の山元香代子さん。十分な医療を受けることのできない人たちのために「巡回診療」を行っています。これまでに診察した患者は延べ2万8000人。過酷な環境で活動を続ける背景には、へき地医療を見つめ続けてきた医師としての強い思いがありました。

ザンビア共和国は、日本からおよそ13000キロ離れた、アフリカ南部に位置する内陸国。人口はおよそ1600万人で、後発開発途上国いわゆる「最貧国」に分類されています。市街地の近くには「コンパウンド」と呼ばれる貧困層の住む地区があり、広がる貧富の格差や、治安の悪化が問題になっています。と、ここまではよくあるザンビアのお国事情。山元さんの活動する場所は、都市部から車で5時間以上移動したところにある「へき地」。かやぶき屋根の家が並び、近くに学校や病院はなく、電気も通っていないような場所です。

山元さんは、十分な医療を受けることのできない人たちのために、「巡回診療」を行っています。巡回診療とは医師自ら現場に出向き、診察や薬の処方を行うこと。全てを無料で受けることができるため、さまざまな患者がやってきます。山元さんは患者ひとりひとりとまっすぐに向き合い、優しく診察を行います。

患者が多いのがマラリアです。熱帯から亜熱帯に広く分布する感染症で、原虫が蚊によって媒介されることで感染します。高熱や頭痛、吐き気、ひどいときには意識障害や腎不全などを引き起こし、世界では開発途上国を中心に年間40万人以上もの命が失われています。山元さんが巡回診療を始めてから、へき地でマラリアで死亡する人は劇的に少なくなりました。しかし、蚊を予防するにはあまりに無謀な生活環境。油断できない状況は続いています。

宮崎県都城市に生まれ育った山元さんは、中学生の頃に医師を目指すようになり、自治医科大学に進学。6年間学業に励み、卒業後、研修医を経て着任した場所は日本三大秘境のひとつ、宮崎県椎葉村でした。番組では当時の山元さんを知る同僚にインタビュー取材。若き医師がへき地医療の現場に立つ様子を語ってもらいました。また、椎葉村には当時の映像も保管されていました。家々を回り、優しく診察する山元さんの様子は、今の巡回診療につながっています。

その後、WHOの医務官などを経て、2010年にザンビア共和国で医師免許を取得。その翌年から巡回診療をスタートしました。しかし、全てを無償で行う巡回診療には、薬代や人件費をはじめ、年間700万円もの資金が必要です。悪路の往復で車も傷つき、維持費も飛んでいきます。NPO法人を設立したことで寄付が集まるようにはなりましたが、さまざまなところを切り詰めながら活動を続けています。過酷な状況に、孤独や迷いを感じることもありました。女性として結婚や出産への憧れを捨てきれない時期は本当に辛かった、と語ります。山元さんの人間味あふれる正直なインタビューも必見です。

山元さんがここまで頑張れるのはなぜなのでしょうか。取材を続ける私たちが、ずっと疑問に感じていたことでした。しかし、実際はとてもシンプル。山元さんは、いつも目の前の現実を見つめ、それに対し自分の信念を貫いているだけなのです。ただ、これは決して誰にでもできることではありません。揺るぎない信念と、強い正義感や使命感を備えた山元さんだから成せることなのでしょう。

コメント

ディレクター・村上辰之助（テレビ宮崎制作部）

「ザンビア共和国での取材は、想像以上にタフなものでした。首都・ルサカから荒れた道を車で5時間かけて移動し、ルアノ地区という集落を訪ねたのですが、多くの人が自給自足や物々交換で生活しているようなところでした。電気もガスもなく、最寄りの医療機関（医療機関といっても医師はおらず、手術もできないような施設）までは歩いて数時間。よく“ライフライン”などと言いますが、日本で感じる“当たり前”が決して当たり前でないことに気づかされました。
マラリアの患者が多く、対処が遅れれば抵抗力の低い子どもは死んでしまうこともあります。弱っている子どもには優しい山元さんですが、薬をちゃんと飲まない大人には本気で叱りつけます。過酷な環境で、お給料ももらわずにこんな活動を続けられる方がいるんだなと、本当に驚き、尊敬しました。番組を見て山元先生の芯の強さや厳しさの中にある本当の優しさを感じていただければと思います」

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