FNSドキュメンタリー大賞

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2018.9.18更新

“風景”はつくれるー若き木工職人の成長記

第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
やがて風景になる 若き木工職人の成長記

9月17日(月)27時~27時55分

日本の林業が抱える厳しい現実と、予想もしなかった出来事を乗り越え、たくましく生きる岡山県西粟倉村の若き木工職人と仲間たちの10年を追います。

国土の3分の2、世界第3位の森林率を誇る日本。しかし今、日本の森林は危機に直面しています。安い輸入木材の流入などで値崩れが起き、森林所有者の意欲低下、高齢化などから手入れが行き届かなくなり、荒れているのです。人口約1500人、岡山県北の小さな村・西粟倉村も例外ではありません。村の面積の95%を森林が占め、日本の五大ヒノキ産地の一つとして知られる西粟倉村。かつては林業で栄えたこの村も、森を育てるために必要な間伐が行われず、森林の荒廃が進んでいます。

そんな村に今、若者たちの明るい声が響いています。村が進める「百年の森林構想」に引かれ、全国から集まってきた人たちです。岐阜県・飛騨高山の家具メーカーをやめ、2009年に西粟倉村にやって来た大島正幸さん(37)が立ち上げた「木工房ようび」は「百年の森林構想」実現の象徴の一つとなっています。村が中心となって、手入れが行き届かなくなった森を一括管理する「百年の森林構想」。荒れた森に手を入れ、間伐材を使った商品で利益を出すと同時に、村に新たな雇用を生み、若者の定住を促進させるというものです。戦後一斉に植林された山をもう50年大切に育て、次の世代につなげたい。そのために必要とされる、木の需要を伸ばすために大島さんが選んだのが、これまでタブーとされてきたヒノキの家具づくりでした。

ヒノキは他の木と比べて柔らかく油分が多いため、家具の素材には適していません。大島さんは試行錯誤の末、独自の工法を編み出し、そのタブーを打ち破りました。これまで誰も手を付けなかった分野に挑戦したのは、ヒノキの用途が広がらない限り、「百年の森林構想」の実現はないと考えたからです。「ようび」が作るスタイリッシュなヒノキ家具は国内外で高く評価され、支援者も増え、売り上げも確実に伸ばしていました。

そんな矢先の2016年1月、突然の悲劇が彼らを襲います。火事で工房が全焼し、材料も道具も全て失いました。幸いにもけが人はいませんでしたが、抱えた負債は8800万円。村を去る選択肢もあった中、彼が選んだのは元の場所での工房再建、しかも自分たちの理念を実現する建物にすることでした。

スギ・ヒノキを活用してものをつくる。木を切ることで森が生まれ変わり、より豊かな風景をつくり出す。彼らはそれを「やがて風景になるものづくり」と呼びます。西粟倉村に移住して10年目、ひたむきな彼らの思いが今、一つの形になろうとしています。

コメント

ディレクター・白井大輔(岡山放送報道部)

「村に大寒波が訪れようとしていた2016年1月23日未明。これまで何度も取材で訪れた工房がこんな姿になるとは思いもしませんでした。西粟倉村の人口の1割近くを移住者が占めている。そんな情報を聞き訪れた西粟倉で偶然、出会ったのが大島正幸さんでした。荒れ果てた山や森に衝撃を受け、すぐに勤めていた家具メーカーに辞表を出したと笑って話す大島さん。なんて行動力なんだ…。そこから我々の取材が始まりました。火事の後、“必ずここで再建する”と言った大島さん。火事は“ようび”の全てを燃やしたわけではありませんでした。この10年、彼らは“ものづくり”と同時に、“ひとづくり”も行ってきました。人と人のつながりは燃えないどころか、より強固なものとなり新しい工房が完成したのだと思います。“風景”はつくれるー。彼の言葉を信じ、その“風景”を見届けるまで取材を続けていきます」

番組概要

タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『やがて風景になる 若き木工職人の成長記』(制作:岡山放送)
放送日時
9月17日(月)27時~27時55分
スタッフ
ナレーター
渡辺徹
構成
梅沢浩一
撮影・編集
平井大典
ディレクター
白井大輔
プロデューサー
小山幸三

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。