FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.10.02更新

1枚の絵から、明らかになる真実を追って

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
時の旅人 ‐伊東マンショ 肖像画の謎‐

10月5日(木)26時25分~27時20分

今から400年以上前、伊東マンショは武士の子として宮崎県西都市に生まれました。後にマンショはキリスト教に出会い、「天正遣欧少年使節」の1人として、ローマ教皇に謁見するため、ヨーロッパへ旅立ちました。

番組で紹介するマンショの肖像画は、2014年にイタリア・ミラノで発見されました。発見の裏には、肖像画の少年の正体を突き止めようと、5年もの研究に励んだ女性研究者の情熱があります。肖像画は何のために描かれたのか。作者は誰なのか。肖像画の謎をひも解きながら、伊東マンショの生涯を見つめ直します。

450年ほど前、宮崎県西都市都於郡(とのこおり)に生まれた少年、伊東マンショ。彼は伊東家当主の孫として生まれましたが、マンショが8歳の時、一族が島津家との勢力争いに破れ、豊後(現在の大分県)へと敗走します。キリシタン大名・大友宗麟が治める豊後。マンショはそこでキリスト教に出会い、後にイエズス会が計画した「天正遣欧少年使節」の主席正使としてローマ教皇に謁見します。

マンショたちが帰国の途に着く頃、日本ではキリシタン弾圧が始まり、彼らの功績は、日本の歴史の表舞台からは消え去ってしまいました。しかし、ポルトガルやイタリアの各地で歓迎を受けた使節の痕跡は、ヨーロッパの書籍、レリーフ、音楽に残っています。

日本初の外交官とも言うべき役割を果たしたマンショは、宮崎が誇る偉人の一人ですが、彼の存在や功績、宮崎県出身であることを知る人は少ないのです。マンショについて広く知ってもらおうと、2009年に伊東マンショ没後400年を記念して、彼の人となりや生涯に迫ったドキュメンタリー番組を制作しました。

2014年に「イタリア・ミラノで伊東マンショの肖像画が発見された」とのニュースが報道されました。そして、日伊国交樹立150周年の記念事業として去年、宮崎での里帰り展が実現しました。これまでのマンショの姿と言えば、16世紀当時の新聞(版画)や、スケッチ画でしか偲ぶことは出来ませんでしたが、今回発見された肖像画は、16歳のマンショの表情を生き生きと描いた油絵。肖像画は400年以上前、その時代を確かに生きたマンショのより人間らしい魅力、現実味が伝わってくる1枚でした。展覧会では、発表までに5年にも及ぶ研究期間を要していたことも分かりました。

この肖像画は、どのような過程を経て、マンショだと突き止められたのか。使節4人の肖像画が描かれたという記録は残るものの、行方知れずとなっていた肖像画は400年以上もの間どこにあったのでしょうか。今度は肖像画にまつわる物語や、隠された謎をひも解きながら、時の人、伊東マンショの功績や、最新の研究結果に迫るドキュメンタリーを制作するに至りました。

肖像画の裏に残された文字から、少年や作者の正体へと近づく過程は、まさに謎解き。次は何が分かるのか、というワクワク感を楽しんでもらいたいと思いました。研究者同士で意見が分かれたり、別の発見があったり、謎が謎を呼ぶ展開を意識して番組を制作しました。

また、肖像画の少年を5年もの歳月をかけて、マンショだと突き止めたイタリア人女性研究者の情熱も見どころの一つです。「戦国時代のキリシタン史」という、日本でもマイナーな研究分野に、イタリア人が到達するには、相当の苦労があったことと思います。しかし、彼女は「肖像画に一目ぼれした」「自分の子供たちがマンショたちの年齢だったら、ジェラート一つ買いに行かせない。だけど彼らは2年半かけて、ヨーロッパに来た」と笑う。尊敬の思いもありながら、女性らしい、母親らしい言葉でマンショについて語る、彼女の愛情を感じてほしいです。

映像面では、400年以上前に使節が訪れた時と同じ景色が残るベネチアの町並みやドゥカーレ宮殿の内部をマンショたちに思いをはせながら見てもらえればと思います。

使節の功績は、当時のヨーロッパで未だ知られていなかった「JAPAN」の存在を知らしめ、日本人の礼儀を重んじる姿を、生き証人として伝えた点にあります。

前作のドキュメンタリーから7年が経ち、ヨーロッパに与えた日本、日本人に対する印象は、幕末の開国時に活きたと語る研究者もいます。少年使節の功績にも新たな視点が増え、顔を得たマンショへの、世間の関心の高まりが分かるような出来事にも取材を通して出会いました。こうした動きも盛り込むことで、地元でマンショの顕彰活動を続ける人たちの活力につながればと、応援の気持ちも込めて制作しました。

コメント

ディレクター・雪丸千彩子(テレビ宮崎)

「ニュースの企画用に、里帰りしたマンショの肖像画を取材したのは、去年の9月のことです。そこから半年以上、400年以上前に生きた一人の少年を思い続けることになるとは予想もしていませんでした。言わば、永遠の片思い(笑)。人物密着系のドキュメンタリーとは違い、当たり前ですが、問いかけても彼が答えてくれることはなく…番組制作ビギナーの私にとっては、難しすぎるテーマでした。

取材を始めてみると、イタリアの研究者の方々が表情豊かに、興味深い話を次々にして下さったことで、番組の軸は、意外とすんなり決まりました。しかし、立ちはだかった問題は“構成力”でした。先輩方から構成がいかに大事かを一から勉強させてもらい、番組の形にすることができました。お世話になった皆さんには、本当に感謝の気持ちしかありません。そして何より番組を通して、伊東マンショ、天正遣欧少年使節に関心を持つ人が一人でも増えればと願っています」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『時の旅人 ‐伊東マンショ 肖像画の謎‐』(制作:テレビ宮崎)
放送日時
10月5日(木)26時25分~27時20分
スタッフ
プロデューサー
坂元秀光(テレビ宮崎)
ディレクター
雪丸千彩子(テレビ宮崎)
撮影/編集
橘裕昭(テレビ宮崎)
構成
松石泉(フリーランス)
ナレーション
有馬瑞香(アーツビジョン)
MA
清山慎(ミラクルワークス)
音効
清山真由美(テレビ宮崎商事)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。