FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.9.5更新

少子高齢化・ニッポンの防災対策を考える

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
揺れた 高齢化進むまち~鳥取県中部地震の半年~

9月26日(火)27時5分~28時

去年10月21日に鳥取県中部を震源に発生した震度6弱の地震。住宅被害は約1万5000棟、けが人は25人。半年が経過し全国の人の記憶は薄れてきているこの地震には一つの大きな特色があります。それは高齢化先進地である山陰が襲われたということです。地域の防災を支える若者がいません。高齢者が営むお店が被災した時、復活する力や時間は残っているのか…。これは都会でも10年後、20年後には直面する姿です。高齢化先進地で起きた大地震からみえてきた教訓を探りました。

高齢化進むまちで起きた大きな地震

去年10月21日に鳥取県中部を震源に発生した地震。震度6弱を記録し、住宅被害のあった約1万5000棟のうちのほとんどは屋根の一部損壊。死者もなく、全国ニュースとしてのバリューは徐々になくなり、全国の人の記憶からは失われていきました。

山陰中央テレビでは、この地震に関わるニュースを、継続的に取材し、放送してきました。教訓を探り防災に活かす、被災者の声を届け行政の対策につなげるなどなど。ローカル放送局として当然のことではありますが、災害報道は、発災時だけでなく息の長い取材であると改めて感じた半年でした。

加えて、取材を続ける中で、高齢化が進む山陰ならではの課題に直面しました。大雪が降ったこの冬も屋根の上にはビニールシートがかけられたまま。その原因のひとつは、高齢化による職人不足。阪神大震災以来、自助共助の精神から求められている自主防災組織も高齢化の壁がありました。

高齢化先進地、将来の日本の姿ともいわれる山陰から全国へ、その教訓を伝えたいとの思いで番組制作に取り組みました。

地域に根ざす銭湯・大社湯

伝統的な古い街並みが美しい鳥取県中部にある倉吉市。ここも震度6弱の地震に揺れました。その中心地にある銭湯・大社湯。100年以上の歴史を持ち明治の面影を残す銭湯として、国の登録有形文化財に指定されている貴重な建物です。この貴重な銭湯を切り盛りするのが女将・牧田智子さん(79)。貴重なタイルが100枚近く剥がれ落ち、砕けるなど大きな被害を受け、営業ができなくなってしまいました。

「人口減少で若者が市内から出て残るのは高齢者で…」夫で三代目の慎太郎さん(80)と二人三脚で経営し、長年地元で愛されてきた銭湯の存続は危機に瀕していました。

防災そして復興にも高齢化の影

地震から半年たっても目立つ屋根のブルーシート。修理する瓦の生産が追い付かないわけではありません。修理する職人が高齢化し、少なくなっていて、手が回らないのです。鳥取県は県外の職人確保への助成金を設け、当面の人手を確保することはできたましたが、将来起きるかもしれない災害の備えを考えると根源的な解決にはなっていません。

さらには東日本大震災後にも叫ばれた自助共助に基づく自主防災組織にも高齢化の壁があります。倉吉市の隣、北栄町松神地区は地震発生時の日中、若い住民が仕事に出ていたため、地区には高齢者しか残っておらず安否確認だけで2~3時間もかかったといます。また、高齢者の割合が高く、4年間で訓練を1回しかしていなかった「備え不足」もありました。「難しい。どうしても高齢になると足腰が弱くなる」自治会長の浜根二三雄さん(65)は嘆きました。

揺れた高齢化のまちにも光

存続の危機に瀕した大社湯に長男の修治さんが勤務先のある徳島から一時帰郷しました。市は大社湯が市の貴重な財産だとして修理費用の一部補助を約束してくれました。そして修治さんは女将の智子さんに、こう告げました。

「将来、帰ってきて何とか継ごうかなと思っています、と市に言った」。

大社湯の再開が決まりました。修理が進む様子を見て智子さんはこう言いました。

「子供が帰ってくるまで頑張らんといかん。皆さんの顔を見たら勇気が湧いてくるし、頑張るのは気弱でもいいけど、それが一番」。

そして松神地区の自治会長、浜根さん。地区の空き地を防災公園に活用できないか検討を始めました。ヘルメットなどを保管する倉庫や避難所代わりにビニールハウスを譲り受けるアイデアもあります。

「まだ65歳、まだ70歳という気持ちで暮らしていくことが大事。そうすると自分たちが自分たちでやろうということになるのではないか。待つ姿勢だけは持ちたくない」。

地域の防災を支える若者がいない…高齢者が営むお店が被災した時、復活する力や時間は残っているのでしょうか。これは日本全国が10年後、20年後には直面する姿でもあるのです。

コメント

ディレクター・藤原宇裕(山陰中央テレビ報道制作部)

「みなさんは鳥取県と聞いてどんなイメージを思いつくでしょうか?鳥取砂丘、水木しげるロード、梨、ズワイガニなどを挙げる人が多いと思います。人口は全国最下位の56万人、板橋区(55万人)や杉並区(55万人)とほぼ同じ。中小企業が90%を占め、多くの若者が大学を卒業すると東京や大阪など大都市へ流出するなど少子高齢化、過疎化、後継者不足による休業や廃業など様々な問題を抱えています。そんな地方を震度6弱の地震が襲いました。自営業の再開、屋根や壁の修復作業、そして地区単位の防災、全ての足かせとなっていたのが、山陰地区が抱えるこれらの問題でした。2060年には高齢化率が約40%となる日本、少子高齢化と防災について日本全体で考えていくきっかけになれればと思います」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『揺れた 高齢化進むまち~鳥取県中部地震の半年~』(制作:山陰中央テレビ)
放送日時
9月26日(火)27時5分~28時
スタッフ
ナレーター
屋良有作
ディレクター
藤原宇裕
構成
関盛秀
撮影
加藤俊之
編集
  • 藤原宇裕
  • 野田貴
プロデューサー
澤田陽

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。