FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.10.10更新

世代、国境を越え大切にしたい故郷への思い

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
生まり島ぬ言葉忘ね 国忘ゆん

10月14日(土)27時55分~28時50分

ハワイに暮らすエリック和多さんは、沖縄移民の子孫でハワイの地で沖縄文化の継承に力を注いでいます。今年3月、沖縄独自の言語「しまくとぅば」の継承に取り組む沖縄ハンズオンNPOがエリックさんの招きを受けて、ハワイで「しまくとぅば創作劇」を披露しました。高校生の玉城臣之輔君が演じるのは72年前、敵国の兵士として故郷・沖縄の地を踏んだ一人の日系兵士でした。異国へ渡った移民の子孫たちが沖縄に寄せる思い。故郷の言葉を守る為に今と向き合う若者たちの奮闘を描きます。

「言葉が無くなると文化が無くなる」。沖縄からハワイに渡った移民の子孫、県系4世のエリック和多さんは訴えます。彼が懸念するのは沖縄の言葉「しまくとぅば」の著しい衰退です。「方言」や「ウチナーグチ」と言われる独自の言葉は、今や県民の3人に一人が「わからない」といいます。日系人の中で沖縄にルーツを持つ人々を「沖縄県系人」と呼ぶエリックさんは、ハワイで県系人の仲間と共に沖縄文化の継承に取り組む中で、故郷の言葉が衰退していく現状を知り、復興を目指しています。「ハワイアンと同じ」とエリックさんが訴えるのは、ハワイもアメリカによる武力統合によって文化が抑圧された歴史があるからです。

世界のウチナーンチュ(沖縄語で“沖縄の人”を意味する)大会に参加した県系人の子孫たち、自分達と同世代の彼らから取材中に「なぜ沖縄の言葉を話さないのか」、「沖縄の事を知らない若い人が多い」と言われることがありました。我々も沖縄の言葉を聞いたり話したりすることができない世代であり、「方言よりも標準語を」と言われることが多かったため、これまでは気にすることもありませんでした。

「なぜ県系人は沖縄の言葉や文化にそこまで思いを込めるのか」。取材のきっかけは彼らへの興味でした。

取材のアプローチをしていく中で、エリックさんに紹介されたのが沖縄ハンズオンNPOでした。小学生から大学生のメンバーが在籍、「しまくとぅば」を学んでいます。エリックさんは沖縄ハンズオンNPOの若者たちをハワイに招待し、県系人の勉強会で「しまくとぅば創作劇」を披露してほしいと依頼しました。このメンバーの一人が高校生の玉城臣之輔君です。生き生きとした演技や唄、そして懸命に「しまくとぅば」で言葉をつむごうとしている彼の姿にひかれました。

玉城君がハワイ公演で演じたのは「比嘉武二郎」という青年です。ハワイ生まれ、県系2世の比嘉は通訳兵として沖縄戦に従軍しました。2歳から16歳までを沖縄で過ごした彼は、アメリカ兵となって親戚や友人が暮らす沖縄に向かいました。

「生まれ故郷が見えて、涙を流しながら甲板に立っていた」。戦後70年を前に沖縄を訪れた彼は、当時の様子をこう語りました。壕の中でおびえる沖縄の住民に投降を促す比嘉。少しでも安心させたいと彼は「しまくとぅば」で呼びかけました。「んじてぃきみそーれー(出てきてください)」と。沖縄戦で多くの住民を言葉で救った比嘉武二郎、それを演じる沖縄の高校生。言葉を受け継ごうと奮闘する人々を追いました。

最初の移民が沖縄を出て100年あまり、今やハワイの日系社会の多数を占める沖縄県系人たちは、世代が変わっても故郷に思いを寄せます。番組ではハワイの県系人と沖縄の若者の交流を軸に、沖縄の言葉がたどった歴史的背景に迫ります。

沖縄の人・ウチナーンチュにとって「しまくとぅば」はどんな存在だったのでしょうか。故郷の言葉を守るとはどういうことなのでしょうか。沖縄にいるだけでは気づきがたい自分たちが生まれた島の文化について考えたいと思います。

コメント

ディレクター・具志堅洋太(沖縄テレビ)

「タイトルの“生まり島ぬ言葉忘ね 国忘ゆん”とは、“生まれた島の言葉を忘れる事は故郷を忘れる事だ”という沖縄のことわざ。海外で暮らす沖縄県系人への興味から始まった取材で知り合ったアルゼンチンの県系人が帰国後にメールで送ってきた言葉です。

5年に一度開催される大会(ウチナーンチュ大会)を通じて感じたのは、世代を超えても沖縄を想う人々と対照的に、地元の文化について知らない事が多い自分でした。“外にいるから沖縄が分かる”とよく言われていますが、沖縄に生まれて沖縄で学び、沖縄で働く自分にはあまり実感の無い言葉でした。

しかし取材した玉城君を含む沖縄ハンズオンNPOの若者たちは、日々自分たちの文化を学ぼうと努力しています。彼らの中には自分のルーツに対するひたむきな探究心があり、それが海外で暮らす県系人たちとつながる大きな絆となっています。

人にはそれぞれ大切に思う故郷があると思います。故郷には自分を育んできた歴史や文化があります。番組を通して自分の故郷について考える機会になれば幸いです」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『生まり島ぬ言葉忘ね 国忘ゆん』(制作:沖縄テレビ)
放送日時
10月14日(土)27時55分~28時50分
スタッフ
プロデューサー
  • 山里孫存(沖縄テレビ)
  • 末吉教彦(沖縄テレビ)
ディレクター
具志堅洋太(沖縄テレビ)
構成
  • 平良いずみ(沖縄テレビ)
  • 具志堅洋太(沖縄テレビ)
ナレーター
仲宗根泉(HY)
撮影・編集
赤嶺一史(沖縄テレビ)
音声
宮平博基(沖縄テレビ)
テロップ
屋嘉比貴(のれんずプロ)
題字
田場珠翠

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。