FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.9.28更新

それぞれの地域の選択、そして見えてきた課題

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
もし、このまちに… 原発で描いた未来

10月4日(水)25時55分~26時50分

もし、このまちに…。新潟県には原発の誘致に揺れた二つのまちがあります。世界最大出力を誇る原発が立地する柏崎・刈羽と、住民投票により原発を作らない選択をした現在の新潟市西蒲区・旧巻町です。地域の未来を考え二つのまちが下した異なる決断。

この番組では、なぜ原発が誘致されたのか?原発が地域にもたらしたものは何だったのか? 原発を作ったまちと作らなかったまちを見つめ、そこから地域の抱える現状を探ります。

2011年3月11日に発生した東日本大震災、そして東京電力福島第一原発の事故は、新潟県に大きな衝撃を与えました。それは東京電力が運営する世界最大級の出力を誇る柏崎刈羽原発が立地しているからです。原発にはリスクもあるのだと改めて思い知らされる出来事となりました。

その後、新潟県は柏崎刈羽原発の再稼働をめぐり大きく揺れ動くこととなります。2016年に行われた新潟県知事選挙では、現状での再稼働を認めないと訴えた米山知事が初当選を果たしました。米山知事が出馬を表明したのは告示のわずか六日前のことでした。それにも関わらず原発の再稼働を争点化すると、脱原発・反原発の声は異様な熱気を伴って広がり、米山知事を誕生させることとなります。それはさながら、原発の是非を問う住民投票のようでもありました。

しかし、知事選のあとに行われた柏崎市長選・刈羽村長選では、事実上原発再稼働を容認する首長がそれぞれ当選を果たすという正反対の結果に。原発が立地する地域が抱える複雑な思いが表れた瞬間でした。

こうした選挙の取材を通して浮かんできたのは「そもそもなぜ原発は誘致されたのか?」という素朴な疑問でした。世界最大級の出力を誇る原発が建設されるまでにどんな人たちが、どんな思いを託したのか?ただ、率直に知りたいと思いました。柏崎市、刈羽村が原発の誘致を議会で決めたのは1969年のことです。まもなく50年という歳月が流れます。そして、柏崎刈羽原発7基すべてが運転を開始してからは今年で20年。いま、その歴史を見つめる必要があるとも感じました。

なぜ原発を誘致したのか?その問いに「貧しかったから」と答えた男性がいました。「原発を作れば地域が潤うと言われた」そう答える人もいました。「もし、このまちに原発があったら」、原発の誘致に賛成の人も、反対の人もそれぞれが原発の誘致を通してまちの将来について考えました。その後、様々な紆余(うよ)曲折を経て柏崎・刈羽は地域の未来を原発に託す道を選択します。

新潟県にはもう一つ原発の建設が計画されたまちがあることを忘れてはいけません。旧巻町(現在の新潟市西蒲区)です。建設予定地とされた場所は現在、草木がうっそうと茂り荒地が広がっています。原発の建設をめぐり、約3万人の町民は揺れ、そして難しい判断を迫られました。企業誘致や原発に関連した税金など、まちの活性化を信じた推進派。一方で、原発の危険性を訴え続けた反対派。いずれも地域の未来を考えての行動だったはずです。

そして巻町は住民一人一人が原発の建設に対する意思を示す方法を選びます。住民投票です。そこで示されたのは「反対」の意思でした。巻町の決断から21年。建設予定地だけがいまも時が止まったままです。住民投票から20年を記念して行われた展示会。巻原発をめぐる闘争の歴史や、建設計画により消えた集落のかつての暮らしを切り取った写真の数々が並びました。会場では、ただ展示物をみてもらうだけでなく、元町民が積極的に訪れた人に解説をしていました。そこには、「原発建設を止めた歴史」を強調するというより、「地域の軌跡を知り、これからの地域づくりについて考えてほしい」という純粋な思いがありました。

原発の誘致に揺れた新潟の二つのまち。原発があるから…。原発があれば…。まちは豊かになったのか?はっきりNOと答える人もいれば、衰退していく地域を目の当たりにしながら、いまも自問自答しつづける人もいます。

番組では、原発を立地したまちと原発の建設を認めなかったまちの歴史と現状を見つめ、原発が地域にもたらしたものを探りました。原発の誘致で揺れ、異なる選択をした二つのまちは今、同じように人口減少と地域の衰退という難題が突きつけられています。「いま地域のために何をすべきなのか」。私たちは再び選択のときを迎えているように思います。

コメント

ディレクター・丘山慶(新潟総合テレビ報道制作部)

「原発の問題は立地県に住んでいる以上、必ずやりたいと思っていたテーマでした。しかし、福島第一原発事故を経験した今、取材を進める際に大きな壁とぶつかりました。立地地域では原発の問題について、自身の思いを語りづらい風潮が生まれていたのです。推進する人も、反対する人も一応に口をつぐみました。さらには誘致の歴史を知る人たちが高齢化している点も取材を難しくしました。カメラの前で語れないと話す人たちからもペン取材を通して様々な思いを聞きました。そして、この番組では原発への賛否は表明しないと決めました。原発の建設に賛成した人も、反対した人も、地域の未来を思って選択をしたのだと思ったからです。原発の誘致に揺れた二つのまちの歴史や現状から原発が地域にもたらしたものを取材し、そこから今の地域に必要なものを考えようと思いました。様々な思いを抱く人たちの声を届けることで、番組を見てくださった方が、地域のために何が必要なのか共に考えていただければと思います」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『もし、このまちに… 原発で描いた未来』(制作:新潟総合テレビ)
放送日時
10月4日(水)25時55分~26時50分
スタッフ
プロデューサー
鷲津史彦
ディレクター
  • 丘山慶
  • 目黒カナ
構成
石井彰
ナレーター
廣川明美
編集
韮澤由紀夫
MA
佐藤誠二
CG
永田大樹

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。