FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.6.21更新

女子高生に学ぶ“葛藤との向き合い方”

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
夢への扉 “課題研究”~先生を越えて進め~

6月27日(火)26時~26時55分

大阪府立松原学校。国籍や障害など、さまざまな背景のある生徒たちが共に学んでいる。全ての生徒が卒業前に「課題研究」を発表する。時にテーマは個人の境遇にまで踏み込み、自分を見つめたそれぞれの答えを後輩たちに伝える。

生徒たちは虐待やいじめの過去と向き合い葛藤する。ある生徒は「課題研究に意味があるのか?」と悩み、教師も「そこまで伝える必要があるのか?」と戸惑う。

生徒たちは、もがきながらも、後輩たちに伝える意味に気付いていく。

児童虐待の相談や検挙件数が増え続けていることが気になっていた。まず当事者への取材を進め、虐待の負のスパイラルをやめることができるのだろうかと考えた。その解決の鍵を求めたのが教育現場だった。

結果、出来上がった番組は高校生の葛藤をあるがまま伝えるもので、虐待問題は一部にすぎない。以下、変遷に至った取材の過程をお伝えしたい。

「虐待」をテーマにした高校生の論文をインターネット上で目にする。松原高校の「課題研究」だった。

学校に行ってみる。虐待問題ばかりではないが、毎年何人か「虐待」をテーマに取り上げる生徒たちがいるとのことだった。川沿いの空き地で行うという授業に誘われ、借りた自転車で同行した。加桜さんに出会う。何を聞こうかためらう私に「フィールドワークでどこに行ったらいいですか?」と逆質問された。真っすぐ見つめる瞳。その場で背景を聞くことはできなかった。

帰り道、男の先生が突然、生徒の名前を叫びながら自転車で私を追い抜いて行った。「不登校の生徒が来たみたいですね」。他の先生たちは笑顔で見送っていた。

数日後、公園で別の取材をしていると偶然その中川先生に出会う。加桜さんの担当教諭だった。テーマを選んだ理由を知る。自分のトラウマを糧にして、子供たちを虐待から救いたいという理由だった。鍵を見つけた思いで、ニュースで特集を組んだ。

前後して、「テレビの仕事」で課題研究を考えているという生徒を紹介された。私が初めて学校を訪れた日に中川先生が追いかけて行った生徒、ほのかさんだった。

続編を作るため、再び学校に通い始める。しかし、ほのかさんの姿はない。卒業の見通しは立っていなかった。先生や友達は電話をかけ続ける。ある日、やっとほのかさんが登校した。でも誰も彼女を特別扱いはしない。遅刻も笑い話に変えていた。「これが松高なんだ」と思う。いつも誰かが誰かのことを気にしているのに、それが当たり前だから本人の負担にはならない。そしてほのかさんも松高が好きなのだと知る。彼女の卒業を見届けたいと思った。

最後に、番組の中心となった登場人物、美由里さん。加桜さんの親しい友人でもある。いつも笑顔でリーダー的存在の彼女がどこまで悩んでいるのか、最初はわからなかった。続編取材に入り1カ月ぶりに会った美由里さんの様子は、どこか人目を避けるようだった。「小学校の時にいじめていた同級生に謝りに行った」。仲間たちに告白するその体は震えていた。

課題研究でそこまで話すべきなのか? それは美由里さんにとっても先生にとっても堂々巡りの問いだった。私たちはあるがままに撮ると決めていた。いじめについて話さないという選択をすれば放送もない。過去を悔いて、謝りに行った美由里さんにそれ以上求めることが酷なこともわかっている。

ただ、一つだけ踏み込んだことがある。話したくない理由について美由里さんは「こんなこと話したって世界は1ミリも変わらない」と繰り返していた。ある日話をした。「世界は変わらないと思う気持ちはすごくわかる。でも誰かの話を聞いた人の心が動いて、その人がまた誰かに伝える。そんな一人一人の伝えあいが力になって、世界は0.01ミリかもしれないけど、変わると私は思っている」。メディアってそういうものだと思って仕事をしてきた。

後日、美由里さんは先生に伝えた。「言ってもいいと思っている。1、2年生に伝えないと意味がないから」。彼女の伝えたい言葉が私の伝えたい言葉に変わった瞬間だった。美由里さんの思いをそのまま番組で伝えると心に誓った。

自分の心を突き動かした高校生の姿をあるがままに伝えたい。葛藤する生徒と隣で一緒に考える先生を、極力余分な編集を排して提示した。七転八倒した生徒たちがたどり着いた答えを等身大でお届けする。

コメント

ディレクター・宮田輝美(関西テレビ放送 報道センター)

「18年の全人生をかけて自分の一番嫌な部分と向き合い、後悔を発信力に変えた高校生の姿を見て、“自分はこんな風に向き合ったことあったかな?”と思いました。自分の中にある汚い部分と向き合うことは、とても勇気が要ることです。向き合わないまま人生を過ごしたとしても困るわけでもありません。それでも高校生が自分と向き合い伝えたのは、誰かの心に届くことで、自分の後悔を繰り返さないでほしいという思いからでした。そしてもう一つの大きな理由は、近くに “信頼できる人”がいたからです。信頼できる誰かに自分を受け止めてもらうことで、自分自身を認めることもできるし、さらに誰かを助けることもできる。目の前でそんな信頼関係を見せてもらった取材でした。私も誰かを受け止めることができる人間になりたいし、自分をさらけ出せる人間にもなりたいと感じました。番組を見終わった人が、自分を見つめる時間を持ってもらえたらうれしいです」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『夢への扉 “課題研究”~先生を越えて進め~』 (制作:関西テレビ)
放送日時
6月27日(火)26時~26時55分
スタッフ
プロデューサー
兼井孝之
ディレクター(構成)
宮田輝美
ナレーター
水川あさみ
撮影
平田周次
編集
片野正徳
制作
カンテレ

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。