FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.8.30更新

70年前の戦争遺跡から読みとる未来

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
平和への道標 -戦跡が伝える記憶-

9月21日(木)26時55分~27時50分

1945年3月、硫黄島を攻略したアメリカ軍は沖縄へと侵攻、8月の原子爆弾投下と玉音放送で太平洋戦争は終わりましたが、その前後には教科書には載っていない歴史の影に埋もれた事実がありました。アメリカ軍が計画した幻の日本上陸作戦、その最初の目標は南九州・鹿児島でした。作戦開始予定は同年11月1日。日本側もそれを正確に予測して対抗手段を講じましたが、そのまま終戦を迎えました。残された戦跡は我々に何を語りかけるのでしょうか。

戦後70年の区切りを過ぎ、過去の戦争体験を語る人がいなくなりつつある今だからこそ、あえて鹿児島から戦争を題材にしたドキュメンタリー番組の制作に取り組みました。

制作するにあたっての狙いは、大きく二つ。ひとつは、これまで中々光が当たってこなかった物言わぬ戦争遺跡―いわゆる戦跡を主役にとらえるということ。もうひとつは、番組を見てくださったみなさんそれぞれの「何か」を感じていただくために、番組側からは極力何らかの答えを押しつけることなく、ただ、事実を伝えるだけに徹するということです。

鹿児島の戦争といえば、自分が操縦する航空機で体当たりして敵を攻撃する「特攻」が知られていますが、戦時中の鹿児島について調べてみると、歴史の教科書などには載っていない「特攻以外の事実」も、そこには確かに存在していました。

アメリカ軍が1945年11月1日をもって南九州に上陸する「オリンピック作戦」。そして、アメリカ軍の本土上陸作戦に対する日本側の本土防衛計画「決号作戦」。

鹿児島には、特攻に関する戦争遺跡がある程度整備されて残っていますが、実は特攻関連以外の、他の地域にはなかなか見られない特徴的な戦争遺跡も数多く残されています。しかしそれらは、当時のことを知る人が少なくなっていく中、時代の流れと共に忘れさられ、朽ちかけているものや、説明板が古いもの、そもそも説明板どころか案内板すら存在せず、地元の人にさえ存在を知られていないものが多いことにも気づかされます。

薄気味悪く、戦争の負の遺産としか思われていない歴史の影に埋もれつつある戦跡。地域の過去を掘り起こしていくと、当時の戦況や日本、そして鹿児島が置かれていた状況、そして戦跡と呼ばれるその場所に72年前に確かにいた人たちの存在を感じることができます。無機質なコンクリートの構造物でしかなかったそれが、これまでとは全く違うモノに見えます。地元に残る戦跡がいったい何でどういう理由でここにつくられたのか、コンクリート造りの建造物に開けられた穴から兵士たちはいったい何を見つめたのか、そして戦争という時代に巻き込まれた名もなき大勢の人々、現代の礎となった人々がいた事実にスポットを当てます。

番組では主に、アメリカ軍の本土上陸を阻止するためにつくられた大隅半島・志布志湾岸につくられた防衛施設と、鹿児島と沖縄のほぼ中間に位置し、海上交通と本土防衛の要衝としてつくられた奄美大島要塞の戦争遺跡を取り上げます。前者は戦争末期、限られた資材を使って突貫工事でつくられたものが多く、後者に関しては戦前に潤沢な資材を使って堅固につくられたものが多い。建設中にあるいは、アメリカ軍の攻撃などによってその場で亡くなった人もいますが、番組で訪れる戦跡の多く、特に大隅半島の戦跡はつくられた当初の目的を果たすことがなかったものです。

鹿児島に残るこれら数多くの戦争遺跡をこれからどうしていくのか。戦跡を未来に残そうとする人たちがいる中で、私たちにできることとは―。

過去を知り、未来を考えるきっかけの一つにしてほしいです。

コメント

ディレクター・永尾武弥(鹿児島テレビ報道部)

「鹿児島で戦争といえば、多くの人は命を賭して敵に体当たりする特別攻撃“特攻”を思い浮かべると思います。これは鹿児島に住むほとんどの人もそうです。ところが調べてみると、鹿児島には“特攻に関わるもの”以外の戦争遺跡も、数多く残されていることが分かりました。各地に残るコンクリート造りの戦跡です。一部整備されているものもありますが、その多くは戦後に忘れ去られたもの、地元の住民も知らないものがほとんどです。これらの戦跡は一体何のために造られたのか。取材を進めていくうちに、当時の日本が置かれていた状況や、歴史の教科書には載っていない事実が少しずつ明らかになると同時に、最初は無機質で少し不気味に感じていた戦跡の見え方が変わってきました。
戦後70年を過ぎ、過去の戦争体験を語る人がいなくなる中、私たちは過去から何を受け取り、未来に何を伝えていくべきなのでしょうか。戦跡から何かを感じ取っていただけたら幸いです」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『平和への道標 -戦跡が伝える記憶-』(制作:鹿児島テレビ)
放送日時
9月21日(木)26時55分~27時50分
スタッフ
プロデューサー
野元俊英
ディレクター
永尾武弥
構成
皆田和行
編集
山下亮一
撮影
鈴木哉雄
ナレーター
松重豊

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。