FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.9.28更新

故郷への恩返し 夢は大きく有言実行

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『私はパーキンソン病です』
~あるカリスマ社長の足跡、信念、そして“熱狂”~

10月3日(火)26時35分~27時30分

関東を中心に350の飲食店を展開する「ダイヤモンドダイニング」。その社長(現在は株式会社DDホールディングス代表取締役社長)で高知県出身の松村厚久さん(50)は10年ほど前、原因不明の難病と言われるパーキンソン病の診断を受けました。しかし、その後も病を隠して社長業にまい進し、現在、会社は年間売上高300億円を超える一大企業へと成長を遂げています。

病と闘う彼の心には、いつしか「ふるさと高知への思い」が芽生えていました。そこで3年前、故郷への恩返しとして「よさこい祭り」への参加を決意します。強く、優しく、前向きに生きるカリスマ社長の葛藤の日々と、彼を支える仲間や家族との絆。そして、ふるさと高知への思いを見つめました。

2017年3月29日、東京・六本木。「1967」と自らが名付けた店で、1967年生まれのある男性が50歳の誕生日を迎えました。彼の名は松村厚久さん。東証一部上場、外食業界で売上高300億円を超える一大企業、ダイヤモンドダイニングの社長です。

松村さんに初めて会ったのは、そこからさかのぼること3年前、2014年の夏でした。高知の夏祭り「よさこい祭り」へ初参加するチームの代表だった彼にインタビューを行いました。しかし、明らかに体の動きや話し方がおかしい。絶えず手足はクネクネと動き、目はキョロキョロとして視点は定まらない。何らかの病を抱えていることは一目瞭然でした。翌年、出版された本の中で松村さんは初めて真実を告白しました。「私は……若年性パーキンソン病です」と。

松村さんがパーキンソン病の診断を受けたのは39歳の時でした。パーキンソン病は脳内で作られる神経伝達物質ドーパミンが減少することで体の動きをコントロールできなくなる原因不明の難病です。日本では人口1000人あたりに一人、約10万人以上の患者がいて、40歳までに発症すると「若年性パーキンソン病」と呼ばれ、全患者の1割程度を占めます。病気そのものが直接の原因で死に至ることはありませんが、確実な治療法はまだ確立されていません。

手足や肩がクネクネと動いたり関節が固くなったりと、松村さんはパーキンソン病特有の症状に悩まされ続けてきました。体調が悪い時には一人で起き上がることも歩くこともできないのです。ただ、手足が不自然に動き続けても意識だけははっきりしていました。「はがゆい、はがゆかったですね」。むしろ神経が研ぎ澄まされていることが松村さんのつらさを増長させていました。

「代われるものなら代わってあげたい」。そう語るのは、松村さんの故郷である高知市で暮らす母・孝子さん(80)です。病が発覚した後も「自分は大丈夫」と常に気丈に振る舞う松村さんでしたが、孝子さんは息子のつらさを肌で感じていました。

そんな母親の日課は毎日3つの場所で手を合わせることです。ひとつは近所の氏神さま、そして自宅1階にある仏壇と2階にある神棚。小さな母の切なる願いは「息子の健康」ただそれだけでした。

松村さんを見守るのは家族だけではありませんでした。部下も友人も、松村さんの様子に異変を感じても誰一人として松村さんに理由を問いただすことはありませんでした。歩くことができない松村さんを黙って背負い、体調が優れない松村さんのためにスケジュールを組み直し続けました。弱音も吐かず病と闘い続ける松村さんの姿が逆に、彼らを鼓舞していたのでした。

病にむしばまれていく松村さんの体とは裏腹に、会社は日の出の勢いで急成長を遂げていました。松村さんは楽しい学生時代を過ごしたふるさと高知の魅力を発信しようと、高知名物カツオのたたきをウリにした店も出すなど、高知の食文化を全国へ発信し続けています。それ故に松村さんの元には「高知への出店オファー」が相次いでいました。

しかし松村さんはそれを断り続けていました。「高知で成功しても、その結果、他の店を潰してしまうことになるかもしれない」。高知の経済規模を考慮し、妥当ではないと判断したからです。その代わりに故郷への恩返しとして松村さんが選んだのは、高知の夏の代名詞「よさこい祭り」への参加でした。

よさこい祭りは1954年に始まった高知の夏祭りです。祭り当日は約2万人、200チームの踊り子が、市内16カ所に設けられた会場を移動しながら踊ります。中でも優秀と評価された約20チームには「大賞・金賞・銀賞」などの各賞が贈られます。

2014年夏、松村さんは新進気鋭のクリエイターやダンサーを率いて祭りに初参加しました。コミカルな動きの中に伝統的な振りも織り交ぜた斬新な踊りは、町に大旋風を巻き起こしました。自分で作ったチームでよさこい祭りに参加するという夢がかなった松村さんは、踊り子を眺めながら喜びをかみしめていました。「圧巻です。もう死んでもいい。高知ラブです」。手足は思うように動かなくても、自分が生きているということを体全体で感じたふるさとの祭りでした。

2016年、松村さんにとって3度目のよさこいの夏が始まりました。その前年、ダイヤモンドダイニングよさこいチームは2度目の参加にして金賞を受賞するという快挙を成し遂げていました。今回の目標はその上、最高位である「大賞」です。「病気でも賞をとれることを見せつけたい。それを言い訳にしたくない」。自らの病に打ち勝つために挑んだ夏。果たして、その結果は―。

コメント

ディレクター・美崎由梨(高知さんさんテレビ報道制作部)

「原因不明の難病を患いながらも、なぜ彼は強く、優しく、前向きに生きることができるのか。その原動力は何なのか。外食業界のパイオニアが故郷・高知へ錦を飾るために『出店』ではなく敢えて『祭り』を選んだ理由を探りたい――。始まりは、そんな思いからでした。

“病になったのは意味があるし、超えられると思っている”。そう言い放つ彼は、決して人前で弱音を吐きません。逆に冗談を言ったり流行りの芸人のマネをしたりと、人を喜ばせることに全力を注ぎます。そんな彼の周りには自然と“力になりたい”、“支えになりたい”、“喜んでもらいたい”と部下や友人が集まっていました。それは決して、社長である彼のご機嫌取りでも、病人に対する同情でもありません。かくいう私も彼の持つその不思議なオーラと魅力にひきつけられた一人でした。

松村厚久という一人の男の生き様を形に残すことで、迷い悩み生きる人々にとって前向きに進むヒントになれば…。そして彼と同じパーキンソン病で闘う人々へのエールになれば…。そんな思いを込めて制作しました」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『私はパーキンソン病です』
~あるカリスマ社長の足跡、信念、そして“熱狂”~(制作:高知さんさんテレビ)
放送日時
10月3日(火)26時35分~27時30分
スタッフ
プロデューサー
明神康喜(高知さんさんテレビ)
ディレクター・構成
美崎由梨(高知さんさんテレビ)
撮影・編集
山本大地(Ninth Code)
MA
安西留美(キャロット)
ナレーター
鹿瀬ハジメ(ワイワイワイ)
制作著作
高知さんさんテレビ

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。