FNSドキュメンタリー大賞

FNSドキュメンタリー大賞

2017.9.26更新

それぞれが踏み出す未来への第一歩

第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
つなげる~我ら双高生 更に新たに道あらん~

9月30日(土)27時50分~28時45分

福島第一原子力発電所が立地する双葉町にある伝統校・県立双葉高校がこの春休校し、94年の歴史に一旦幕を閉じました。震災から6年がたった今も、大切なものを失おうとする人たちがいます。突きつけられる帰還困難区域の現実と双葉高校の休校。しかし、そこでみたのは悲しみばかりではありませんでした。同窓生が、休校前最後の生徒が、学校を愛する人たちそれぞれが、大切なものをつないでいこうと、新たな一歩を踏みだす姿がそこにはありました。

94年の歴史を持つ福島県立双葉高校。福島第一原発から最も近い高校で、その距離はおよそ3キロ。原発事故の影響で生徒数は激減。サテライト校という形で存続してきましたが、この春、ついに双葉高校は休校に追い込まれました。しかし、そこで見たのは悲しみばかりではありませんでした。母校の休校を前に、それぞれが踏み出す未来への第一歩を追いました。

いまだ全町避難が続く福島県双葉町に双葉高校の本校舎はあります。冬のある日、校舎を写真に収めるシャッター音が聞こえてきました。

「アルバムに使う時はここが顔なので、入れたいよね」。

こう話すのは、小野田浩宗さん(56)です。地元の写真店で働き、20年以上に渡って双葉高校の卒業アルバムを作ってきました。休校前最後の卒業アルバムにひときわ思いを募らせる小野田さんも、実はおよそ40年前に双葉高校に通っていたOBでした。しかし、カメラを向ける母校にはかつてとは一変した光景が広がっていました。

多くの人が思いを寄せる双葉高校。その存在の大きさには理由があります。今から94年前の1923年に双葉高校の前身、旧制双葉中学校が創立されました。学校の誕生は地域の願いでした。当時は貧しい農業の町。そこで、ふるさとに活気をもたらそうと住民自らが学校誘致に動きました。学校の建設費用は、当時の町の予算のおよそ12倍。学校は、地元住民の寄付や町の借金などで建設されるなど、双葉高校は多くの困難の中から創立されたのでした。

そして、今思えば町を大きく変えたものがもう一つありました。福島第一原発。原発は、所得を増やし、就職先の一つとなるなど、地域と大きな関わりを持ち続けてきました。原発とのつながりは、甲子園に3度出場した双葉高校野球部にも。一度打線に火がつくと止まらなくなるその強力打線は「アトム打線」と呼ばれ、甲子園を沸かしました。町と原発、双葉高校は確かに共存しながら成長してきましたが、あの日以来すべてが一変したのです。

周辺の町や村の避難指示が解除される中、町のほとんどが帰還困難区域になっている双葉町は、まだ復興のスタートラインにさえ立てていないのが現状です。双葉高校のすぐ近くの中華料理店で腕を振るっていた池下共子さん(71)は半年ぶりに一時帰宅しましたが、店内は獣に荒らされ、変わり果てた姿に。「6年間住まないっていうのはこういうことなんだもんね。もし地震だけだったら直して働けるんだもんね」と複雑な思いを抱きます。

厳しい現実を前にしても、母校に思いを寄せ立ち上がる人たちがいました。かつて甲子園にも出場した野球部OBです。変わらない伝統のユニホームを着て、マスターズ甲子園に挑戦すると言います。OB会会長の渡辺広綱さん(62)は、試合後、メンバーにこう呼びかけました。「マスターズ甲子園を挑戦し続けます。毎年出ます。それで双葉の名を残すように頑張っていこうというのが最大の目的です」と。

卒業式前日、小野田さんは休校前最後のアルバムを抱え生徒たちのもとへと向かいました。アルバムには、生徒たちが通うことなく休校となる本校舎の写真も入れられました。「ぜひ双高生というね、誇りを持って卒業して頑張ってください」と小野田さんは生徒に言葉を送りました。

そしてもう一つ、小野田さんには卒業式の後に休校前最後の1枚を撮るという大切な仕事が残っていました。「涙でくもってシャッターが切れないんじゃないかなって思いがある」と休校前最後の1枚に悲しみがこみ上げます。休校前最後の卒業式には、後輩たちを送り出そうと多くの同窓生が駆けつけました。卒業生と同窓生が一緒になって校歌を歌い、さまざまな思いがこみ上げてきます。そして小野田さんは休校前最後の1枚に臨みます。

卒業式後、双葉高校サテライト校の荷物はすべて運び出され、大学に間借りしていた校舎も返還されました。しかし、サテライト校が空っぽになった翌日、双葉町にある本校舎には先生たちの姿があり、本校舎には、「復活双高」の思いが込められたあるものが置かれました。

そして休校後の4月、本校舎には休校前最後のアルバムを作り終えた小野田さんの姿がありました。カメラを向ける先には、もう撮る相手はいません。しかし、小野田さんは双葉高校を撮り続けます。

休校しても新たな道を進む我ら双高生たち。双葉高校を愛するそれぞれの思いに迫り、双葉高校休校の現実を描きます。

コメント

ディレクター・小野田明(福島テレビ)

「私は双葉高校のOBです。取材を始める前まで、母校が休校するという現実に複雑な思いがありました。休校とはいえ、再開が決まっているわけではありません。しかし、双葉高校を愛する人たちを取材する中で、母校の休校は悲しみばかりではないことを知りました。

休校をきっかけに、立ちあがった野球部OB。双葉高校で学んだ縁をつないでいこうとする生徒。そして、双葉高校の姿を撮り続け、“復活双高”へつなげていこうとする同窓生。原発に翻弄されながらも、大切なものを守ろうとする人たちと出会いました。

双高生の多くは、福島第一原発の近隣市町村の出身です。このドキュメンタリーに出てくる双高生たちも同様に、いまだふるさとに帰れず、震災と原発事故で大切なものを失い、生活が一変した人たちがほとんどです。避難区域の厳しい現実を知る双高生たちが踏み出す一歩は、震災と原発事故後に生きる決意の一歩のように感じられました」

番組情報

タイトル
第26回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『つなげる~我ら双高生 更に新たに道あらん~』(制作:福島テレビ)
放送日時
9月30日(土)27時50分~28時45分
スタッフ
ナレーター
松永安奈(福島テレビ)
撮影編集
石母田慎也(福島映像企画)
構成
平和紘
音声
新國伸太郎(福島映像企画)
CG
鈴木正行(福島映像企画)
ディレクター
小野田明(福島テレビ)
プロデューサー
仲川史也(福島テレビ)

※掲載情報は発行時のものです。放送日時や出演者等変更になる場合がありますので当日の番組表でご確認ください。