2014年04月19日 新・週刊フジテレビ批評で放送
社会・公共

STAP細胞を巡る一連の報道をどう見るか?

1月末に発表された『STAP細胞』は、世界的な発見として注目を集めました。
しかしテレビ報道を始め、日本のメディアではその科学的側面だけでなく、
別の側面に注目が集まり、さらに論文の不正が指摘されてからは、
研究者個人、所属機関などへの非難、困惑、期待が整理されないまま、
混乱の様相を呈しています。
紆余曲折を重ねたメディアの報じ方への批判の声があがる一方で、
視聴者側のリテラシーを問題視する指摘もあり、
改めて専門性が高い分野、科学的な視点が必要な事象の報道の難しさを
浮き彫りにした形となっています。

《これまでの経緯》
1月29 日、独立行政法人 理化学研究所は「体細胞の分化状態の記憶を
消去し初期化する原理を発見」と題したプレスリリースを発表しました。
山中教授による研究成果で有名となったiPS細胞よりも、短期間かつ
簡単に「万能細胞」が作成できることは画期的であり、国内外から、
称賛が集まりました。

研究ユニットのリーダーは、独立行政法人理化学研究所に所属する
小保方晴子博士であり、30歳の女性が割烹着を着用して、カラフルな
研究室で大きな成果を挙げたことが注目され、
“理系女子(リケジョ)の星”として、世間の注目は、研究内容よりも
小保方氏自身へと移りました。

しかし、2月17日、理化学研究所は「STAP論文」に不自然な点があるとの
指摘が外部から寄せられたこと受けて、調査を開始したと発表し、翌2月18日には、
論文を掲載したイギリスの科学誌『ネイチャー』も論文の画像に不自然な点があったため
調査を開始したと発表しました。

調査が開始された前後から、小保方氏の論文への批判が高まり、
週刊誌などを中心に小保方氏やその周辺に対するバッシング報道が過熱しました。

そして3月10日、論文の共著者である若山照彦 山梨大学教授は、山梨大学のウェブサイトに、
「本論文に関して様々な疑問点が指摘されている今日、私はSTAP細胞について
科学的真実を知りたいと考えております。」とコメントを掲載。
同時に、若山教授は小保方氏をはじめ他の著者に論文の撤回を呼びかけたと報じられました。

4月1日、理化学研究所は、調査の最終報告書を公表する記者会見を行い、この中で、論文に
「捏造」「改竄」があったと判断したとし、研究不正行為は小保方さん1人であるという
認識を示しました。

4月7日、理化学研究所は、STAP細胞の存在について検証を行う実験計画を発表。
小保方氏はこの実験に参加しないことも明らかにし、最終報告を来年3月に行うと発表しました。

4月8日、小保方氏は理化学研究所の最終報告書に対し不服申し立てを行い、さらに翌4月9日、
大阪で記者会見を行い、論文にミスがあったことを認め謝罪する一方で、
「STAP細胞は200回以上作製に成功」したと述べ、証拠は示さないものの
論文を撤回しない考えを改めて示しました。

この会見は、NHKと民放4局が中継を行う異例の対応が行われましたが、
理化学研究所と小保方氏の対立と、STAP細胞の科学的真実の所在など、
論点が整理されないままに、注目を集める状況となっています。

理化学研究所では小保方氏の不服申し立てを受け、
来週中にも再調査を行うかどうかの判断をするとしています。

オピニオンリーダーへの問いかけ

※コンパスで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
Q1:STAP細胞の発表から小保方リーダーの反論会見まで、紆余曲折があった一連の報道についてお伺いします。
この間のテレビでの報道ぶり、報道内容をどうご覧になっていましたか?
問題があったとすれば、どんな点ですか?
Q2:一連の報道についてどうご覧になっていたか、お書きください。
また問題があったか、なかったかについての回答理由をお答えください。
Q3:一般の人が理解しにくい、また興味を持ちづらい専門的な事象をテレビで報道するにあたって、
どんな課題があると考えますか?
さらにその課題を克服するための具体的な提案をお持ちでしたら、お聞かせください。
ご自身の専門分野での報道についてもお考えがおありでしたら、お書き添えください。

オピニオンリーダーの回答

( 22件 )
  コメントを投稿する

1. 問題があった

伊東乾
作曲家・指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
内容を理解しないで報道していて問題以前に問題外
内容を理解しないで報道しているのだから、問題以前に問題外なケースばかり目についた。
Q3. 回答する
まず理解してから報道しよう。3.11直後をまざまざと思い出し、悪夢かと思った。
 
 
小幡績
慶應義塾大学ビジネススクール准教授
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
一連の騒ぎはすべて報道側に問題がある
当初から、STAP細胞という研究の中身ではなく、若い女子であることや割烹着などを報道していたように、もともと科学に理解も敬意もない人々が、同じような視聴者へ向けて報道を行なっていたことに問題がある。

本件の問題は、研究が不正な研究か否かにかかっているのであり、一般の報道関係者は判断できないのであるから、当初から、学界にすべての議論を任せるべきであり、真偽を問う今の段階でも、依然、学界にすべてを任せるべきであり、報道するべきでない。
Q3. 回答する
報道する必要がない。テレビは、一般の人々が関心があり、理解可能なことだけを報道すれば良い。
報道側も視聴者側も理解できないことを報道することは、かえって理解や本質、真実から遠くなることをもたらし、世の中を混乱させるだけとなるからだ。
 
 
本田宏
医療制度研究会副理事長
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
 本来はSTAP細胞の意義等をたんたんと科学的な視点で紹介すべきと考えるが、30歳女性で割烹着を着ている等の劇場型報道に始まり、その後もSTAP細胞の真偽について冷静な分析報道を心がけるべきところを、理研や小保方氏含めた責任追及・犯人捜し型の報道に終始したように見える姿勢は残念。。
 本来はSTAP細胞の意義等をたんたんと科学的な視点で紹介すべきと考えるが、30歳女性で割烹着を着ている等の劇場型報道に始まり、その後もSTAP細胞の真偽について冷静な分析報道を心がけるべきところを、理研や小保方氏含めた責任追及・犯人捜し型の報道に終始したように見える姿勢は残念。
Q3. 回答する
 医療現場で言えば救急患者の「たらい回し」の深層は、先進国最低に抑制した医療費と医師数による救急専門医不足、さらにベッド満床などによる「受け入れ困難・不能」。
 目前に起きている種々の問題の背景、今回は「少ない研究費や研究助手や教育含めたマンパワー不足」等についての掘り起こしが必要。
 メディアが問題の深層に切り込んで、政府に改善する努力を求めていかなければ、救急患者の受け入れ不能同様、研究分野でも同じ問題が繰り返される。
 
 
浜辺陽一郎
青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院) 教授,弁護士
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
もっと多くの専門家の意見が提供されることが望ましい。どの番組にも同じ東大の先生や科学ジャーナリストが出てきていた。法律的な整理や、研究倫理の問題については、もっと多くの専門家がいたはずであって、それらの意見が加われば、もう少し議論を掘り下げることができたのではないか。
一応、全体としては肯定的に評価している。これから専門的な道に進む人たちや、大学で研究に携わる学生などにも、教訓を残すことができただろう。

もっとも、なかには表面的な捉え方や不真面目な番組もあっただろうが、報道番組や真面目な情報番組は、おおむね、この難しい問題をそれなりに一般人にも分かりやすく伝えながら、背景にある研究環境、研究倫理の問題、理研のガバナンスの問題などにも触れて、いろいろな問題提起がされていたように思われる。

その過程で、各分野の専門家の解説も、いろいろと提供されていて、一応の理解ができ、それゆえに、大いに盛り上がり、多くの人々が様々な角度から、この問題に関心を持つことができたのはよかった。

しかし、いくつか問題もあり、今後の改善の余地はまだある。まず、もっと多くの専門家の意見が提供されることが望ましいのではないだろうか。どの番組にも同じ東大の先生や科学ジャーナリストが出てきて、同じような話をしていた。他の多くの研究者、専門家は表に出たくないということとか、もう専門家はあれ以上にはいないという話もあったようだが、日本にも世界にも、もう少し話ができる人はいたのではないか。

特に、法律的な整理や、研究倫理の問題については、もっと多くの専門家がいたはずであって、それらの意見が加われば、もう少し議論を掘り下げることができたのではないかと思うが、いつものことながら、どの番組も、似たようなもので、やや「金太郎あめ」みたいな印象を受けた視聴者も多かったのではないかと思われる。

なお、本件にはジェンダーバイアスの問題もあるが、それについては、それ自体も議論となっており、一つの問題提起として理解できる。
Q3. 回答する
どのように分かりやすい説明をする専門家に登場してもらうかが問題。

限られた時間の中で、できるだけ問題を整理して、その課題ごとに分けて、あるいは、どの次元の問題であるかを明らかにしたうえで、その解説・議論をしてもらえればと思う。

この問題は、たまたま小保方さんのキャラクターが立っており、最初から興味を持ちやすい形で現れた事例であって、その後の展開も典型的な研究不正や研究倫理の問題であることが明らかになったことから、それなりに、今回の事件がはらむ諸問題を世間に知らしめたように思われる。

それに対して、もしも、地味な研究者であるとか、問題が微妙であったら、それこそ、「一般の人が理解しにくい、また興味を持ちづらい専門的な事象」であって、そういう場合には、たぶんテレビはあまり報道してくれないのではないか。それを、克服するには、やはり、そういう問題をテレビでも取り扱えるような興味深い問題として解説してくれるような専門家を見つけて、上手にプレゼンテーションしてもらうということしかないのではないか。

そういう意味で、まずは、報道価値のある問題を、いかに選別するかが、より重要な問題ではないかと思われる。、
 
 
結城未来
灯りナビゲーター/新潟大学非常勤講師
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
ワイドショー的な取り上げ方をすることは、世界からみた日本のイメージさえも落とすことになりかねません。報道番組は、日本だけでなく、世界に日本の実態を報道し、日本のイメージを左右する存在でもあることをわかって番組を組み立てるべきだと思います。
何のチェックもせず、若い研究者を華やかにとりあげるだけとりあげて持ち上げてから、何かあるとすぐに落とすというやり方は、日本のTV番組で非常に多いパターンになりました。ただ、ワイドショーではこの手法でとりあげたとしても、報道でこのパターンになってしまうのはおかしいと思います。
報道でこの形をとってしまったために、世界中に日本の恥をさらしている状態です。

理研が若い研究者を持ち上げて世紀の発表をしたことは世界中に駆け巡りました。しかし、同時に「若い女性の成功」という部分も報道によってフィーチャーされてきました。続いて、「若い研究者の失態と、その弁明をする悲劇のヒロイン劇場」に代わり、すっかり「世紀の研究」という日本の誇りを地に落としてしまいました。この報道の仕方は、「優秀な研究が進んでいる日本」というブランドを落とし、日本人の品位まで落としていることにつながっていると思います。
報道番組は、日本だけでなく、世界に日本の実態を報道し、日本のイメージを左右する存在でもあることをわかって番組を組み立てるべきだと思います。
Q3. 回答する
「視聴者にわかりやすい」という視点はとても大切なことですが、それが偏った演出によって、ワイドショーと変わらない情報の出し方になっている限り、視聴者は離れていく一方です。今の視聴者は、「自分でも考えられる余裕」が少し欲しいのだと思っています。ワイドショーと一線を画して、冷静かつ、客観的でわかりやすい報道方法を模索すべきだと思います。
 
 
原田曜平
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
テレビ局が自社で専門的或いは多様な事象を解明しようとするのではなく、
外部に多様なネットワークを保持しておき(今まで以上に)、そのネットワークと
の有機的な連携が必要になってくると思います。
ここ数年、論壇の世界で若返りが進んでいるように思います。テレビでも
若いコメンテーターが増えました。これまで新しいインプットをしない
重鎮のようなコメンテーターが、同じような話を繰り返す状況が続いて
いたので、基本的には新しい血を入れることは重要なことだと思います。
 
一方、山中教授が「30代の研究者は未熟だ」とコメントされたように、
若さとはフレッシュさでもあるのと同時に、経験値が少ない分、未熟さ
でもあると思います(自戒の意も込めて)。
ですので、若い人のフレッシュな意見を取り入れつつ、盲目的に祀り上げる
のではなく、危うさも含んでいることを加味し、一定の冷静さを保った報道
が必要になってくると思います。
 
今回の一連の報道は、「リケジョ」という旬なキーワードとも結びつき、やや
冷静さを欠いた持ち上げ方をしてしまったように思います。
Q3. 回答する
今後、更に日本がグローバル化していくにあたって、もっともっと多様で専門的な
情報を報道しないといけない時代になってくると思います。

私もアジア各国でマーケティングを行っていますが、1人の人間が完全に複数カ国
の多様なジャンルに詳しくなり切ることは不可能だと思います。
よって、来るべきグローバル時代の多様化社会においては、諦めも必要であり、
テレビ局が自社で専門的或いは多様な事象を解明しようとするのではなく、
外部に多様なネットワークを保持しておき(今まで以上に)、そのネットワークと
の有機的な連携が必要になってくると思います。

このコンパスはそういった意味で、基本的には正しい方向性のように思いますが、
課題はどう有機的に連携していくか、ということだと思います。
 
 
岩渕美克
日本大学法学部教授
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
 難しいことをわかりやすく報道することは難しいことですが、それを避けてはいけません。科学的な発見などの報道ではこうした点が散見されます。報道の本質を考えてもらいたい。
 一連の報道は、STAP細胞そのものについての報道から、小保方さんというアイドルないしはスターのプライベートに移行していました。特に、週刊誌やテレビのワイドショーなどはその典型です。こうした現象は、STAP細胞そのものの意義や内容が難しくてよく分からない時に生じる現象です。ニュースバリューが高いと判断されるものについて、わかりやすく報道するという姿勢は高く評価できるものですが、難しいことを分かりやすく報道するのではなく、難しいことは捨象して簡単なことだけを抽出して報道することでわかりやすさを演出する方法です。このことがまた、STAP細胞の意義をまで減じることになることが残念です。小保方さんの会見の評価も信じられる、信じられないの2元的な判断のみで報道していることも気になります。一般の人がどのように判断するのかも重要でないとは言いませんが、信じられないとすれば彼女の本意が伝わっていない報道やそれを明らかにできない記者の能力の問題もあるように感じるからです。また、「200回以上成功している」発言を取り上げて、200回以上成功するには週1回でも4年以上かかるから怪しいなどのコメントも散見されましたが、本質は回数の問題ではなく複数回成功しているという部分にあるので、枝葉末節な部分を大きく取り上げることに本質的な意味はないように感じます。
 いい年をした政治家が雲隠れするのに比べると、彼女は信念があるのか、堂々と記者会見に臨むのは好感が持てました。この会見は、おじさんと女性、とりわけ若い女性との間で大きく乾燥が異なるとは思っていました。私は50代後半のおじさんなので好意的すぎるでしょうか?
Q3. 回答する
 報道が多様化する中で、専門的な分野を持つジャーナリストを養成することはとても難しくなっています。とりわけ、日本の取材体制の特徴が番記者制度に見られるような人を固定化する取材方法が主だからです。この方法にも利点はありますが、こうした日ごろ付き合いのない人に対して取材を行うノウハウが足りないような気もします。特に科学的な発見などの特定の分野には、ある程度スペシャリストの養成も必要なのではないでしょうか。
 私は政治学者ですが、政治の分野でも政治家との関係を持つことはできますが、選挙制度や政治資金などに関するジャーナリストの人たちの知識は十分ではありません。この場合、私たちのような研究者がコメントを発表することで補完しているのですが、人的な発掘も十分ではないような気もします。学会などにも顔を出すような、勉強のための時間的余裕も必要なのではないでしょうか。
 
 
松田千恵子
首都大学東京教授/マトリックス株式会社代表
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
或いは、本件において理研の倫理的、金銭的な問題を掘り下げる(Tax Payerとしての
国民にも大いに関係があること)といったことをなぜ目指せないのか。
以下の感想を持った。
①論文が問題になる以前の段階で、非常に奇異に映ったのが、研究や発見の内容
 そのものにではなく、研究者個人の極めて私的な事柄にのみ報道の中心が置かれて
 いたことであった。そのように仕向けた(と見える)理研の対応にも問題が
 あっただろうが、あたかも新しい芸能人が出てきたかのような報道ぶりが現在にも
 尾を引いていると思われる。

②また、論文が問題になり始めた段階において、実際に何が問題なのかという点を
 詳しく検証した報道はなかったように思う。論文の内容に疑義がある、コピペでは
 ないか、といった問題提起は主としてネット側からなされており、初期の時点で
 正面から問題に取り組もうという姿勢は従来メディアには薄かったのではないか。
 だが、研究者等にきちんと取材をすれば、あれだけネットで採り上げられていた時点
 で、従来メディアとしてもより的確な報道ができたように思う。

③理研や本人の会見に至る段階になってからの報道は、騒ぐ方向を間違えた単なる
 騒ぎすぎ。研究という世界では本人のやったことは到底認められるものではなく、
 とうにアウトな話。
 ①と同様に、まるで芸能ネタのように扱われていることに奇異な感じを受ける。
 メディアがそれを報道だと称するのであれば、研究とはどういうことなのかという点
 をきちんと世間にも知らしめる、或いは、本件において背景に見える理研の倫理的、
 金銭的な問題を掘り下げる(Tax Payerとしての国民にも大いに関係があること)といったこと
 をなぜ目指せないのか。
Q3. 回答する
まず、メディアの側が「一般の人が理解しにくい、あるいは興味を持ちづらい」と
思いすぎているのではないか。大多数の国民はそれほどバカではない。一方で、
メディアは、視聴者のレベルを著しく低く設定して報道を行っているように見える
(それがレベルの低い視聴者を生む悪循環にもなっているのかもしれないし、最近の
テレビ・新聞離れを生む一因になっているのかもしれない)。
製作者の側も、実は知的水準の低いものを作ることに飽きて居るようにも思う。
今後も「報道機関」として生き延びていこうとするならば、自分たち自身が本当に
知的水準を満足させるものを作っていこうという見直しが必要では。

もう一点、メディアが第三の権力として期待される(されていた)のは、その批判精
神ゆえである。
今の報道は、枝葉末節を取り上げてつつく、という意味での町内ゴシップ的「批判」
精神には富んでいるが、本来求められる健全な批判精神、懐疑的立場から本質を追求するとい
うことはまるで行っていない
(たとえば、若干30歳の綺麗なオネエサンが画期的発明をしてピンクの研究室で微笑んでいる、
それをPR会社などが仕切ってゴージャスな会見にしている、というだけで、何かおかしいと
思わないか? 少なくとも、何でそんなことができたのだろうと思わないか?)。

いい加減、消費するネタを探して、面白おかしいものがあったら無批判に垂れ流し、
あっという間に忘れる、といったことは止めたらどうか。それを「報道」とはいわないだろう。
逆に言えば、高レベルのことであろうが何だろうが、作り手の側が健全な批判精神を
持って、素朴な「問い」を発し続けることができるのであれば、本問にあるような
「課題の克服」につながるのではないだろうか。

メディアの「質問力」「疑問力」の向上がカギでは。
 
 
南淵明宏
医療法人社団 冠心会 大崎病院 東京ハートセンター  心臓外科医
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
価値を自ら創成し、消費し尽くす、低俗メディアの悪辣な「しのぎ」の手口が露呈した一連の事件報道だ。
いつもながらの問題に尽きる。つまり報道の価値を創成し、それが展開するとなるやさらにその価値に群がり、あたかも驚天動地の大事件のように取り上げて、徹底的にその価値を消費しつくし、その価値がなくなると「あれは何だったの?」と忘却の彼方に追いやる。メディアによるニュース価値の創造と自らのその価値の完全消費の構図である。
この点についてのメディア・リテラシーは相当程度に一般社会において備わったことと期待する。
Q3. 回答する
メディアのリテラシーが低いどころか皆無に等しく、救いようがない。
この秋にニュースになるであろう、インフレーション理論と原始重力波については今から勉強しておくべきだ。それにしてもサイクリックとマルチバースの決着はつくのだろうか?
 
 
鈴木豊
青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授・公認会計士
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
専門的であるにもかかわらず、第三者の専門家の理論的評価が記事に書かれていなかったった。専門性の高い記事については発表者本人のバックグランド、発表機関の体質や環境を取材して記事を書くべきであった。高度な専門的内容で国民に影響を及ぼす内容については、記事の掲載責任を意識して記載すべきである。
1.専門的であるにもかかわらず、第三者の専門家の理論的評価が記事に書かれていなかったった。
2.発表者本人をジャーナリスティックに取り上げすぎていた。
3.専門性の高い記事については発表者本人のバックグランド、発表機関の体質や環境を取材して記事を書くべきであった。
4.高度な専門的内容で国民に影響を及ぼす内容については、記事の掲載責任を意識して記載すべきである。
5。専門的内容を、利益目的で記事記載はすべきではない。
Q3. 回答する
1.当該専門的事象の現代的課題を、経緯を含めてある程度詳細に示すべきである。
2.国民の生活や経済的影響を及ぼし得る内容の記事は、これに関するステークホールダーを識別して取材し記事を書くべき。
3.2の記事内容は、種々の影響や利害に関係することを念頭に置いて報道すべき。
4.生命や財産に関する記事は、記事によるデメリットが生ずる場合の報道責任を自覚して掲示しなければならない。
5.報道機関の何がパブリックアカウンタビリティであるかを識別して記事を書くべきである。
 
 
潮匡人
国際安全保障学者,拓殖大学客員教授
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
そもそも反論会見を、ほぼ最後まで生中継したのは日本テレビ(読売テレビ)だけだった。会見では、テレビが割烹着の映像を繰り返し流したことや、各局番組の識者コメントへの疑問や批判も語られたが、それらも伝えた上で、検証していくのがテレビの使命ではないだろうか。
Q3. 回答する
分かりやすく伝えることも大切だが、正確性を犠牲にしてはならない。放送法を遵守し「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が重要である。防衛・安全保障に関しても、正確な報道を見た記憶がない。アメリカの番組では、普段から現役の将官がコメントしているが、日本では、それもない。自衛隊を舞台にしたドラマも過去一例しかない。
 
 
山田昌弘
中央大学教授
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
はしゃぎすぎ。ミスをみつけると徹底的にたたく報道には疑問がある。研究者を委縮させ、研究の発展を阻害する可能性がある。ただ、今回の事件のおかげで、私も含め、多くの人が、理系の研究の現状や、論文審査のしくみ、細胞研究の内容に関心をもち、知る機会になった。
大発見と報道されてた時には、持ち上げすぎ、はしゃぎすぎとの印象をもった。
ただ、理研、そして、本人もがそれを狙っているような印象をうけた。
これも、真実はわからないが、理研や本人がここまで持ち上げられること自体を望んでいたのかどうか、わからない。

疑問点が発見されてからも、今度は逆のはしゃぎすぎ。もちろん、STAP細胞自体の存在するかどうかは、まだわからないと中身を読めば正確な報道をしているが、結局は、捏造などの文字が目立ってしまう。つまり、ミスがあったらたたきまくり、能力がある研究者の将来をつぶすことに手を貸すことは、研究者を委縮させ、研究の発展を妨げる。また、個人のプライバシーにまで入り込んだ報道には疑問を感じる。

ただ、今回の事件のおかげで、私も含め、多くの人が、理系の研究の現状や、競争の激しさ、論文審査の仕組み、そして、細胞研究の内容を知る機会になったことは、評価されてよい。逆に、このようなスキャンダルがなければ、人は、なかなかそのようなことに関心を持たないのも悲しい事実である。
Q3. 回答する
はっきりいって、理科系の大発見は、一種のギャンブルである。昔は、理解できる一部の専門家のみの関心をひいた。アインシュタインの世紀の発見も、最初は一部の人にしか理解されず、理解できない一般人は関心がなかった。検証されて、理論が確立されて、一般の人に影響が及ぶまで時間があったのである。
そういう時代ではなく、人々が中途半端な関心をもつ時代、、特に科学の内容よりも、「日本人の偉業」とか「女性の活躍」とかにより関心があり、科学研究の内容自体は添え物のような報道になりがちである。
数十年前に、常温超伝導発見のニュースが世界を駆け巡ったが、勘違いであることが分かった。また、数学では、フェルマーの大定理が解けたとのニュースが駆け巡ったが、一部ミスがあることが分かった。この場合は、本人が一年後にミスを修正して、数学史に名前を残す大研究者の地位を確立した。

今回もはっきり言って、検証に時間がかかる。アインシュタインだって、ミスが含まれたものを発表して、後で自分で訂正したこともある。もし、検証されれば30年後、彼女はノーベル賞を受賞してもおかしくない。しかし、30年後、報道は責任をとることはない。

どんな大研究者でもミスがある。そのミスを取り上げてたたいて、有能な研究者をつぶすような報道ではなく、ミスがみつかっても、研究者自身に修正させるような前向きの報道を期待する。そうでなければ、日本の研究者は委縮してしまう。
 
 
山口真由
元財務官僚
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
テレビ報道に限らず、日本社会は基本的に「男性目線」で、「若い女性」の取り扱い方が、良い方にも悪い方にも「不衡平」、アンバランスなのではないか。
小保方氏が主要な著者であったこともあるが、当初、彼女だけがスポットライトを浴びたことに対して若干の違和感を覚えた。論文は、共著者の方が多くいらっしゃり、それぞれが重要な役割を果たしていたはず。それらが全て捨象され、小保方氏一人が「割烹着」「壁紙はピンク」「ムーミン」とフェミニンな報道をされていた。

小保方氏への風向きが一変して以降、彼女だけが批判されたことを取り上げる意見が多い。私は、むしろ、彼女だけに称賛が集中した時点で、問題の端緒が顕れていたのではないかと感じている。称賛であれ、批判であれ、日本社会において「若い女性」が、不衡平なレベルで注目されすぎてしまっているのではないかと感じるのである。

テレビ報道を含む日本社会が、非常に「男性目線」に寄っていることが、この遠因にあるのではないか。「美人研究者」と報じられた小保方氏。「美人すぎる市議」「美人すぎる裁判官」「美人すぎる検事総長」。それに対して、「フライトアテンダント」「受付嬢」「モデル」といった職業が「美人すぎる・・・」と 形容されているのは、ついぞ聞かない。日本社会においては、おそらく、本来的には「男性的」であると思われている職業において、女性が活躍している場合、本来のイメージに対して「美人すぎる・・・」と形容されるのだろう。

さらに言えば、そもそも社会に出て活躍する女性が少ないので、マイノリティとして不衡平なレベルの注目を集めてしまっているのだろう。特に「研究者」という職業は、男性に独占されていたイメージが強い。だからこそ、そこで「若い女性」が活躍していると、その意外性が、極端な称賛となり、その裏返しが極端な失望と批判につながったのだと思う。

私は小保方氏と同じ30歳。テレビを含む報道は、なかなか等身大の私達を捉えてくれず、自分の実力以上に過剰評価されるか、又は、これから長い人生があるのに再起不能なほどに叩きのめされるという振れ幅の大きな状態になっている気がして、戸惑いを覚える。

女性の社会進出がさらに進み、「美人研究者」として、女性としての側面ばかり報道されることがないような、「美人すぎる」職業なんて一切なくなってしまう日が来ることを望む。
Q3. 回答する
理系の非常に専門的な問題を、全く知識がない人にも分かるように伝える必要まではない。課題は、テレビ報道において、スタンスを固定的なものにせず、多様な視点を伝えること。

報道は、教育番組とは、そもそもその目的を異にするもの。だから、STAP細胞のなんたるかについて、誰でも分かるように解説することが主目的ではないと思う。「文系」的な報道に終始ことに対する批判はあったが、テレビ報道を視聴する側が、STAP細胞の専門的な知識に熟知している必要はないと思うのである。

私が、懸念したのは、むしろテレビ報道の視点の画一性と偏向性である。

当初は、どのテレビ媒体も、小保方氏個人に対して非常に好意的。中2の時の読書感想文まで取り上げて賛美した。疑念があるとネット等で取り上げられるようになった直後も、彼女を擁護する発言の方が、まだ声が大きかった。

それが、論文に不自然な点があることを理由として調査を開始すると理研が公表した瞬間に一転、手のひらを返すように、すべての報道が、彼女に対して批判的になった。彼女の博士論文まで取り上げ、その難点を繰り返し詳細に報じたのである。

同調を求める社会的圧力によって、少数派が沈黙を余儀なくされるという仮説を、政治学では「沈黙の螺旋」と呼ぶ。メディアによって「共通認識」が作られると、それに反することは何となく言いにくい雰囲気になり、そしてそれは少数派への圧迫となることが指摘されている。

影響力の大きいテレビ報道こそが、この「沈黙の螺旋」構造を打破するように常に意識すべきではないかと、私は思っている。誰もが、本当に自分の思っていることを、好きなように表現できる、そういう雰囲気作りに、テレビ報道より有効な媒体はない。したがって、空気を読んだ横並びの論調ではなく、それぞれのテレビ局の独自のスタンスを、もっと自由に盛り込むことを、今後のテレビ報道に強く期待する。
 
 
にしゃんた
羽衣国際大学教授/落語家
Q2. 「1 - 問題があった」の回答理由
メディアというものは無責任で、自分勝手で、血が通っていなく残酷で、
非人格で怖い存在であることを露呈したようなそんな残念な印象を残した。
■ 新しい「発見」と新しいタイプの「研究者」が掛け算され、見る側にとって夢のある話だった。
読者・視聴者の反応を受けて、早稲田も理研もはしゃいだ。
それが一転「?(はてな)」が付くと、手のひらを返すかのように今度は見る見る豹変する周囲。
人間がもち合わせている不細工な側面を見せられ情けなかった。
所属先の大人気ない大人たちが後輩・部下を庇うどころか、自分たちに火の粉が被らないように
急いで切り捨てを行い、かくして哀れ小保方さんは学会とメディア界では「ワル」として孤立してしまった。

今も昔も「才女+可愛い」に対して本能的に反応してしまう点、視聴者もマスコミの同じであろう。
問題は、一転した後のマスコミ対応である。ここまで来ると、関わった全員のこの件に加担しているにも
かかわらず、彼女を切り離し、客観化し、一人の問題として処理しようとしたのは一番の問題である。
所属先の責任は本当にないのか?メディアの責任はなかったのか?

このような段階で開催される記者会見での記者の質問はいつもえげつない。
「君は、なにモンやねん?」と問いたくなるような与太者記者もいる。
これでは難病に苦しみ、iPSとかSTAPに回復への希望をつなぎたい患者やその家族、希望を
持ち出した視聴者に失望感だけが残る。
メディアが自ら盛り上げ、自らその対象を叩く。その瞬間が、最も醜く、メディアを信じついて来た
人間が最も自己嫌悪を覚える瞬間だろう。

メディアの悪趣味がエスカレートした。ここまで来ると立派な「いじめ」である。
記者会見の際のヘアーセットの料金から履いていたパンプスのブランド名に、仕舞いには小保方氏の
担当弁護士のアイドルの好みまで聞いて電波に乗せる始末。次の旨いネタが見つかるまで「ネタ」を
弄繰り回し、「ポイ」。メディアというものは無責任で、自分勝手で、血が通っていなく残酷で、
非人格で怖い存在であることを露呈したようなそんな残念な印象を残した。
将来的に彼女の研究が認められ、ノーベル賞を受賞するような日が来たならば、周りの人たち、メディア
はどんな顔をして彼女に会いに行くのだろうか。
Q3. 回答する
STAPなんて突然登場したのだから、解るはずもない国民。
そこに、何が大事で、何がニュースたるものかを理解出来ていない記者にメディア全般。
視聴率、売上狙い・話題作りに熱心なデスク、営業サイドの意向で、リケジョ、ムーミン、割烹着の3つを
話題化し取り上げ、それが良くも悪くも相乗効果めいた流れを生んだ。
メディアが用いる典型的ひな形であろう。

今回の結末ならば、メディアはこの内容を扱わない方が良かったのではないか、関わるべきではなかったのではないか。メディア全体の印象が悪くなる。ニュースの本質からかけ離れ、ここでいう「研究・発見・未来・可能性」などよりも、ニュースの出だしの段階から「アイドル的人物像」に偏ったコンテンツの制作・配信がほとんど占めていたのではないか。バランスが悪かった。また、当のニュースの本質からして「報道」や「ストレートニュース」の域に留めるべきだった。
「ワイドショー」はもちろん、野次馬根性だけで「バラエティー」番組まで面白おかしく調理しだしたのがこれほどまでに後味の悪い結末になったのではないか。理解しにくい内容であればあるほどバラエティーで扱うべきではない。内容が解りにくく扱いきれないからこそ、「可愛い女性」に焦点が完全に移され、最終的には「いじめ」が生じる始末を招いた。マスコミが掻き乱さなかったらこの問題がもっとスムーズに建設的な方向でとっくに落ち着いたのではないか。
人の人格までを否定し、相手を入院させないといけない(もっと最悪のパターンも)結末もありえると今回も解ったならば、題材によって扱う番組ジャンルの棲み分けがあっても良いと考える。
 
 
▲ページトップへ

2. 問題はなかった

中津孝司
大阪商業大学総合経営学部教授,国際問題評論家
Q2. 「2 - 問題はなかった」の回答理由
今回の騒動は理化学研究所の組織的犯罪であり、メディアには責任はない。
今回の騒動は理化学研究所にまずは問題がある。この意味で組織的な問題だ。理化学研究所は予算確保を急ぐあまり、また業績を積み上げたい焦りから、STAP細胞発見の公表にゴーサインを出したはずである。この文脈においてはかの女性研究者は犠牲者である。
その一方、当該女性研究者も功を焦った。必要以上にiPS細胞発見のノーベル賞受賞者をライバル視し、このことが論文の不備を助長する原因となった。当該女性研究者は研究論文のオリジナリティの重要性を甘く見ている。
理化学研究所にも女性研究者にも研究に対する基本的な姿勢が誤っている。

一連の報道に問題があると指摘する声はあるが、メディアはニュースを伝えることを使命としている以上、発するニュース源に問題があれば、結果として誤った事実を伝えてしまう。これは致し方のないことである。今回の騒動をメディアの責任と結論づけるのは筋違いである。
Q3. 回答する
当該専門分野の一級研究者、しかも複数の研究者からの見解をできるだけ詳細に分析して、報道に盛り込むべきである。
 
 
坂野尚子
株式会社ノンストレス社長
Q2. 「2 - 問題はなかった」の回答理由
テレビメディアの強いところは、記者会見を生で編集抜きで見せることができるところであり、今回はそれが功を奏したと思う。むしろ、今回の一連の報道では一部活字媒体が行き過ぎた報道をしプライバシーを侵害していると思う。
Q3. 回答する
問題点を整理し、論点をいくつかに分け、客観的に見せる。1つ1つの論点について賛否両論の意見を見せる。視聴者に一方通行にならないよう、ツイッターやラインなどを使って、世論も同時に見せていったら面白い。
 
 
村沢義久
合同会社Xパワー代表/ 環境経営コンサルタント
Q2. 「2 - 問題はなかった」の回答理由
過熱気味との批判もあるが、初期の期待の大きさ、疑惑が生じてからの事の重大さを考えると特段行き過ぎであるとは思わない。今後とも、タイムリーかつ本質に沿った報道に期待する。
初期の報道が過熱気味であったとの見方もあるが、STAP細胞の発見が本当なら、ノーベル賞級の事件だと思うし、またそのリーダーが若い女性であったこと等を考えると、行き過ぎだとは感じられない。

また、疑惑が生じてからの報道も、事の重大さを考えると特段行き過ぎであるとは思わない。

もし、STAP細胞が本当に存在するなら、直接・間接の恩恵は計り知れない。今後とも、タイムリーで本質に迫る報道に期待する。
Q3. 回答する
研究者自身が専門用語を使って話すのは当然と思うが、一般人には「テラトーマ」や「キメラマウス」などの用語は分からない。用語や状況に関する解説が欲しい。
 
 
武貞秀士
拓殖大学大学院特任教授
Q2. 「2 - 問題はなかった」の回答理由
肝心の実験内容に関する情報が少ない中、すべての論点を抽出して報道していたのがテレビだった。ただ、1か月間にわたる報道体制が大げさすぎないだろうか。
この件については、テレビ、新聞、週刊誌などのメディアが、繰り返し、毎日、報道してきた。テレビ報道に関するかぎり、大きな問題はなかったと思う。
自分は国際政治学の研究者であり、この件については素人であるが、研究所の管理職をしたこともあって、研究論文が捏造と判定される基準などについて関心があり、注意深く見てきた。理化学研究所の記者会見をニュースで、小保方氏の記者会見をテレビ中継で見た。週刊誌、新聞の記事にも目を通してきた。異例のテレビ中継だったし、ニュースの解説番組も見た。テレビ報道はわかりやすく、専門外の人にも丁寧に説明をしていたと思う。なじみのない分野であるのに、テレビ報道にはあらゆる論点が出ていたと思う。肝心の実験内容に関する情報が不足しているなかで、読者や視聴者に論点が十分に提供されていたと思う。他のメディアのなかには、小保方氏の個人的なことに関わることを特に取り上げて報道してあるものがあった。また、実験の過程と、論文の書き方、結論の普遍性があるのかどうかが大事であるのに、理科系の専門を持った若い女性であるということだけで、研究成果を擁護するするようなコメントを大事にする報道や、研究室の壁紙の色、割烹着姿を特に強調する偏った報道があった。しかし、全体として問題はなかったと思う。報道体制が大げさすぎるのではないかなという印象は拭えないが。
 次の5つの点は区別して論じるべきであって、混同して報道してはいけないだろう。
1)数少ない若手の理科系の女性研究者であり、貴重な存在である。
2)研究者としての斬新な視点、大胆な仮説は他の研究者に刺激を与えた。
3)その仮説を立証するためのプロセスに不十分な部分があり、共著者の間で疑問点を指摘する人がでてきた。その指摘に答える記者会見にはなっていなかった。
4)公開された実験の手順では同じ研究結果に至ったという人の名前を特定できない。
5)論文を執筆するときの基本姿勢に問題があった。コピーをして張り付けていないか。大事な部分の出典を明記しているか。事実関係ではなく決定的な解釈の部分を簡単に借りてしまってはいないか。

 以上の5つは、混同してはいけない。着想が良く斬新であるからとって、そのプロセスが杜撰であっても擁護するというのは間違っている。
Q3. 回答する
 これを書いているのが、4月16日午前で、小保方晴子氏の執筆を指導した発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長が16日午後、東京都内で記者会見するときに、何がでてくるか不明だし、16日午後の報道についてはカバーしていない。
 第一に、一般の人が専門的知識を身につけるための報道である必要はない。この件が、日本の科学技術振興にとってどんな意味を持つのか。日本が誇る科学技術への国際的評価、メーベル賞受賞者を輩出してきた日本の科学分野に対する国際評価にどう影響しつつあるか。欧米の専門家はどうみているのか。能力ある女性科学者の育成にどのような影響を及ぼすのかなどを考えるとき、一般国民がヒントを得ることができる報道を期待したい。
第二に、科学振興につながる報道を期待したい。日本では理科系の女性研究者の数は少ないし、そもそも専門家のなかには女性が少ない日本社会において、新進気鋭の女性研究者が輩出することを期待している。スウェーデン、フランス、英国、米国ワシントン、ボストンなどで国際会議に出て報告をするとき、歴史学、国際政治学の分野でも、女性研究者の数が少ない。もっともっと女性研究者が能力を伸ばして活用することができる社会に日本社会が発展してほしいと思っている。そのような女性研究者予備軍の意欲を削ぐような報道は好ましくないと思う。
第三に、STAP細胞を作ったとの説明があっても、その過程は不明であり、ノートは数冊しかないことに対して専門家から疑問が出ていることは本質にかかわることだと思う。そのとき、記者会見で「成功した」という言葉をけなげに一生懸命説明するところを大きく映し出したら、日本社会は科学的検証の部分は飛ばしてしまって、心情的に無条件に小保方氏の主張を支持するムードになってしまう。直後の世論調査でもその傾向が見られた。説明する姿が真摯であるということ、実験の過程を科学的に検証しているかどうかは別の次元のことだ。日本の科学水準に対する外国の評価を下げることにならないような報道を期待したい。例えば、4月9日の小保方さんの記者会見では2名の弁護士がついて説明をした。科学者、共同研究者である上司が200回の成功の過程を説明し、実験ノートをもとに解説をする場ではなかっただろうか。共同で実験をしてきた研究者が横に座って記者会見をして、「捏造」という言葉の意味を説明する必要があるとき、弁護士が横で助言をするということを期待した視聴者が多かったはずだが、そのことを指摘していたテレビ報道には出会わなかった。
第四に、確かに一般の人にとっては理解しにくい、また興味を持ちづらい専門的な事象であった。テレビで報道する側がいろいろな工夫をしてパネルを準備して報道体制をとっていたのが伝わってきた。このようなとき、やはりその分野の専門家が的確な言葉で簡潔に、本質を語ることで、理解が深まる。また、その報道が可能になるのは、科学に強く専門知識を持った記者を常時、揃えることで可能になるのだろう。欧米のテレビ放送の『ナショナルジオグラフィック』『ディスカバリーチャンネル』『ヒストリーHD』で放送する1時間ものの番組をよく見るが、難しい専門的分野の問題でも一般視聴者の「なぜ」という疑問に答える内容が多いと思う。
 
 
▲ページトップへ

3. どちらでもない

クロサカタツヤ
株式会社 企 代表取締役/ 総務省情報通信政策研究所コンサルティングフェロー
Q2. 「3 - どちらでもない」の回答理由
視聴者もメディアも、結局「何が知りたいのか」が分からないまま、一緒になって混乱してしまった
STAP細胞の騒動で私たちは何を知りたかったのか。

報道に対して評価を下すには、「視聴者が知りたかったこと」との比較が必要ですが、よくよく考えてみると、分からなくなってきました。少なくとも私自身は、STAP細胞の騒動で、何を知りたかったか、よく分からないままでした。

STAP細胞の存在の有無であれば、専門家が判断した結果を、報道によって知ればいいだけのこと。小保方さんがペテン師なのかは、時間をかけて検証しなければいけません。理研の体質や国の科学技術政策については、より大きな問題である以上、本件だけで論じるのは不適切でしょう。

結局、私たち視聴者自身が、何を知りたかったのか分からなかったからこそ、ここまで騒動が大きくなってしまったように思えます。そして報道する側も、その「よく分からない」状態のまま、分かりやすく説明しようとした結果、かえって事態を混乱させてしまったのではないでしょうか。

特に今回は、小保方さんの会見を経てもなお、「オチがない」という状態に陥ってしまいました。いわゆる劇場型犯罪であれば、必ずクライマックスが訪れるわけですが、今回はむしろ混乱が深まっているように感じられます。

そう考えると、視聴者を導くことができないまま、視聴者と一緒になって混乱を拡大させてしまったことが、今回の報道の問題だったのかもしれません。
Q3. 回答する
映像メディアによるコミュニケーションには大きな可能性があると思います。しかし、たとえば地上波のように、番組ごとで時間や枠の取り合いをしている世界では、専門的な事象を扱うことには逆に限界があるとも思います。

テレビは多チャンネル時代を迎えていますし、生活者からすればメディアは多様化しているのが現実なのですから、詳細な内容はBSやCS、あるいはインターネットで提供し、地上波で伝えるべき内容はそのサマリーと(詳細情報の所在を示した)インデックス程度にする、という役割分担が望ましいのではないでしょうか。
 
 
宋美玄
産婦人科医
Q2. 「3 - どちらでもない」の回答理由
マスコミと言うより理研や小保方さんの対応の仕方によって、どんどん科学の本質とちがったところが注目されていったのが残念だと思う。
 科学の世界には男も女も研究者の属性も関係なく、客観的証拠があるかどうかだけであるのに、
小保方さんの「リケジョ・アイドル売り」には初めから違和感を感じていた。報道のされ方も下顎の本質と異なるものばかりであった。しかし、それは理研のプロデュースの仕方に問題があり、テレビそのものの問題とは言えないと思う。

 小保方さんの初めのプロデュースされ方や、先週の彼女の会見は、いずれも彼女が女性であるという属性とその特徴をことさらに強調するもので、マスコミと言うより理研や小保方さんの対応の仕方によって、どんどん科学の本質とちがったところが注目されていったのが残念だと思う。
科学に関わるものと、そうでないものの間で小保方さんへの評価が全く違うが、それも多様性の一環として片づけられているのはおかしいと思う。
しかし、視聴者の多くは科学の本質ではなく、タレントの不祥事のような下世話な目線で今回の事件をとらえているため、あのような報道内容になってしまうのはマスメディアだけの責任とは言えないと思う。
Q3. 回答する
一般の人が理解しにくいテーマを伝える時に、一般の人に分かりやすいストーリー(佐村河内氏のときに懲りているはずである)を作ったり、表面的な事(今回で言えば割烹着など)を取り上げたりせず、テーマを理解でき、その業界の仕組みがわかるように伝えるために腐心すべきだと思う。
 
 
岸本裕紀子
エッセイスト,政治コラムニスト
Q2. 「3 - どちらでもない」の回答理由
STAP細胞についての報道、特にテレビ報道については、基本的には視聴者の興味に沿った報道がなされたと思っています。取り立てて小保方氏個人のバッシングに走ることもせず、小保方氏の論文の問題点についても整理し、理研の責任や予算獲得のためのPR体質などにも触れたものだったからです。

ただ、小保方氏の記者会見の後、テレビ番組に科学者が登場して会見は科学的根拠が提示されていなかった、とコメントしたとき感じたのは、記者会見のやり方とその報道の仕方についてでした。
会見場には科学専門の記者もいたとは思いますが、STAP細胞のような重要な会見の場合は、科学者と中継をつなぐなどの工夫はできないものでしょうか。2時間以上時間をとって、後から疑問点が出てくるくらいなら、その場ですべての疑問点を明らかにする体制を記者会見の場で整えることが必要な気がします。
Q3. 回答する
日本は、専門的事象が絡むテレビの報道番組について、科学的な分析などをうまく取り入れた国だと思います。
例えば、航空機事故の原因や化学物質の空気汚染問題、世紀の科学的発見などについては、すぐに専門家が登場して詳しく分析を加えますし、私たちもにわか知識を得ることができます。他の国の事情はわかりませんが、「こんなことまで知らなくてもいいんじゃないの」というような専門的な解説もあったりします。
ただ、それはその場限りというか、後追い取材となると急に貧弱になるようにも感じます。
また、原発事故の放射線問題などについては、とても重要なことなのに、多方面に影響が大きいためか、あえて報道しない選択をしているのでは、と思うこともあります。
 
 
石川和男
社会保障経済研究所代表
Q2. 「3 - どちらでもない」の回答理由
大手報道機関は、この技術に関する実用性があるのかどうか、実用性があるとなった場合に救済される人々は誰か、創出される市場はどのようなものか等々、将来を見据えた前向きな話をもっとすべき。
(問3にて回答)
Q3. 回答する
“STAP細胞事件”に関する一連の報道については、小保方氏ら関係者の人格に焦点が当てられ過ぎた嫌いがある。
大手報道機関は、この技術に関する実用性があるのかどうか、実用性があるとなった場合に救済される人々は誰か、創出される市場はどのようなものか等々、将来を見据えた前向きな話をもっとすべき。
それにより、今回の騒動で傷ついた『STAP細胞研究』を他の研究者たちが引き継いでいける環境作りをしていく必要があると考える。
下世話な話は、一瞬面白く映るかもしれないが、STAP細胞の存否や効能とは何の関係もない。
 
 
▲ページトップへ

サイトを見た方からの回答

コメントを投稿する
※ご入力いただいた情報の取り扱いについては、『利用目的』をご覧下さい。
 また、メッセージを送信される前には『フジテレビホームページをご利用される方へ』を必ずお読み下さい。
※送信内容に個人情報は記載しないようお願いします。
※投稿する際は、件名を編集しないでください。
コメントはありません