Interview #006
救命救急部部長・田所良昭役 児玉 清さん
 

Q.今回の現場はいかがですか? 若いキャスト、スタッフが多い現場ですが…。

僕は、あまりみなさんと繁くは密着していないんですけど、とてもいい雰囲気だと思います。だから、僕も仲間に入りたいんだけど(笑)。ようやくなじめてきた感じですね。

Q.田所部長役を演じる上で、特に重視している点というと?

医者っていう役…特にフライトドクターという題材に携わってみて感じたのは、本当に大変な仕事だということですね。日々、決断を迫られるわけでしょ。しかも、フライトドクターは、十分な設備もない状態で決断をしていかなければならない。極端な言い方をすると、現場に行った医者の力量にすべてがかかってしまう、みたいな感じですよね。そういう決断っていうものに誤りがなければいいんだけど、人間はコンピュータではないんだから間違いがないとは言い切れない。その辺りを田所というのは、かなりケアしてきた人間なんじゃないかと思うんです。決断の重さみたいなものは凄く感じますね。例えば、どこかを切断しなければならない、となったときに、命を助けるためには切断しなければならないんでしょうけど、切断することによってどういう事態が生じるのか等々、医者の判断だけでは及びもつかないようなことも出てくるんじゃないかと思うんです。それから、これはいずれそういう問題も出てくるんだと思いますけど、フェローたちのことですね。あの若い医師たちは、現場で鍛えられる。でもそこは、ある意味、二律背反的な部分でもあるわけです。熟練した医者が求められるんだけども、熟練した医者だけですべてに対応することはできない。だから若い医者を育てなければいけないんだけど、育てるためには現場を経験させるしかないわけで…。部長の立場としては、去年はひとりもヘリに乗らなかったけど、ことしは3人が乗って、まだひとり乗っていないけど、何とかそこから…という思いもある。病院っていうのはいま医療過誤の問題がいろいろあって、ドラマの中でも三井先生(りょう)の話が進行しているけど、医者の立場から考えてみると、悪かろうと思ってやったことはないわけですよね。それは、今回自分がこの仕事をしてみてよくわかりました。しかし、患者側から見れば、全然立場が違う。三井先生も、母体を救うべきか生まれてくる子ども救うべきか、という中で、両方を救いたいと思ったわけですよね。ところが、結果においてはふたりとも亡くなってしまった。こういうことには、慄然としますね。僕は、昔は病院長とかやったこともあるけど、あまり医療ものの仕事をしたことがないから、余計にそう感じました。

Q.田所部長は、フェローたちを育てたいと強く思っていても、万が一、そのフェローたちが現場でミスをすれば責任を問われる立場でもありますよね。

そう。しかしそこは、敢えて踏み込まなければならない、火中の栗なんです。拾わなければならない。黒田先生(柳葉敏郎)にしてみれば、田所よりももっと現実を考えているのかもしれない。だから、使えないものは使えない、と言う。その見極めが大事になるわけですけど…。医者っていうのは大変な職業だよね。全人格が問われるんだから。人間を見極めなきゃいけない、っていうのも凄いことだな、って思いますよ。

Q.ドクターヘリというシステムは“攻めの医療”といわれますが、そこにも当然リスクはあるわけで…。

ですから、本当にこの番組につき合わせていただいて、決断する、ということの重さを感じるようになりました。僕なんか優柔不断な人間だから(笑)。買い物に行って、あれを買おうかこれを買おうか、っていう決断とは違いますよね。人の命がかかっていることだから…。ベストを尽くそうとするのは当然のことだけど、刻一刻と変化する状況の中で、ベター、ベターでいかなければならないことだってきっとあるでしょう。

Q.医療ドラマに携わると、現代の医療にまつわるさまざまな問題を考えさせられます。

いろいろな側面がありますからね。そういう意味では、今回のドラマはそれをとても上手く拾い出していますよね。外傷だけではなく、心の問題も描いていますし。僕が言うまでもなく、現代社会っていうのは…何かあるとすぐ人を刺しちゃうような人もいるけど…人のせいにする人が多くなってきている。人のせいにしちゃう社会の中で、医者っていうのは本当に大変な仕事だと思うんです。よく逃げないでやっているな、って思います。

Q.このドラマは、患者のことはもちろんですけど、医者や看護師たちの内面も描かれているので、さまざまな医療問題を考えるきっかけにもなるのでは?実際に、医療従事者の方からたくさんの応援メッセージをいただいていますし…。

ドラマっていうのは、典型的なものをピックアップしているんでしょうけど、しかし、していることとか、実際に取り上げられている苦労話は、現場の人たちにすれば切実な問題でもあると思うんです。ですから、そんな風に応援してもらえる、というのは嬉しいですね。本当にいろんな問題があるんですよね。僕はいま、ラジオでテレフォン人生相談をやっていてね。僕は回答者ではなく、メディエーターみたいな立場で間に入るんだけど、いやあ、いまの社会って歪んでますよ。奥さんに逃げられた男性から、「助けてくれ」みたいな相談も多いですし…。今回の現場でも、女性たち…フェローや看護師さんたちが活躍していますけど、一般的な言い方をすると、女性のほうが男性よりも優秀なんですよ。僕の友人に、もう引退してしまったけど大学の先生がたくさんいたけど、彼らが一様に言うのは、「本当に優秀なのは女性の方。テーマを与えればちゃんとそれをやるし、自分から何かを求める向学心も持っている」っていうこと。男性はダメらしいですよ(笑)。

Q.モンスター・ペアレントならぬモンスター・ペイシェントみたいな人も非常に多いそうですしね。

さっき言った人生相談でもそうですよ。38歳になった息子の世話を母親が何でもやってしまう。その息子が奥さんに逃げられたから、息子と一緒に死のうかと思っている、と言うんです。「息子が自殺したいと言っているから私も一緒に死のうと思っている」ってね。そういう相談をされて僕らは唖然とするわけです。そういう人は、病院にだって、必ずついてくるわけでしょ。でも、理解できなくても、対処しなければならないんです。そこに全部詰まってくるわけですよね。住みやすい町の条件は、受け入れてくれる病院が近くにあるかどうか、みたいなことがあるんですね。この間、ある町に行ったら、そこは住みやすい町の上位にランクされているんだけど、それは近所に2ヵ所、大学病院があるからなんです。産婦人科医は医療過誤で訴えられてしまうケースが後を絶たないものだから志望者もいなくなっているそうですけど、そうやって社会も偏っていってしまうんですよね。外科医も、判断をいちいち問われるとなると、これもまた志望者が減っていってしまうでしょう。だからこのドラマを見た人がフライトドクターやフライトナースに憧れてくれるようになるとありがたいですよね。大変な仕事ではありますけど、これからもっともっと必要になってくると思うんです。まあ、ヘリコプター1機置くのは大変らしいですけどね。この間、ある市長に言われたんですよ。『コード・ブルー』を見てね、「どうしてうちの町にはないんだ?」っていうような意見がいろいろとくるんだそうです。「『コード・ブルー』のおかげでうちは大変な目に遭ってますよ」って言ってましたけど(笑)。ドクターヘリの導入には、お金の問題、行政の問題もありますからね。それでも、これからの時代には、ドクターヘリが果たす役割はどんどん大きくなるんじゃないかと思うんです。だから、このドラマをきっかけに、人の命を救いたい、と真剣に思っている人たちがフライトドクターを目指してくれるようになったら嬉しいですね。

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