ユニセフのヒルデ・ジョンソン事務局次長にハイチについてインタビューしましまた

避難所で被災者を励ますヒルデ・ジョンソン事務局次長
(2010年2月)
©UNICEF/NYHQ2010-0284/Simon Ingram
ハイチ大震災から半年が経過しました。国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)によると犠牲者は25万〜30万人に上ります。1976年におよそ24万4000人が犠牲となった中国・唐山地震を上回り20世紀以降で最悪の人的被害を招いた震災となるのは確実ですが、被害の全容が6ヶ月経過しても明らかにならないところに、ハイチの国としての在りようがうかがえます。
国名のハイチは、先住民族インディオの言葉で「山がちな土地」を意味する「Haϊti (アイティ)」に由来します。その名の通り、ハイチの国土のほとんどが山に覆われ、海岸沿いのわずかな平野部分に多くの人が集中しています。
さらに近年の急激な人口増で農村部でも土地不足し、森林を伐採し、山の斜面を田畑にしています。山は乱伐により禿山だらけで保水力がありません。ハリケーンによる洪水や土砂災害が毎年のように発生し、さらに国土の荒廃が進みました。
地方で収入が得られない貧困層は都市部に流入します。その多くがスラム街、河川敷などで生活していました。首都ポルトープランスには全人口の2割超の200万人集中し、爆発的に膨れ上がりました。インフラ整備、防災対策など何もないところを今回の大地震に襲われました。典型的な「貧困と被災の悪循環」です。
ハイチでは今、国際支援に関わる多くの国際機関、NGO団体などが復興活動にあたっています。その中で、「国連児童基金(UNICEF)」は子どもの保険・衛生、教育、保護の分野などを受け持っています。震災直後にハイチに入ったヒルデ・ジョンソン事務局次長が、ユニセフと日本政府との定期政策協議のため来日したのを機に現地の状況について聞いてみました。


被害の全容と被災した子どもの人数はまとまりましたか。そして、ユニセフはどこに重点を置いた支援をしたのでしょうか?
「ハイチでは、被害について統計を取る主体になるべき組織、人員が失われてしまい、作業が難航しています。地震での影響を受けた被災者は300万人に上りますが、そのうち家を失い仮設のテントなどで生活している人は首都ポルトープランスでおよそ160万人いて、そのうち半分が18歳以下の子どもといわれています。ポルトープランスの外に避難している人はおよそ6万人で、やはりその半分が子どもと見られます。亡くなった人の数は統計を取るのは困難です。それほどまでに大きな被害だったのです。ユニセフはハイチ大震災を『子どもたちの緊急事態』ととらえています。ハイチの全人口のおよそ40%が14歳以下、半分が18歳以以下で、とにかく若年層が多い国です。震災の対応も子どもたちに焦点を当てる必要があります」
「ハイチは今回の地震により初めて子どもたちが被害を受けた国ではありません。地震以前に50%の子どもしか学校に通えませんでした。国民の間で貧富の差が大きいという問題を抱えています。子どもたちを学校へ戻すという支援でなく、もともと通えなかった子どもを含め、全ての子どもが学校に通えるように支援をしなければならないと考えています」

子どもの栄養、保護の分野でもハイチは問題を抱えていたようですが?
「その通りで、地震以前に南北アメリカで子どもの栄養不良の割合が一番高い国でした。『子どもの保護』の分野を見ても、多くの子どもが国外に人身売買されていました。また、半奴隷状態に置かれている子どもも多く、裕福な家庭で召し使いのような形で使われています。両親がいるのに孤児院に預けられている子どもも大勢います。今、仮設テントで暮らしている子どもが不法に出国させられないよう警戒しなければならないのです。ユニセフはハイチが子どもにふさわしい国になるように変革を支援したいと思っています」

国際社会は過去20年間にハイチに対して50億ドル以上の援助を続けてきたはずですが?
「ハイチは3つの大きな問題を抱えている特異な国です。まず国内での紛争がようやく収まったばかりです。そして、ハリケーンや洪水など自然災害が相次いでいて、さらに、もともとガバナンスが弱い国です。ここ5年から10年の間の支援が政府の頭越しにNGOなどと組んだものだったので、ハイチ政府の機能を強化する努力が足りなかった面は否定できません。今後の支援は政府を強化する以外に道はありません。しかし、今回の地震で政府の多くの有能な人材が、建物とともに失われてしまったので、時間がかかるでしょう」

これから本格的なハリケーンの季節だが、備えはできていますか?
「もちろんハリケーンに備えていますが、被災者のテントが耐えられるかどうかが課題です。そして、ハイチ政府は一部の避難キャンプをポルトープランスの外に移動することを決断しなければならなくなるでしょう」

ポルトープランスの外に避難した市民が、支援物資が届かないからと、逆にポルトープランスに戻ってくる動きもあるようですが?
「確かにポルトープランスの外に支援物資が行き渡らないという問題は残っています。それ以外にも、ハイチには土地の登記簿がないので、一度土地から離れてしまうと他人に取られてしまうという問題も起きています」

最後に、われわれも8月1日からハイチに入り取材をするが、何かメッセージをお願いしたいのですが。
「まずFNSチャリティキャンペーンが過去36年間にわたりユニセフを支援し、37億円を超える多大な貢献をしてくれたことに感謝の意を表したいと思います。ハイチの子どもたちの実情をしっかりと伝え、今後とも世界の子どもたちのために、ユニセフとともに歩んでいただけるようお願いします」


インタビューはおよそ1時間に及びましたが、ジョンソン事務局次長は答えにくい質問にも言葉を選びながら率直に答えてくれました。これまでノルウェーの国際開発担当大臣として、さらにユニセフに転じてからも、様々な被災地で支援活動の指揮を執った経験を持ちます。
ハイチにおける被災地での支援活動に注意深く目を凝らす一方で、世界各国を駆け回り支援を訴える。そんな経験からなのでしょうか、その表情からはユニセフの支援のあり方に対する確固たる自信がうかがえました。
 
ヒルデ・フラーフィヨール・ジョンソン ヒルデ・フラーフィヨール・ジョンソン
タンザニアのアルーシャで生まれ。オスロ大学において開発人類学を専攻し、1991年に修士号を取得。
1997〜2000年及び2001〜2005年にかけて、およそ7年間にわたりノルウェーの国際開発担当大臣などを歴任したほか、アフリカ開発銀行総裁の上級アドバイザーも務めた。2007年に事務局次長としてユニセフに着任して以降、先進国と発展途上国の政府との橋渡し役として世界を駆け巡り、リーダーシップを発揮している。
 
 
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