インタビュー

#1

原作者 朝井リョウ
撮影現場を見られての感想を教えてください。
Juice=Juiceの方たちが役名で呼ばれているのを聞いて、どこかパラレルワールドに来た気分になりました。ほかにも動画やTwitterで役名のまま活動されていて。それを見ると、あの設定は大丈夫だったのか、自分が考えた世界に破たんがあったらどうしようと思い始めて不安になってきました。僕が書いたばかりに、彼女たちはこんなことをしているんだなと責任を感じて、直視できない感覚に襲われますね。
ドラマ化の話を聞いた時はどう思いましたか?

書いている時は映像化されることはまったく想定していませんでしたし、仮に映像化されることがあっても本物のアイドルが演じるとは考えていなかったんです。なので、握手会のスタイルもちょっとざわつくような設定で書いてしまっていて…。それを実際に演じている彼女たちを目の当たりにして、その責任も感じています……。

そもそも『武道館』はどのようなきっかけで書かれた作品なのでしょうか?
『武道館』は10冊目の本ということで、自分の中でもポイントになる作品になればいいなと思っていました。これまで人の目に触れた機会が多かった作品は現代的なテーマのものだったので、今回もそうしようと思っていて。今このタイミングで最も現代的なテーマとなりうるものはなんだろうと考えたら、アイドルに辿り着いたんです。
僕の中での現代的なものの定義は、ずばり“その周辺に怒ってる人が多い場所”。映画になった「桐島、部活やめるってよ」で書いたスクールカーストも、直木賞をいただいた「何者」で書いた就活もSNSも、当時はその周りにイライラしている人が多かったんです。怒りという感情はつまり、その根に「いまの社会でおかしくなってしまっていること」を抱えているんですよ。アイドルって売れていても、売れていなくても、どんな行動や発言をしても、それに対して怒る人が必ずいますよね。今、社会の怒りを背負っているのはアイドルなのかなって。その辺りのことを書いたら、現代の眠っている“何か”を抽出できるんじゃないかなと思い、かつ元々つんく♂さんが好きだったこともあって、書くことを決めました。
アイドルは昔から存在していましたが、今のアイドルが現代的なテーマだと感じたのはなぜですか?
アイドルとファンの距離感が変わったことで生じた歪みを書きたいと感じたからだと思います。昔は、それこそアイドルって別次元の存在だった。ファンからはあまりにも距離がありましたよね。そして、遠いからこそきれいに見えるものってありますよね。たとえば富士山。遠くから見るととてもキレイだけど、実際に登ってみると意外にゴミが散乱していたりする。人間も同じだと思うんですよ。今のアイドルは握手会に代表されるようにファンとの距離が近くなったけれど、そのうえで遠くから見る富士山レベルのきれいさを求められている。アイドルをアイドルたらしめる価値観が、「遠さ」から「近さ」に変わったのに、アイドルの質を判断される項目は変わっていない。そういうことって、アイドルに限らず、現代社会のあらゆるところで起きているような気がするんですよ。
出版やテレビなど、エンターテインメントの世界もそう。若い人たちの娯楽の楽しみ方は変わってきているのに、業界の体質は旧態依然だったり。
朝井さんの作品は、若い人の視点がしっかりと描かれていますよね。
僕は、感性や感覚はモスキート音みたいなものだと思っています。世代によってつかまえられるものが違ってくるんじゃないかなと。年を重ねることでいろんなことが許せるようになってくるし、あと何年か後には僕も「結局は愛だ」なんて言ってるかもしれないけど、今はいろんなことに敏感で、こんなの許せないって憤ることも多い。その感覚を大切にして、体力のあるうちに小さいことを気にして、イライラして、考えて……っていう疲れることをきちんとしていきたいなと。
普遍的な恋物語はこれから先でも書けるけど、今の僕にしか聞こえない、若者が発している音は多分あるはずで。それを書けるうちは書いていきたいなと思っているんです。5年後に読み返したら全然時代に合っていないような作品になったとしても、今とらえられるものがあるうちはとらえたいなと。そのモスキート音は僕もそろそろ聞こえなくなりそうですけど(笑)。
『武道館』はつんく♂さんの作品世界から影響を受けているのでしょうか?

子どものころからつんく♂さんの曲が大好きでした。アイドルソングってファンを脅かさないことが大切だと思われてきたような気がするんですけど、つんく♂さんが作る歌には人間の欲のようなものがしっかり歌詞に書かれていて、聴いている側がアイドルに脅かされる感覚がある。あんたたちの想像の範囲内にいてやらない、というアイドル側からの怒りのようなものさえ感じ取ることができるそのスタンスに共感したんです。
さらに、つんく♂さんが作った『恋のダンスサイト』の中の一節「そうよ、青春はカーニバル。踊る人に見てる人、同じ人なら踊ろぜワイヤイ!」は僕の座右の銘でもあります。鑑賞する側ではなく、踊る側の人=人前に立つことや作り手側になることを怖がらずにいようと。発信側にいることで批判されたり、怒りの矛先を向けられることもありますが、それもまた人の思考を動かした証なのかなと受け止めるようにしています。
今回もJuice=Juiceが好きな人にとっては展開的に怒る人が出てくるかもしれない。その反応が怖くないといえば嘘になりますが、それはそれで踊ることを選んだ人の宿命なんだと思っています。

ドラマ『武道館』では、つんく♂さんが主題歌と挿入歌を手掛けています。
僕はつんく♂さんが作る曲が本当に好きなので、まさか自分の書いた本がこのような形にまで発展するなんて驚きでした。つんく♂さんが作る曲が1曲でも増えたこと、つんく♂さんが作った曲をJuice=Juiceが歌うということ、自分がそのきっかけになれたことは本当に嬉しいです。小説を読んでいただくために長い長いお手紙を書いたくらいだったので、本当に夢みたいな出来事です。
『武道館』は“アイドルの裏側”が描かれた物語ですが、書くにあたり取材はされたのでしょうか?
実際のアイドルに取材をすると、その人の物語になってしまうし、どうしても現実に引っ張られてフィクションが負けちゃう気がしたので、アイドル本人には話を聞かないようにしました。主にヘアメイクさんやイベンターさん、レコード会社の人などアイドルの周りにいる人たちに取材をさせてもらいました。特にヘアメイクさんなど、毎日アイドルの髪や肌に物理的に触れている人の話はとても興味深く、いい話だなと思い使わせていただいたエピソードも。
あとはライブDVDの最後に付いているメイキング映像を一時停止やコマ送りで見て、壁になにが貼ってあるのか、飲み物はなにか、マイクがどうやって準備されているかなどをチェックしていきました。その作業は細かすぎて、もはや戦いでしたね(笑)。
執筆中はどのようなことを考えていましたか?
言葉だけ抽出すると社会全体に言えるようなセリフがいっぱい出てくるような話になればいいなと考えていました。舞台はアイドルの世界だけれど、実はアイドルファンに向けたものではなく、社会全体に向けて発信していることを意識して書きました。
ドラマ『武道館』は2月6日スタートです。まもなくですが、今の心境は?

緊張しちゃって、ちゃんと見られるかわからないです(笑)。
おそらく見てくださる人の中には、ドラマと現実が混合しちゃう人がいると思うんです。Juice=Juiceはアイドルとしてしっかり活躍されている方たちなので、そうすると本当に申し訳ないなと。あとは、この作品がJuice=Juiceにとってステップアップになるような、そういう作品になればいいなと願うばかりです。そして、ドラマを見た方が、少しでも気になって小説も手に取っていただけると嬉しいです。

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