あらすじ
<第7回> <第8回> <第9回>

<第7回> 「涙の夜」
 恭一(伊藤英明)はオフィスである資料を前にしてショックを受けていた。サカイ工業の最大手の得意先である電気メーカーの発注部門廃止が既に半年前から決定されていたのだ。サカイ工業再建の夢は事実上断たれた。
 タケシ(オダギリジョー)は新しい会社での仕事に懸命に取り組んでいた。秘書の美佐子(宮下今日子)が内密に松原(松重豊)と連絡していることに気付かずに・・・。タケシの携帯が鳴った。美冬(小雪)だった。「恭一と友也(坂口憲二)の事だろ?」察して聞いたタケシに、美冬はいきなり言った。「3年前の約束って何?タケシなら分かるでしょ?どうして2人があんなにモメたのか?」「ホント、おめでたいな。お前のせいだ」。大学生活最後の夏合宿。友也は美冬が好きだったが、恭一の美冬への思いの強さを知り身を引いた。「友也がどれだけお前のことを思ってきたか、少しは考えろ」。美冬はタケシに何も言い返せなかった。
 美冬は聡美(田畑智子)を自宅に訪ねた。夫の希望どおり、聡美は家庭に入っていた。
 「私も友也の気持ちに気付いてた。美冬も気付いてて、友也の優しさに甘えてたんでしょ。」「・・・・・・」。その時、聡美の夫の山瀬(田中哲司)が入ってきた。「おれ、そろそろ行くよ」冷たく言い放った。夫婦仲はしっくりいってない様子だった。
 有里(小西真奈美)にも気がかりな事があった。タケシの不在中、2人の男がタケシを訪ねてやって来たのだ。「松原という男をご存じですか?」有里は、なぜか胸騒ぎを感じた。
 恭一はサカイ工業の再建案を練り直した。見積書を手に、恭一が会社を飛び出すと、健太(山崎樹範)が立っていた。「俺は七重さんが好きだ。お前が七重さんの事をどう思っていても告白するぞ」「おう、頑張れ」。恭一はそれだけ言うと走り去った。
 恭一は発注部門の廃止を撤回してくれるよう、電気メーカーの営業部長に直談判するつもりだった。しかし、その場に一緒にいた上司の雨宮(浅野和之)に見積書を破り捨てられた。「今できる一番いい選択肢をサカイ工業に与えることも、コンサルタントの役目だ」。それは、サカイ工業の倒産を意味していた。恭一にはもう打つ手はなかった。
 恭一が夜の街をぼう然と歩いていると、美冬の携帯を使った友也から電話が入った。「来いよ。美冬、もうすぐ試験だし」。美冬の教員採用試験が迫っていたのだ。「今夜は、行けない。今は、美冬のことまで考えられない」。美冬は恭一の言葉にショックを受けた。
 「送るよ」。と言った友也に美冬は向き直った。「3年前の夏の約束、タケシから聞いちゃった。でもいくら優しくしてくれても、私、友也にはその気ないから」。美冬のほおを一筋の涙が流れた。「そっか。どっちにしろ、昔の話だよ」。友也はいつもと変わらず優しかった。
 「私そんな資格ないよ。臆病だし、嫉妬深いし、ずるいし・・・。」「美冬はずるい女じゃねえよ」「今だって、友也に抱きしめて欲しいと思ってるもん―――」。

<第8回> 「迷路」
 聡美(田畑智子)が買い物に出たきり帰って来ない。夫の山瀬(田中哲司)から連絡を受けた美冬(小雪)は早速仲間たちに知らせた。友也(坂口憲二)と健太(山崎樹範)らと手分けして、聡美を捜し始めた。
 恭一(伊藤英明)はサカイ工業の人々の期待に応えられなかった責任を感じていた。辞表を提出した恭一(伊藤英明)に上司は言った。「所詮、コネ入社だな。父親の力を借りるような男に期待した俺がバカだった」。恭一は自分の耳を疑った。父親は死んだと、物心ついた頃から母てるみ(大谷直子)から聞かされてきたからだ。
 恭一が帰宅すると、店で七重(長谷川京子)が働いていた。アルバイトで雇ってほしいと恭一が頼み込んだのだ。「少し席を外してくれるかな」。母子2人きりになると、恭一はてるみにつめ寄った。 「どうして嘘ついてたんだ?そいつはどんなヤツなんだ」。うろたえるてるみを残して恭一は店を飛び出した。2人のやりとりは外にいた七重の耳にも届いていた。
 タケシ(オダギリジョー)の新しい会社は順調に動き始めた。気にかかっていた事を松原(松重豊)に聞いた。「昨日警察の人が来ました」「誤解ですよ」。松原は一笑に付したが、タケシには釈然としない思いが残った。
 一方、有里(小西真奈美)は職場で落ち込んでいた。今度はアンテナショップのカフェのフロア主任を命じられた。つまりウェイトレス。携帯電話でタケシに伝えながら歩いていると、当のタケシが前方のビルから出てきた。駆け寄ろうとした有里の動きが止まった。松原が一緒だ。もう会っていないとタケシは言っていたのに。
 友也は聡美の自宅近くで美冬と落ちあった。「何か手がかりあった?」。美冬が首を振った途端、携帯電話が鳴った。「聡美でしょ!帰っておいで、まず私たちのとこへ」「もう、どこにも帰れない。ずっと海見てて─」。電話は切れた。「ここの駅、終点は海だぞ」。美冬はすぐ山瀬に知らせた。「迎えに来てほしいのは、あなたのはずです」「捜しに行かれるなら、あなた方だけでお願いします」。山瀬の反応は冷やかだった。
 連絡を受けた恭一は、山瀬の勤めるホテルへ向かった。「何ですか?人の職場まで」。山瀬は迷惑な表情を隠そうとしない。山瀬の口から聡美を心配する言葉は一言たりとも聞かれなかった。恭一は苛立ちと悲しみで胸がいっぱいになった。
 夕暮れ迫る堤防をとぼとぼ歩いている聡美を見つけ、友也と美冬は全力で駆け寄った。「やっと見つけたぞ、この家出娘」。聡美は友也の胸の中で激しく泣き続けた。「さ、帰ろう」。
 自宅前にはみんなが待ってくれていた。恭一も健太も有里も。「気づいたら電車に乗ってた。私って、ホント最悪だよね」。聡美は振り絞るように自分の気持ちを打ち明けた。それでも仲間に励まされて聡美に微笑みがよみがえった。
 有里がマンションに戻るとタケシは尋ねた。「聡美、大丈夫だったか?」「ごまかさないで。また、あの松原って人と組んで、なんか薄汚い仕事を─」。タケシは思わず有里のほおを叩いてしまった。有里は、別れる決意を固めて部屋を出た――。

<第9回> 「命の灯」
 恭一(伊藤英明)は父親からの連絡を一方的に切った。「勝手なもんだよ。今更会いたいなんて。」友也(坂口憲二)に感情をぶつけた。「ツラくらい拝んだっていいじゃねえか」「そんなに簡単じゃない。25年間、おふくろには俺しかいないと頑張ってきたんだ。」
 美冬(小雪)は教員採用試験が終わると、産婦人科へ行った有里(小西真奈美)のもとにかけつけた。すでに妊娠7週、一番流産しやすい時期だ。「とりあえずタケシに話してみる」「そうだね。頑張って」。美冬は励ました。
 聡美(田畑智子)も健太(山崎樹範)から励ましの電話を受けていた。聡美は明るく振るまったが、夫・山瀬(田中哲司)とのミゾは深まっていた。山瀬は聡美に家出の理由を尋ねようともしない。しかも聡美の宝物、老人ホームの送別に贈られた絵を壊してしまったのだ。
 七重(長谷川京子)とてるみが開店準備をしていると恭一が帰り、父親から電話があったことを話した。「俺は許さないから。25年分のおふくろの嘘も・・・」。
 友也のイラストを認めたという橋本法子(秋本奈緒美)が仕事の話を持ちこんだ。
 友也のマネージャー気取りのアリス(上原美佐)はなぜか面白くない様子だが、悪くない話だ。
 「1日で決めて」。法子は友也に即決を迫った。
 有里はタケシ(オダギリジョー)に妊娠を打ち明けた。「今はわからない」。タケシの答えに、予期してはいたが、有里は落胆した。実は、タケシは仕事上で気がかりなトラブルを抱えていた。取引先に納めたセキュリティ・システムが外部から侵入されたのだ。タケシは恭一の会社なら何かつかめるのではないかと期待して頼んだ。「そうか、辞めたんなら仕方ないな」。タケシは恭一の父親のことを心配した。「親子の縁ってやつは絶対に逃れられないんだよ」。父親の借金に振りまわされてきたタケシの言葉には重みがあった。
 有里は友也にも妊娠を打ち明けた。「タケシと別れる。だから産めないよ」。タケシには内緒で中絶手術を受けたい。だから同意書に友也の名前を使わせてほしい。「その頼みだけはダメだ」。友也はきっぱりと断ると、その足でタケシのオフィスに向かった。
 「有里はお前に止めてほしがってるんだよ!」「まだ無理なんだ」。タケシの表情も苦悩に満ちていた。友也は振り上げた拳のやり場を失った。
 有里に連絡が取れなくなった。イヤな予感がした友也と美冬は、有里を探した。
 「放してよ!」「タケシともっと話し合えばいいじゃない」。友也と美冬はてるみの店に、健太と聡美を呼んだ。タケシも呼んだが、仕事で来られないという。「タケシとは別れるし、子供産む気ないから」。有里は仲間たちの前できっぱりと言いきった。
 重苦しい空気を察したてるみがさりげなく口を開いた。「みんなにも恭一にも嘘ついてたの。恭一の父親、生きてるの」。てるみの恋人は大きな会社の跡取り息子だった。当時会社は経営にいきづまっていた。そんな折、資産家の娘との見合いがもちあがった。「結局私ひとりで考えて身を引いたの」。別れてから恭一を妊娠していることに気づいた。「私はひとりになってもその人のことが好きだった。その人の子供がほしかった。それになにより、ひとつの生命を消せなかった」。てるみは父親の存在を何度も恭一に打ち明けようとして、25年の時間が流れた。
 「恭一がいてくれたから、私は幸せ。こういう生き方しかできなかった。バカだよね」。
 てるみの告白が終わった。誰ひとりとして何も言えなかった。
 同じ頃、恭一はひとり、父親に会っていた――。


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