第1回 2005年7月5日(火)放送 あらすじ

漕ぎたい

 すべてが始まったのは三年前の春、松山第一高校の入学式の朝からだった。懸命に自転車をこいできた新1年生の篠村悦子(鈴木杏)が校門近くにさしかかると、小・中学と一緒だった中崎敦子(佐津川愛美)がうずくまって3人の女の子に囲まれていた。てっきりいじめられていると思い込んで、悦子が「なんで泣かしよるん」と気色ばむと、リーダーらしき菊池多恵子(岩佐真悠子)は呆れたように「コンタクト落としたやて」。一同は平謝りする悦子に構わず慌てて校門へ向かったが、悦子だけがまだ探していると「どないしたん?」と声をかけられた。その長身のイケ面の中田三郎も遅刻してきたらしい。コンタクトは三郎が見つけてくれたが、体育館では既に校長が新入生歓迎の挨拶の真っ最中。2人がこっそり列に潜り込もうとすると、一高慣例の掛け声が響きわたった。「がんばっていきまっしょい!」。初日から遅刻したが、悦子の顔は高校生活にかける希望に満ちあふれていた。
 悦子は高校ではボート部に絶対に入ると決めていた。この春休みに半日だけ自転車をこいで家出したときに見た、夕陽を浴びながら大海原を行く4人こぎのボートに感動したからだ。早速ボート部顧問の福田(相島一之)に入部したいと伝えたが、なんと男子部しか無かった。呆然となった悦子だったが立ち直りは早かった。「女子ボート部、私が作ります」。張り切って女子を勧誘し始めた悦子に対して、クラスメートの反応は冷ややか。級友の矢野利絵(相武紗季)からも「目立ちすぎなんと違う?」とチェックが入った。初日から大遅刻して、しかも男子と登校。おまけに勧誘活動とくればいやでも目立つ。利絵は親切心から「大事な時期やけんね」とアドバイスしてくれたのだが、いま悦子が関心あるのはボート部のことだけ。他人の目なんか気にしていられない。
 だから学校を飛び出すと、ボート部の艇庫のある砂浜へ自転車を走らせた。「あの、すみません」。悦子が体を太陽に焼いていた男子部員たちにおずおずと声をかけると、意外にも「よう来てくれたなぁ」と拍手で大歓迎してくれた。悦子はうれしくて「頑張りますけん」と頭を下げていた。
 キャプテンの安田恭一(北条隆博)が艇庫へ連れて行ってくれたが、着替えていた男子を見て悦子は驚いた。「ブー!」。近所の幼なじみで同じクラスになった関野浩之(錦戸亮)ではないか。将来はプロ選手目指して中学ではサッカー部で頑張っていたはずなのに。案内された部室のあまりの汚さにも呆れた。悦子は早速トレーニングを始めるつもりでいたが、先輩たちと浩之は悦子を残して海へ出て行ってしまった。仕方ないから1人でバック台で汗を流していたら、ようやく夕方になって戻ってきた。山積みのままの洗濯物の山を見て男子部員たちが首をかしげた。「必ず女子部作りますけん、それまで練習混ぜてください」。みんなは悦子をマネージャー志望と思い込んでいたのだ。
 悦子が帰宅するともう夕食の真っ最中。家族は自宅でクリーニング店をしている幸雄(大杉漣)と友子(市毛良枝)の両親と、祖母のキヌ(花原照子)。そして大学生の姉の法子(浅見れいな)が帰省していた。久しぶりに家族全員そろったのに悦子が心弾まないのは、父親の幸雄と冷戦状態が続いているから。昔から幸雄は出来のいい法子ばかりひいきしてきた。だから悦子は頑張って一高に合格してホメてもらえると期待していたのに、幸雄の口から返ってきたのは学費の苦労だった。それで嫌気がさして自転車で家出したのだ。そして落ち込んでいた悦子を励ましてくれたのがボートだった。その感動を忘れないために悦子はそのときの砂浜の砂を入れた小瓶を大切に持っていた。
 悦子は利絵から多恵子を避けている理由を打ち明けられた。2人は同じ塾に通っていたが、多恵子が入試でカンニングしているのを利絵は試験官にチクったのだ。「あの子、ほんとはできるんよ。なのにいつも投げやりで許せんかった。まさか同じ高校になるなんて」と利絵はため息をついた。クラスは違うとはいえ、いつまでも顔を合わさずにいられるものではない。
 悦子は女子ボート部のメンバーを集めることしか頭にないから、初めての数学のテストはさんざんな結果だった。「難しかったなあ」とトイレで利絵とぼやきあっていると、多恵子とばったり出くわした。身構える利絵に対して、多恵子は意外にも「あの時はチクッてくれてありがとな」とこだわりのない笑顔を向けた。ところがこれにカチンときた利絵が「この学校入る時はうまいことやったんやな」と返したものだから一瞬にして険悪なムードになった。悦子は「何すんの、したらいかん」と必死に止めようとしたが、多恵子たちは利絵を個室に閉じ込めると、頭からバケツの水を浴びせかけてしまった。
 悦子は利絵を助けられずにぼんやりと悔やんでいると、福田からボート部の先輩夫婦を紹介された。現役ボート選手の大野健(池内博之)と妻の仁美(石田ゆり子)。夫婦そろって一高のOBで、しかも仁美は女子部ボート部があった頃の最後の部員だ。悦子は大野から「乗ってみるか?」と誘われて驚いたが、気が付くとカウンターを持たされてボートの最後尾に収まっていた。
 初めて見る船上からの景色が悦子の目にはまぶしい。「それじゃ、千本こぎいきます」「オーリャ!」。悦子の役目は百ずつ数えて大声でコールを入れていくこと。ひたすらこぎ続ける部員たち。ボートはぐんぐん加速していく。波が高くボートが揺れた瞬間だった。オールに手をはじかれて、悦子は持っていたカウンターを海中に落としてしまった。「すみません」。うなだれる悦子の耳に「乗せたんが間違いじゃ」のつぶやきが聞こえた。ボートが浜辺へ引き返し出した瞬間だった。悦子はいきなり体操着のまま海中に飛び込んだ──。

キャスト

篠村悦子 … 鈴木 杏

関野浩之 … 錦戸 亮
中田三郎

矢野利絵 … 相武紗季
菊池多恵子 … 岩佐真悠子
中崎敦子 … 佐津川愛美
中浦真由美 … 藤本 静
     ●
大野仁美 … 石田ゆり子
大野 健 … 池内博之

福田正一郎 … 相島一之
篠村法子 … 浅見れいな
根本緑 … 友近
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篠村友子 … 市毛良枝
根本 満 … 小日向文世
篠村幸雄 … 大杉 漣

スタッフ

■原作
 「がんばっていきまっしょい」敷村良子(幻冬舎文庫刊)

■脚本
 金子ありさ

■プロデューサー
 重松圭一

■演出
 三宅喜重

■制作
 関西テレビ

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