<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 98年春のある朝。塵ひとつなく整頓されたマンション。神宮寺祥(中井貴一)は、いつもの時刻、いつも通りの隙のない身なりで家を出た。
 同じ頃、散らかった部屋の中、鍵が見つからずに大騒ぎしている女が一人。風間美咲(稲森いずみ)。駅に駆け込み改札をすり抜け、ホームに続く階段から転げ落ちそうになった美咲。その瞬間、規則正しい歩調で歩いていた神宮寺が咄嗟に助けた。
「ありがとうございます」と神宮寺を見つめ礼を言う美咲に、冷たい目で「君がそうやっていると私が動けない」と神宮寺。
 電車の車内でも礼を言い続ける美咲だが、神宮寺はそんな美咲を「うるさい」と言って徹底的に無視。モデルを職業とする美咲は、たまたま自分が載っていた車内広告を指差しはしゃいでみせるが、それでも神宮寺は美咲を相手にしない。すっかりすねた美咲は本を取り出して読み始めたが、慣れない内容に美咲はあっという間に居眠りをし、本を落としてしまった。その本「逆境の心理学」は神宮寺の著書だった。「私が書いた本」と神宮寺に言われ、焦る美咲。
 そんなやりとりを経て目的地へ着いた神宮寺は、颯爽と歩いた。啓聖学院大学キャンパス。神宮寺はその厳しいやり方で学生達から恐れられている優秀な心理学部の教授だった。神宮寺の同僚、人文学科教授の都築真子(大竹しのぶ)は、そんな彼に対して、「あなたが学生に求めているレベルは高すぎる。過去の呪縛から逃れるには、ちゃんと恋でもしてみれば?」と忠告するのだが、この二人、何やら深い過去があるようだ。
 かたや美咲は、映像制作会社ドリームに勤める堀慎太郎(つんく)の元を訪れ、今日会った神宮寺のことについて話していた。神宮寺と同じ啓聖学院で芸術学部の非常勤講師をする慎太郎は、神宮寺は評判が悪いと言う…。
 その神宮寺の著書を大切に持っているもう一人の女性がいた。
台湾から日本に来ている神田蘭蘭(ビビアン・スー)である。
 それから1カ月後。美咲が撮影で使うはずだったプールで二人は偶然再会。美咲のことをなかなか思い出せない神宮寺に、あれから「逆境の心理学」をほんの少しは読んだのだと叫ぶ美咲。ところが神宮寺は「あの本は捨ててくれて結構」とにべもない。怒った美咲は、クリスマスイブにこのプールで同じ時間に再会し、本の感想を述べてあげると啖呵を切るのだった。その時、ふと左胸を押さえた美咲の手の指先には血が…。
 数週間後、乳癌の宣告をされ愕然とする美咲。
 手術当日。ストレッチャーで運ばれる美咲の胸には「逆境の心理学」がしっかりと抱かれていた。
 その頃、神宮寺は美咲と会ったプールで泳ぎながら、イブに感想を言うと叫んでいた美咲のことをふと思い出していた…。

<第2回>
 「水着姿の君は美しかった」という神宮寺(中井貴一)の言葉にショックを受けた美咲(稲森いずみ)は、家にある洋服やバッグをすべて売り払ってしまった。そんな美咲を心配げに見守る慎太郎(つんく)。だが美咲は、学生としてやる気があるところを見せたいのだと前向きな表情で語るのだった。
 数日後、神宮寺の教授室を訪れた慎太郎は、美咲の事情も知らないのに講議に出るななどと言わないでくれと訴える。「いろいろあるんすから、あいつ」と言って部屋を出て行く慎太郎の背中をじっと見送る神宮寺…。
 その頃美咲は、刑務所の前で、出所した弟・丈二(吉沢悠)に金が必要だと嘯かれていた。ため息をつく美咲…。
 丈二を見送った帰り、美咲は病院へ立ち寄った際、医師から乳房再建手術の話をされるが、今は学生生活に専念したいとその話を断るのだった。
 その晩、アパートで必死に「逆境の心理学」の自主レポートを書く美咲。
 それから数日。神宮寺の通うスポーツクラブへ出向いた美咲。水着を着れない美咲の目に、ふくよかな胸元の女達が突き刺さったその時、神宮寺は現れた。驚き、迷惑そうな顔を浮かべる神宮寺。だがそんな態度にめげずに、美咲はバッグからレポートを取り出し、神宮寺の前に置いた。文章は下手だけど、必死に書いたから、今後も講議に出させてくれと訴える美咲に、好きにすればいいと投げやりに答える神宮寺。出席許可が下りたことに喜ぶ美咲だったが、神宮寺はレポートは受け取らないし読む気もないと言う。
 …2人がそんなやり取りをしていたその時、大きく胸のあいたTシャツ姿の蘭蘭(ビビアン・スー)が現れた。咄嗟に神宮寺の彼女だと思い込み、その場を去ろうとした美咲。が、次の瞬間、慌てた美咲はプールに足を滑らせてしまう。美咲を助けようとすぐにプールに飛び込む神宮寺。そんな神宮寺に、美咲は乳房がないことが知れるのを恐れ、悲しい眼差しで「こないで!」と言い放ち、プールの中を逃げまどう他ないのだった。なんとかバッグだけ抱え出口へ走る美咲。その背中越しの水面には美咲のレポートが浮かんでいて…。
その夜、美咲は一人、アパートで蘭蘭を見てしまったショックに落ち込み、一方神宮寺は、プールで見せた美咲の眼差しをふと思い出していた。
 後日、美咲は再び神宮寺の講議に出席。学生たちのブーイングの中、淡々と講議を続ける神宮寺の書いた黒板を必死にノートにとっていた。講議終了後、再度レポートを提出しようと神宮寺の教授室を訪れた美咲。するとまた間が悪いことに、そこに蘭蘭が現れた。
「祥さん、お弁当持ってきたよお!」
そんな蘭蘭を「ここに来るなと言っただろう」と冷たく突き放す神宮寺。だが蘭蘭は弁当と一緒に持っていた封筒を差し出し、屈託なくこう切り返した。
「この中、祥さんへの愛、いっぱいつまってる。なんで私に返すの?」
 完全に蘭蘭を神宮寺の恋人だと思い込む美咲。しかし、美咲は蘭蘭から衝撃の言葉を聞いた・・。

<第3回>
 生活費と学費のために、近所の中華料理店「東洋軒」で出前のバイトを始めた美咲(稲森いずみ)。  さっそく働き始めた晩、三角巾姿でおかもちを持って走る美咲を偶然見かけた神宮寺(中井貴一)は、その様子を遠目で意外そうに眺めるのだった。
 翌日、大学で蘭蘭(ビビアン・スー)に声をかけられた美咲は、神宮寺の生い立ちについて知らされる。幼い神宮寺を捨てた父は台湾で蘭蘭の母と再婚、そのため神宮寺は蘭蘭の母や実父のことを恨んでいるというのだが、その父も今は亡き人なのだと言う。そして、その父は死ぬまで神宮寺を愛していたのだとも。
 美咲に向かい、形見の写真を神宮寺に渡して欲しいと頼む蘭蘭。戸惑い、それを断る美咲。本心では神宮寺を想いながらも、自分を無視する神宮寺とは関わるまいとする美咲なりの意志だった。
 アパートに戻ると、部屋の前に丈二(吉沢悠)の姿が。またも金をせびる丈二に、ため息をつきながらも仕方なく金を渡す美咲…。
 その翌日、「ムシムシ大作戦」と称して神宮寺を無視すること決め、登校した美咲。するとなんと、キャンパスで女の子に声をかけている丈二の姿が美咲の目に入った。
 神宮寺を一目見たいと思って来たという丈二を、顔を強張らせ追い返す美咲。
 だが悪い予感は的中。講議終了後、生協の前で怒鳴り散らしている丈二を美咲は目撃してしまったのだ。警備員いわく、売り上げ金が盗まれたのだという。のっけから疑われている丈二。その時、美咲の視界に神宮寺の姿が入った。身内の恥を知られたくない一心で丈二を傍観しようと努める美咲。だがついにたまらず美咲は丈二の頬を殴った。その一部始終を遠巻きに見ていた同級生達はまるでヤクザだ、そしてその姉が元モデルの美咲だということで大騒ぎ。
 だが警備員の口ぶりから、どうやら丈二が犯人でないことが判明。それでも強引に警察へ通報するという警備員に神宮寺が口を挟んだ。丈二の言い分も聞いてみた方がいいのではと。そうして言われのない疑いを晴らし、なんとか事なきを得た丈二。
 一方、美咲の複雑な家庭環境を目の当たりにした神宮寺は、自分の幼少時代の記憶に重ね、思いを馳せていた。
そんな思いに耽る神宮寺の教授室に美咲は現れた。神宮寺に礼を言う美咲。すると神宮寺は、大人になりきれずもがく子供ような丈二には親、もしくは兄弟のような血のつながった肉親の殴る手が必要だと説く。丈二の幼少時代を思い、どうしたら丈二がちゃんとしたら大人になれるのだろうと思案する美咲。すると神宮寺は言った。自分でもがき続け、もがき続けて終わるのもまた人生だと。
 そう言う神宮寺の悲しい横顔を見つめ、家に帰った後も、自分の好きな神宮寺には胸の事を知らせるわけにはいかないと苦悶する美咲だった…。


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