クニミツの政
#1 恋も夢も人生も祭
新聞記者の佐和真澄(伊東美咲)は異動先の新千葉ケ崎市の支局へ向かう途中、武藤国光(押尾 学)という男と出会った。
「俺よ、政治家になる為に、この町来たんだ」。国光はある政治家の秘書になるためにこの町に来たという。「死んだ親父が唯一認めた政治家だ。いずれ日本をしょって立つ大物に違いねぇ」。一方的にまくしたてると、呆気にとられる
佐和におかまいなく、国光はさっさと車を降りていってしまった。
国光が訪れたのはその政治家、坂上竜馬(大杉 漣)の自宅。玄関にはベタベタと借金取りのビラが貼られている。
「私はもう政治家じゃないんだ」。坂上は議員選挙に落選したショックに打ちのめされていた。第一秘書の猿渡(マギー)が献身的に身の回りの世話をしていたが、大学生の娘の明日香(上原美佐)は父親に対して冷やかだった。「政治家なんてバッジがなきゃただの腰抜けよ」「あんた、娘だろ。もう一回頑張れってなんで背中押してやんねぇんだよ」「この町の現実を知らないくせに偉そうに言わないでよ」明日香は国光を地元の小学校に引っ張っていった。さほど老朽化していないのに移転で取り壊しになるという。「新しい道路を作るためよ」。その計画の裏で市の政治家と建設業者の癒着があると教えられて、国光は怒った。「町の連中はどうして反対しないんだよ」。今度は国光が明日香の腕をつかむと歩きだした。
2人が向かったのは佐和のいる支局。着いてみると支局とは名ばかりの廃屋同然のオンボロぶり。「あなたたちの役には立てないわ」。学校の移転も道路工事も市議会で正式な手続きを踏んでいた。国光がなんとかねばっていると、入口から男が入ってきた。「新しい記者のかたに、ちょっとご挨拶を」。議員の不破俊一(佐々木蔵之助)。如才ない話ぶりだったが、国光が坂上のところに出入りしていると知るとかすかに警戒めいた表情をのぞかせた。
国光は猿渡の部屋で寝泊まりすることになった。学校移転反対の相談をもちかけると、猿渡は「こういう場合は署名運動と決まっているがね」と言った。「署名運動なんか無駄だよ」廊下に立っていたのは、明日香の弟、晋作(柳楽優弥)だった。
坂上家は母親を早くに亡くしており、娘も息子も父親に対して冷やかだった。
再び小学校に出かけた国光はたまたま5年3組と表札のかかった教室に入って、呆然と立ち尽くした。マージャン、トランプ、マンガにピンポン。とにかく生徒全員が好き勝手。「お前ら教室で何やってんだ!」。怒鳴る国光を生徒たちは嘲笑っていたが、やがて一人の男子生徒、江頭が机を片づけ始めると他の生徒もそれにならった。この生徒はクラスの中で特別な存在のようだ。
「しばらくあの子たちの面倒みてもらえませんか」。国光は校長の蔦周作(勝部演之)から代理教師を依頼されてしまった。学校中のお荷物である5年3組は担任不在。他の教師は見て見ぬふり。ただ一人、5年4組担任の吉長小百合(吉岡美穂)は、内心ジレンマを感じているが、手をこまねいているのが現実だ。
「責任は私が持ちますからお願いします」蔦は頭を下げた。「きょうの社会科はこの学校の移転問題について話したい」。
国光が移転反対の署名をもちかけても、生徒は取り合わない。放課後、国光に、小百合が声をかけてきた。
「あの子たちに期待しても無駄です」。かつて国光と同じく移転に反対した教師たちがいたが、市長の息のかかった教育委員会に全員異動させられてしまったという。「あんた、指くわえて見てたのか。仲間見捨てた先生が生徒のこと、とやかく言う資格はねえ」。
国光がイライラしながら夜道を歩いていると、坂上が料亭に入る姿を目撃した。国光が座敷の様子をうかがうと、五木田市長(斉藤 暁)はじめ、不破や市会議員たちが無礼講で騒いでいる。坂上は片隅で居心地悪そうにかしこまっている。
「こんばんわ」。芸者の桃奴(横山めぐみ)が現れた。佐和も取材で来たところ、応援のバイトと間違えられ、芸者姿でひっついている。
市長と坂上の会話が聞えてきた。「君がこの会合に参加したことは抵抗勢力に知らせるつもりだ」。
国光は、我慢しきれずに料亭に飛び込んだ——。
「俺よ、政治家になる為に、この町来たんだ」。国光はある政治家の秘書になるためにこの町に来たという。「死んだ親父が唯一認めた政治家だ。いずれ日本をしょって立つ大物に違いねぇ」。一方的にまくしたてると、呆気にとられる
佐和におかまいなく、国光はさっさと車を降りていってしまった。
国光が訪れたのはその政治家、坂上竜馬(大杉 漣)の自宅。玄関にはベタベタと借金取りのビラが貼られている。
「私はもう政治家じゃないんだ」。坂上は議員選挙に落選したショックに打ちのめされていた。第一秘書の猿渡(マギー)が献身的に身の回りの世話をしていたが、大学生の娘の明日香(上原美佐)は父親に対して冷やかだった。「政治家なんてバッジがなきゃただの腰抜けよ」「あんた、娘だろ。もう一回頑張れってなんで背中押してやんねぇんだよ」「この町の現実を知らないくせに偉そうに言わないでよ」明日香は国光を地元の小学校に引っ張っていった。さほど老朽化していないのに移転で取り壊しになるという。「新しい道路を作るためよ」。その計画の裏で市の政治家と建設業者の癒着があると教えられて、国光は怒った。「町の連中はどうして反対しないんだよ」。今度は国光が明日香の腕をつかむと歩きだした。
2人が向かったのは佐和のいる支局。着いてみると支局とは名ばかりの廃屋同然のオンボロぶり。「あなたたちの役には立てないわ」。学校の移転も道路工事も市議会で正式な手続きを踏んでいた。国光がなんとかねばっていると、入口から男が入ってきた。「新しい記者のかたに、ちょっとご挨拶を」。議員の不破俊一(佐々木蔵之助)。如才ない話ぶりだったが、国光が坂上のところに出入りしていると知るとかすかに警戒めいた表情をのぞかせた。
国光は猿渡の部屋で寝泊まりすることになった。学校移転反対の相談をもちかけると、猿渡は「こういう場合は署名運動と決まっているがね」と言った。「署名運動なんか無駄だよ」廊下に立っていたのは、明日香の弟、晋作(柳楽優弥)だった。
坂上家は母親を早くに亡くしており、娘も息子も父親に対して冷やかだった。
再び小学校に出かけた国光はたまたま5年3組と表札のかかった教室に入って、呆然と立ち尽くした。マージャン、トランプ、マンガにピンポン。とにかく生徒全員が好き勝手。「お前ら教室で何やってんだ!」。怒鳴る国光を生徒たちは嘲笑っていたが、やがて一人の男子生徒、江頭が机を片づけ始めると他の生徒もそれにならった。この生徒はクラスの中で特別な存在のようだ。
「しばらくあの子たちの面倒みてもらえませんか」。国光は校長の蔦周作(勝部演之)から代理教師を依頼されてしまった。学校中のお荷物である5年3組は担任不在。他の教師は見て見ぬふり。ただ一人、5年4組担任の吉長小百合(吉岡美穂)は、内心ジレンマを感じているが、手をこまねいているのが現実だ。
「責任は私が持ちますからお願いします」蔦は頭を下げた。「きょうの社会科はこの学校の移転問題について話したい」。
国光が移転反対の署名をもちかけても、生徒は取り合わない。放課後、国光に、小百合が声をかけてきた。
「あの子たちに期待しても無駄です」。かつて国光と同じく移転に反対した教師たちがいたが、市長の息のかかった教育委員会に全員異動させられてしまったという。「あんた、指くわえて見てたのか。仲間見捨てた先生が生徒のこと、とやかく言う資格はねえ」。
国光がイライラしながら夜道を歩いていると、坂上が料亭に入る姿を目撃した。国光が座敷の様子をうかがうと、五木田市長(斉藤 暁)はじめ、不破や市会議員たちが無礼講で騒いでいる。坂上は片隅で居心地悪そうにかしこまっている。
「こんばんわ」。芸者の桃奴(横山めぐみ)が現れた。佐和も取材で来たところ、応援のバイトと間違えられ、芸者姿でひっついている。
市長と坂上の会話が聞えてきた。「君がこの会合に参加したことは抵抗勢力に知らせるつもりだ」。
国光は、我慢しきれずに料亭に飛び込んだ——。