越境

 現像液の中から浮かびあがる一枚の写真。私生活が謎に満ちた女優A。だが、彼女の服装は灰色、化粧気もなく、背景の町も無味乾燥な建物と彼女に似た服装の人ばかり……。写真を現像した青年は、彼女のいる撮影所に急ぐ。
 インタビュー嫌いで有名な彼女が、その写真を見た途端に顔色を変え、彼を控え室に通す。彼女は、その写真が、彼が最近購入したカメラの中に残っていたフィルムから現像されたものだと知ると、静かに語り始める。
 「それは私ではありません。それはもうひとつの国のもう一人の私です」
 にわかには信じられない彼に、彼女は軍事政権に支配された全体国家であるもうひとつの日本の存在を語り始める。パラレルワールドの存在、そこから逃げようとして殺された彼女の恋人、そして逃げ出した彼女自身。こちらの日本で生きるための唯一の条件。それはもう一人の自分を殺すこと。
 「あなたは人殺しだ! 彼女を殺して成り代わった、だから、あなたは急に人柄が変わったんだ」
 声を荒げる彼に、彼女は静かに続ける。人を殺して何が悪いのか、そうしなければ生きられない苦しみをこの国の人は知らないと。
 彼女の静かだが強い意志を持った話に引き込まれる彼。
 彼女の話は本当なのか? それを聞いた彼は何を思うのか? 
 そして二人を待ち受ける運命とは……。

木村佳乃
    ほか

■脚本
 中村樹基
 半澤律子
■演出
 星 護

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