あらすじ
<第10回> <第11回>

<第10回> 「怪談源氏物語」
 夏の夕方、陰陽師の蘆屋道三(竹中直人)は、娘の小夜(大村彩子)に誘われて河原に作られた能舞台で演じられる「葵上」を見ていた。突然道三は舞台に鬼の気配を感じ、やがて意識が遠くなった。
 気がつくと、道三は平安時代の京都、源氏物語の世界にタイムスリップしていた。あぜんとして京の町を歩く道三は、輿(こし)にぶつかってしまう。乗っていた貴人が気づかって道三に声をかける。六条御息所(片平なぎさ)と名乗る美しい女性だった。
 道三は、何とか江戸へ戻らなければと焦って歩いてまた人にぶつかり、懐から除霊の札がこぼれる。それを見た左大臣家の家臣・貞友(山崎銀之丞)が、「そなたは陰陽師か」と言って道三を強引に、左大臣の娘・葵上(野波麻帆)の屋敷に連れてゆく。葵上は光源氏(保坂尚輝)の正妻で、光源氏の子供を宿していた。
 このところ葵上は夜な夜な悪い夢を見てうなされ、健康が優れない。屋敷の巫女は、葵上に霊が取り付いていると言う。そこで、陰陽師の道三にお祓いを頼んだのだ。屋敷に来ていた光源氏は、「都じゅうの女のねたみが、葵上の腹の子を狙っている。ほうびは何なりととらせる」と言うが、源氏物語が好きでない道三には気にいらない言葉だ。
 六条御息所は光源氏の年上の愛人だ。美しく教養もあるが、やがて自分のもとへは来なくなると感じていた。そんなある日、宮中の廊下で、御息所と側女の茜(波乃久里子)、葵上と側女の欅(西尾まり)が鉢合わせをし、側女どうしの口論となった。“勝負”を決めたのは、「葵上様、光の君の御子をお授かりになりました」との欅の一言で、御息所が道を譲った。
 その屈辱の日以来、光源氏は御息所のところへ通わなくなった。そして、御息所の魂はその肉体から抜け出て、生霊となって葵上を苦しめるようになった。
 もとより道三には関係のない女の戦いだし、早く江戸に帰りたいのだが、葵上の屋敷には祈祷のための山伏が集められ、道三も逃げられない。夜になると、祈祷の護摩壇に鬼のシルエットが浮き上がり、それが御息所の顔になり、葵上の腹を凝視した。狙うのは腹の子だ。
 貞友は道三に御息所の屋敷に行ってお祓いをするように指示した。そして、「うまく行かないときには」と言って短刀を持たせる。「これは物語の話」と道三が言っても、「物語に必要だから呼ばれたのだ。逃げれば無事では済むまい」と言う。観念するしかない。御息所の屋敷に行った道三は、側女の茜にお祓いを頼まれる。こちらでも、御息所の状態が思わしくなく困っていたのだ。だが、道三が眠った隙に生霊が抜け出て葵上の屋敷に行ってしまう。あわてた道三が葵上の屋敷に取って返す。
 生霊は「光の君は必ずわらわの元へお戻りになる」と言って葵上の腹を狙う。子供さえ生まなければ、という悲しい女心である。その時、まばゆい光が輝き、その中から幼い子供の姿が現れた。後に夕霧となる光源氏と葵上の子である。
 御息所の生霊は夕霧の首を締めようとする。すると夕霧は、「母を助けてくれれば、わらわは生まれなくてもよい」と言う。生霊の手が震えた。「そなたは・・・生きなければ」と言って、生霊と夕霧は光の中に消えた。
 目を覚ますと、道三は江戸の能舞台の前にいた。

<第11回> 「牡丹灯籠」
 戦国時代も終るころ。牡丹が咲き誇る武家屋敷で、出陣を前にした武士(北村一輝)と奉公人の娘(瀬戸朝香)がたがいに見つめあっていた。「もしも生きて帰れたら一緒になろう」という武士。うなずく娘。武士は一輪の白い牡丹を持って戦の場に向かう。娘はその花に、「春の雪」と名づけた。武士は帰ってこなかった。
 時は移り、文化文政時代の秋も遅く。貧しい見習い菓子職人の新三郎(北村一輝)は、医師の志丈(佐野史郎)から頼まれて、お露という呉服問屋の娘(瀬戸朝香)の話し相手になる。お露は生まれつき体が弱い。妾腹の子なため、お米(木村多江)という女中と小さな屋敷で暮らしているが、家からほとんど出ない生活だ。
 初対面の時から、お露と新三郎はどこかひかれ合うものを感じた。新三郎はお露のために独力で白い牡丹を型どった菓子を作った。お露は菓子を、「春の雪」と名づけた。
 お露が元気になった。新三郎に会うという生きる目的が出来たためだ。年が明けて新三郎と志丈がお露の家に行くと、お露は、「春になったら本物の牡丹を見に行きたい」と言った。そこにお露の父親の平左衛門(中丸新将)が来る。お露が元気になったことで新三郎に礼を言う平左衛門。だが江戸一番の呉服問屋の跡取り息子が、お露を嫁に欲しがっているとも言った。「願ってもない良縁」と喜ぶ平左衛門に、お露と新三郎は声もない。
 春になった。新三郎はお露の面影を振り払うように新しい店で働いた。腕のいい菓子職人になっていた。夜、長屋に帰った新三郎のところに、お露とお米が訪ねてきた。お米の手には白い牡丹が描かれた灯籠が持たれている。驚いた新三郎にお露は、縁談は断ったと言う。お米は先に帰り、お露と新三郎は固く抱き合う。夜明け前にお米が迎えに来た。連夜のように新三郎は訪ねてくるお露を抱いた。
 新三郎が志丈を訪ね、「所帯を持ちたいので力を貸してほしい」と言った。相手がお露と聞いて志丈の表情が凍った。お露は半月前に死んでいた。新三郎と別れ、生きる希望を失ったためだ。お米も看病疲れと自責の念で後を追った。志丈の話を聞く新三郎の顔は、目が落ち窪み、頬はこけていた。それでも新三郎はお露の死を信じない。
 志丈は陰陽師の蘆屋道三(竹中直人)に相談する。志丈と道三は夜、新三郎の長屋へ行き中の様子をうかがう。志丈には、新三郎が一人でブツブツ言っているようにしか見えない。道三にはお露の声が聞こえる。稲妻が光るなかで道三は、新三郎が、ほとんど骨と皮になったお露を抱いて、恍惚となっているのを見た。
 翌日、志丈は新三郎をお露の墓に案内する。道三もいて、相手は生きた人間ではなく、このままではやがて取り殺されると話した。新三郎の家を厳重に戸締りし、護符を貼り付ける。道三は紐で畳の上に結界を張り、絶対に中から出ないこと、お露から話しかけられても、答えてはいけないと新三郎に念を押す。
 やがてお露が来る。護符のために中に入れないが、外から言葉を尽くして新三郎をかき口説く。志丈は、「お露さんとはこの世では結ばれない」と言う。その言葉を聞いて、新三郎の脳裏に、戦国時代の思い出がよみがえる。そしてお露にも。
 たまらずに新三郎は戸を明けて外へ飛び出し、お露を抱きしめる。道三の目にはお露はすでに骸骨だが、新三郎には美しい。お露は、新三郎に、「あなたは生きて下さい」と言って姿を消す。すでに骨が崩れ、砂のようになっていた。


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