FNSドキュメンタリー大賞
若者の日本酒離れ、価格破壊、外国産米を使った日本酒の登場…
秋田の小さな蔵元の新たな取り組みを通して、「日本酒」を取り巻く様々な問題を検証

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『米と酒 〜夏田冬蔵の世界〜』 (制作 秋田テレビ)

<11月10日(水)深夜26時25分放送>
「米どころ秋田の純米酒はうまいです!ぜひ飲んでください!!」(根田昌治P)

 若い世代を中心にした“日本酒離れ”の影響で、酒造業界を取り巻く環境は年々厳しさを増している。酒類の世界でも「健康志向」「清涼感・ソフト化志向」「ファッション志向」が進み、好んで飲まれるのはワインやビール、カンチュウハイなどのリキュール類が多くなり、アルコール度が15%ある清酒の消費量は減少傾向が止まらない。
 それはそのまま生産量の減少につながり、中小のメーカーが多い地方の酒造業界をじわりと苦しめる。それ以外にも、安い外国産米を使った日本酒の登場、価格競争による値崩れ等など、問題は枚挙にいとまがない。
 11月10日(水)深夜26:25〜27:20放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『米と酒 〜夏田冬蔵の世界〜』(制作 秋田テレビ)は、秋田の小さな酒造メーカーの一年を通して、酒造業界の置かれたそんな状況を考えると同時に、米どころ・秋田の酒のうまさを全国に知ってもらおうという作品だ。
 “酒豪”で知られる秋田テレビの根田昌治プロデューサーは「最近はアルコールや糖類を添加した酒ばかりが出回り、本物の米から造ったおいしい秋田の純米酒がなかなか広まらないのは何故か、というころから始まった番組です。まあ私自身が酒呑みで、小さな蔵ほど酒がうまいんだということを伝えたいという思いもありましたけれど…」と語る。

 秋田県南部の穀倉地帯にある平鹿町(ひらかまち)。古い街並みの一角に大正6年創業の造り酒屋「浅舞酒造(あさまいしゅぞう)」がある。この酒蔵の杜氏(とうじ)・森谷康市(もりや・こういち)さんと社長の柿崎秀衛(かきざき・ひでもり)さんはともに41歳、同じ中学・高校に学んだ同級生だ。地元篤農家の長男で、酒米も栽培している森谷さんは、17年前に柿崎さんに誘われ蔵で働きだした。農閑期の冬仕事として酒造りを始めた森谷さんは、やがてそのおもしろさに夢中になり、9年前には蔵人たちのリーダーの杜氏という立場になった。
 設備投資をする余裕がなかったと語る柿崎さんの蔵で、森谷さんたちは昔ながらの道具を使って酒の仕込みを行う。11月から2月にかけての厳寒期が仕込みのシーズンだ。この蔵の酒の特徴は、酒米の王者と言われる「山田錦」を使わず、地元産米で蔵の近くの湧水を使って造りあげる“手造りの酒”であることだ。
 「山田錦」は粒が大きく、精米して削り取る割合を高くしても残る部分が大きいので「酒造好適米」として重宝されている。主産地は兵庫県で、全国のおよそ85%を生産しており、北海道から九州まで、多くの酒蔵の大吟醸酒はこの米を使って作られる。
「気候的に、秋田県では『山田錦』の栽培は出来ません。森谷さんたちは農家の人たちと『酒米研究会』を発足させ、『山田錦』に負けない酒米を作るところから始めようと意気込んでいます」。実際に取材に当たった秋田テレビの石川淳ディレクタはこう語る。
 今、農業は新食糧法、関税化問題で揺れ続けている。特に稲作は大きな転換期を迎えていることは、農業に関わる人間なら誰でもが痛感している。それにつれ、米を原料とする日本酒の世界で展開される競争も激しくなる一方だが、県内の酒造業界は、灘や伏見など県外大手メーカーの攻勢に防戦一方を強いられているのが実状だ。 またメーカーだけでなく、小売店もディスカウントショップの低価格戦略、さらには酒販売の自由化が控え淘汰されようとしている。
「今回の番組を通して『造ればいい、売ればいい』という県内の業界体質では、2003年の販売完全自由化に生き残れないことを痛感しました。同時に、酒全体の中で日本酒が置き去りにされている実態も見せつけられた思いがします」(根田P)
日本酒をもっと多くの人に飲んでもらうにはどうしたらいいのか?地域、消費者の信頼を得るために今、何をしなければならないのか?森谷杜氏や柿崎社長は試行錯誤を繰り返しているが、もちろん成果もあった。この間5年連続で全国清酒鑑評会で金賞を受賞する快挙も成し遂げたのだ。

 番組では、夏は田んぼで、冬は蔵で働きながら酒造りに励む、つまり「夏田冬蔵」の世界に生きる森谷杜氏を中心に、柿崎社長や酒米研究会の一年間を追った。「酒の流通に始まり米をめぐる情勢も含め、この業界が抱える問題は数多くあります。それらについても淡々と描きました。それにしても、蔵通いをして一体何升の酒を呑んだでしょうね?実は医師からストップがかかり、今では一日ニ合の晩酌でがまんしています。とにかく本物の米から造られた純米酒はうまい!ということ、そして、そのうまい酒は蔵人の和が造るということがこの作品のみどころです」(根田P)
全国のお酒大好き人間には必見の番組だ!!


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『米と酒 〜夏田冬蔵の世界〜』
<放送日時> 1999年11月10日(水)深夜26時25分放送
<スタッフ> プロデューサー・構成 : 根田昌治
ディレクター・編集 : 石川 淳
撮  影 : 能登谷 隆(AKS)、吉田行男、清水 聡、石川 淳
ナレーション : 菅原博文
<制 作> 秋田テレビ

1999年10月25日発行「パブペパNo.99-356」 フジテレビ広報部