FNSドキュメンタリー大賞
生まれつき目の見えない子供たちは、どう生活し、そして自分の障害をどう受け止めようとしているのだろうか?
全盲の一人の少女が直面した障害児教育の課題を通して、教育の本当のあり方を探るとともに、家族の絆や大切さを考える渾身のドキュメンタリー!!

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『イーちゃんの白い杖 〜100年目の「盲学校」〜』 (制作 テレビ静岡)

<11月3日(水)深夜26時25分放送>
「目の見えない世界をどう伝えたらいいのか…この番組を取材して、伝えるということの難しさを改めて感じました」(橋本真理子ディレクター)

 「もし、自分が障害者だったら…」。あなたはそんなことを考えたことがあるだろうか?例えばもし目が見えなかったら、どんな生活をしているんだろう?どんな悩みを抱え、どう生きているのだろうか?障害を持っていない健常者にとっては正直な話、想像もつかない世界だが、実際、彼らは自らの障害を何らかの形でしっかりと受け止め、懸命に生きているのだ。
 11月3日(水)深夜26:25〜27:20放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『イーちゃんの白い杖 〜100年目の「盲学校」〜』(制作 テレビ静岡)は、盲学校に通う一人の全盲の少女の日々に密着。彼女が自分の障害をどのように受け止めようとしているのかを描きながら、彼女が直面している障害児教育の問題点と本来あるべき姿を探る。

 「ある一人の少女との出会いからすべてが始まりました」と番組を取材したテレビ静岡の橋本真理子ディレクターは語る。

 取材班が出会ったのは静岡県立静岡盲学校に通う小学二年生の小長谷唯織(こながや・いおり)ちゃん(8)、通称イーちゃんだ。唯織ちゃんは先天性両網膜色素変性症という病気で生まれつき目が見えないが、大人顔負けのおしゃべりとチャレンジ精神で、周りの人たちに勇気と笑顔をもたらしてくれる元気いっぱいの女の子だ。
 唯織ちゃんは今、静岡県焼津市の自宅から静岡市の盲学校まで電車とバスを乗り継いで通っている。片道50分の道のりだが、目の見えない少女にとっては決して楽な通学ではない。今は母親に付き添ってもらっているが、いつの日か一人で通えるようになりたいと唯織ちゃんは考えている。理由はもちろん自らの障害をしっかりと受け止めて、一日も早く自立したいと考えてのことだが、それだけではない。実は、彼女の二つ下の弟の息吹(いぶき)くん(6)が、全盲で、かつ肢体不自由という重複の障害を持って生まれたからだ。看護婦として病院に勤める母親の和美さんが夜勤明けだろうが、毎朝早く起きて唯織りちゃんと息吹くんの二人の送り迎えに奔走する姿を肌で感じて、「早く一人で歩けるようになって弟の息吹の送り迎えをして母親を楽にさせてあげたい!」と唯織ちゃんは考えているのだ。

 小長谷家は唯織、息吹の二人の姉弟に加え、近くのプラスチック工場に勤める父親の卓也さん、母親の和美さん、それにおじいちゃん、おばあちゃんの総勢6人家族だが、子供が二人とも障害を持って生まれたことに対する悲壮感は一切ない。
「下の子が生まれたら(障害が)もっと重度だったので、唯織の目の見えないのなんてへっ!って感じで…。(唯織は)お姉ちゃんなんだから、あなたは大丈夫よって感じ!」とあっけらかんと語る母親の和美さんを筆頭に家族全員が明るいのだ。
 そんな家庭で育った唯織ちゃんが今関心を持っているのが、ピアノだ。ちょっとしたことで、家族とケンカをしてしまった夜、唯織ちゃんは、一人でピアノのある二階へ…。真っ暗な部屋の中で、弾き語りを始めた。即興で作った物語だ。「一人の少女がきれいなお花畑を見つけた…」。目の見えない少女にとって、きれいなお花畑とは…?「きらきら光っているの。こうやって…」と答えながら彼女はピアノで優しい音を奏でた。彼女には我々が見えない世界が見えているのかも知れない。
 盲学校でも、こうした音・感触・味・匂いといった人間が持つ感覚をフルに生かす授業を展開している。理科の授業でカブトムシの幼虫の観察をしたり、頭の中で地図を描き、わからなくなったら人に聞くといった養護訓練などなど。
 また算数の授業では、二年生が学ぶ「ものの長さを計ろう!」という授業が行われていた。物差しを使って身の回りの物を計っていると、突然唯織ちゃんが「天井ってどこ?」と切り出す。担任の海野昌代(うんの・まさよ)先生は、その言葉を聞いて天井を触らせてあげようと試みる。ロッカーの上に机を乗せ、ここまでは何センチ、その上にまた椅子を乗せて何センチと確認しながら唯織ちゃんはどんどん登っていく。そして手を伸ばした瞬間、とうとう天井に手が届いた。「やったー!天井だ!」と叫び、自分自身の身長と手の長さを足して天井までの高さを計る。彼女にとっては毎日が発見の連続でもある。
 子供が自ら疑問を持ち、それを解決していく。今、学校の現場で必要とされている教育の原点がここにあるのでは…。

 だが、そんな盲学校にも今、避けられない大きな問題が重くのしかかっている。その問題とは生徒数の減少だ。創立100年目を迎えた静岡盲学校は現在、高等部から幼稚部まで合わせてもわずか32人しか生徒がいない。最も生徒数が多かった昭和33年に比べるとわずか四分の一ほどの人数だ。さらに生徒数は年々減少しているというのだ。「友達がたくさんいる地元の普通小学校に通いたい、通わせたい」という想いが子供たち本人や親たちの間で強くなってきているというのが大きな理由だ。さらには弱視の子供を持つ親にとっては“盲学校”という名称自体に抵抗感があるのだという。そしてこの問題は何も静岡盲学校に限った話ではなく、全国の盲学校が抱えている共通の問題でもある。実際二年生は唯織ちゃんも一人きり。彼女は「もっとたくさんの友達が欲しい!」と話す。

 こうした問題点を解消するために、盲学校の中には近くの小学校との“交流教育”を行おうという空気が、徐々にではあるが広まっている。唯織ちゃんも月に一度、近くの小学校の行事や授業に参加することになったが、友達と一緒にいて楽しい反面、突然大勢の中に放り込まれる怖さがない訳ではない。「一体どうやって友達に話しかけたらいいのか?」という葛藤に加え、友達と接すれば接するほど「なぜ、自分ばかり目が見えないの?」との想いも募る。

 また、担任の海野先生も悩む。唯織ちゃんの自立を促すためにはどうしたらいいのか。マンツーマン教育の弱点や辛さを噛み締めながら、唯織ちゃんに真っ向からぶつかっていく毎日だ。
「魅力ある盲学校にしたい。盲学校に来て下さいと言えるようになりたい。それには教師の資質って大きいと思う…」。そう語る海野先生の言葉は重い。教師の資質、それは盲学校だけに求められているものではない。今まさに普通の学校の先生たちにも求められている課題でもあるのだ。

 唯織ちゃんにとっては、このまま盲学校に通い続けるのがいいのか、それとも普通校に転校した方がいいのだろうか?
「私はね、一年生に上がるまでは、目が見えないのが嫌だなあって思ってたんだよ。でもね、目が見えなくても触ればわかるっていう気分になってきたんだ」と話す唯織ちゃん。自立への道を歩きはじめた唯織ちゃん出した結論とは…?そして100年目を迎えた盲学校は、これからどう変わっていこうとしているのだろうか…?
 橋本真理子ディレクター「目の見えない世界を伝える難しさ・取材の難しさを知りました。主人公の少女は取材で私たちが近づけば、匂いや気配で分かってしまうんです。そんな状況を目の当たりにして、私たち取材班もとことんまで入りこもうと心に決めました。今回唯織ちゃんの日々の生活を通して、彼女が直面している問題をどこまでえぐり出せたかについては疑問の残るところですが、障害を持つ人たちと接する機会のない方に少しでも現実をお知らせできればと考えながら取材を続けました」と話している。

 11月3日(水)深夜26:25〜27:20放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『イーちゃんの白い杖 〜100年目の盲学校〜』(制作 テレビ静岡)に乞う!ご期待!

 また番組は目の不自由な人のために番組内容を副音声で説明するが、従来の副音声とはひと味違う柔らかく、気持ちを込めた表現もぜひご覧頂きたい。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『イーちゃんの白い杖 〜100年目の「盲学校」〜』
<放送日時> 1999年11月3日(水)深夜26:25〜27:20
<スタッフ> プロデューサー : 小林幹雄
ディレクター : 橋本真理子
撮  影 : 杉本真弓
音  声 : 塩月尚平
編  集 : 大村義治
構  成 : 南川泰三
ナレーション : 矢崎 滋
<制 作> テレビ静岡

1999年10月25日発行「パブペパNo.99-356」 フジテレビ広報部