FNSドキュメンタリー大賞
「日本最後の清流」四万十川の変遷と、川を守る様々な取り組みを通して、自然と人間の共生について考える

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『四万十メッセージ 〜清流の現在・過去・未来〜』 (制作 高知さんさんテレビ)

<10月6日(水)深夜25時35分放送>

 青い国・四国を象徴する四万十の清らかな流れ。「日本最後の清流」とうたわれる四万十川は、四国山地のほぼ中央に位置する東津野村(ひがしつのむら)・不入山(いらずさん)にその源を発する。そして、蛇行を繰り返しながら四国山系の渓流を一本ずつ集め南下、太平洋の土佐湾に注ぎ込む長さ196キロに及ぶ四国第2の大河だ。上流にダムがないので清らかな流れが河口まで続き、そのよどみのない姿は訪れる者に「自然」というものの本来の姿を教えてくれる。
 10月6日(水)25:35〜26:30放送の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『四万十メッセージ 〜清流の現在・過去・未来〜』(制作 高知さんさんテレビ)は、清流・四万十川の14年前と現在の映像をもとに、川とその流域の変遷、さらに川と共生して暮らす人たちが清流を守るために行っている様々な取り組みについて紹介する。
 高知さんさんテレビの林寛ディレクターは、「実は、私自身が14年前に取材した四万十川の映像があるんです。春と秋の映像が、1インチVTRで14時間分ですが、これを使って、いつか四万十川の移り変わりを番組にしたいなと思っていました」と取材のきっかけについて語ってくれ、さらに強い口調でこう付け加えた。「14年振りに四万十川を取材してみて、その変わりようには驚かされました。地元の人間でないとなかなか分かりませんが、四万十川は決して“最後に残された手つかずの自然”などではありません」

 四万十川が清流であり得た最大の理由は、流域の開発が遅れたことだ。しかし、20年ほど前から川がしばしばマスコミに取り上げられるようになり、訪れる人が徐々に増え始めた。やがて、流域の自治体が“川が地域興しにつながる”と気づき、あちこちで開発に手が付けられるられる…という「分かりやすい図式」で、川が変わり始めたのだ。
「取材中、多くの川漁師達と出会いましたが、皆、口をそろえて『水が変り石が少なくなってアユがいなくなった』と言ってました。もちろん、大都市近郊の川などに比べれば、信じられないくらいの透明度なんですが、彼らには分かるんですね」(林D)
 開発の手が入った多くの川で見られたことだが、ここでも護岸工事によりコンクリートで固められた川岸から芦原や樹木が消え、昆虫や鳥、小動物が消え、川自身が持っている浄化能力がいつの間にか落ちてしまったのだ。人々の生活を豊かにし、多くの観光客を呼び寄せる流域の開発が、川にとっては決してプラスだけでないことは、改めて言うまでもない。
「いい例が、国道381号線でしょう。愛媛県の宇和島市と高知県の窪川町を結ぶこの国道は、山間部では川沿いに走っています。昔は、舗装が行きと届かない所や、すれ違うのに苦労するような所がありましたが、今では2車線の立派な道路になりました。しかし、その分、川沿いから木々が消え、国道側の川岸だけ護岸工事が進められるちぐはぐさです」(林D)
 そんな指摘もあるが、川と接して暮らす流域の人たちの清流を守ろうという意識は徐々に高まって来ている。行政とて、その姿勢に変わりはなく、あらゆる取り組みを実施しているのだ。その一例は、四万十川流域では、中村市についで二番目に人口の多い窪川町の取り組みにも見られる。これまでは生活排水をそのまま川に流し込んでいたが、川に自然流化型の水処理技術を使った浄化装置を設置し、汚水を浄化して放流するようになった。
 また、幡多郡十和村(はただぐん・とうわそん)では、観光客用のトイレも循環型の処理を出来るものに替えた。
 しかし、繰り返しになるが、川を守ろうというこれらの取り組みが、川を本来の自然の姿から遠ざけつつあるのも、これまた否定できない事実なのだ…。
「これといった産業もない中、山間地域の人々がこの川とともに生活している姿は、今も昔も変りません。しかし川は変わってしまい、いろいろな悪循環が出ています。先ほど触れた国道381号線ですが、この国道を通って四万十川を訪れる観光客が増えたのですが、その多くはアウトドア志向のキャンパーで、折角、地元が整備を進めた宿泊施設や、地元商店の利用度は低いのが現状です。地元に“落とされる”のはゴミの山だけです。こういう矛盾はあちこちにありますが、だからといって流域の人たちに、開発を止めて昔ながらの生活を送れなどと言う権利は誰にもありません」(林D)

 四万十川が今歩みつつある道のりは、これまで国内のほかの川が辿ってきた道のりと同じものなのかも知れない。多くの人がそう感じている。そんな人間の思いを知ってか、知らずか、「日本最後の清流」は今も、豊富な水を14年前と同じように、ただ黙って流し続けている。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『四万十メッセージ 〜清流の現在・過去・未来〜』
<放送日時> 1999年10月6日(水)深夜25:35〜26:30
<スタッフ> プロデューサー : 鍋島康夫
ディレクター : 林 寛
撮   影 : 今西一広
ナレーター : 射場哲之進
<制 作> 高知さんさんテレビ

1999年9月28日発行「パブペパNo.99-320」 フジテレビ広報部