FNSドキュメンタリー大賞
目指すぞ!全国大会
木曽の大自然と、地域の人たちにあたたかく見守られ、福島中学相撲部員は猛稽古に励む

第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『どすこい! 〜中学相撲部七人衆〜』 (制作 長野放送)

<7月21日(水)深夜26時20分放送>

 「木曾路はすべて山の中である。あるところは岨づたいに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いていた」
 島崎藤村「夜明け前」の冒頭でこう描写した木曽谷の佇まいは、現在もそれほど変わりはない。中央を貫く木曽川の川縁に沿って崖屋(がけや)造りの民家が立ち並び、昔の中山道の宿場の面影を色濃く残す街並みを、東西から山々が包み込む。気ままに歩くと何か江戸時代にタイムスリップしたような、そんな感覚にとらわれる。この木曽谷の政治・経済、交通、文化の中心地として木曽福島は古くから栄えてきた。
 長野放送制作の第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『どすこい! 〜中学相撲部七人衆〜』<7月21日(水)深夜26:20〜27:15>は、この山間の町を舞台に中学相撲部員の活躍を描いた痛快作だ。長野放送の南直敏ディレクターが取材に当たった。
「今、長野県も不況のどん底に沈んでいます。木曽谷の産業といえば林業になりますが、“木曽の檜”も安い外国産材に押されっぱなしで、この地域全体に元気がありません。こういう時期ですから、何かスカッとするもの、元気が出るものを番組で取り上げようと思いました」 取材はちょうど1年前の町民相撲大会から始まった。

 長野県木曽郡木曽福島町。ここは昭和53年の「やまびこ国体」の際に相撲会場となって以来、「相撲の町」として知られるようになったが、それ以前から大変相撲が盛んな土地だ。
「明治天皇が町を訪れた際、山の中で大して見ていただくようなところもないので、山仕事で鍛えた力自慢達が相撲を披露したことがきっかけで盛んになったということです。今でも、毎年一回町民相撲大会が開かれ、小学生から大人まで参加しています」(南D)
 木曽福島の農業者トレーニングセンター内には立派な土俵がある。県レベルの相撲大会はほとんどここで開かれるそうだ。福島中学校相撲部はこの土俵で練習が出来る恵まれた環境だ。
「彼らの練習は激しいですよ。放課後1〜2時間の練習ですが、鼻血が飛び散るのは当たり前、親たちでも『見たくない』と言います。13〜4才の子供がよくあそこまでやるな、と思わずにいられないほどです。野球とサッカー人気が全盛の今、相撲にこんなに打ち込んでいる子供たちがいるとは、実際に見るまでは考えもしませんでした」
 福島中相撲部が、ここ10年間で8回全国大会への出場を勝ち取ったのも、この猛稽古の賜物なのだろう。去年は、150キロの巨漢・桝田貴博くんを中心に、起(おこし)元樹くん、横山昌也くんの3人で全国大会に臨んだ。上位入賞の期待も大きかったが、残念ながら強豪・青森チームに敗れ予選で敗退した。横山くんは足の故障で力が出しきれない悔いの残る大会だった。
 大会後、枡田くんは相撲の強豪、鳥取県の鳥取城北高校に相撲留学した。親は行かせたくなかったが、本人の強い希望に最終的には折れた。入学直後こそ、中学と高校のレベルの違いに戸惑い音を上げることもあったそうだが、今ではすっかりとけ込んだ。また、もう一人の主力・起くんは地元の高校に進み相撲を続けている。  現在の福島中学相撲部はどうなっているのだろうか?枡田くん、起くんの主力が卒業した後は、3年生になった横山くんをキャプテンに、3年生2人、2年生2人、1年生3人の7人で頑張っている。もちろん伝統の猛稽古は健在だ。激しい練習を続けていることをみんなが知っているから、相撲部員は学校で一目置かれ、クラスでも人気者だそうだ。

 最後に、取材を終えた感想を南ディレクターに聞いたらこんな答えが返ってきた。「おととし起きた神戸市須磨の事件の報道を見て、中学生ぐらいの子供の考えていることは分からない、と実感させられました。私にも今年高校に入った息子がいるのですが、まあご多分に漏れず、日頃そんなにじっくりと話をする機会はありません。実を言いますと、よーし、番組を通じてこの年代の子供たちのことをしっかり見てやるか、と思ったのもこの番組を作るきっかけでした。今時の中学生なんて…などと思う方もいるかも知れませんが、山の中に素朴で明るく頑張り屋の中学生がいること。それをあたたかく見守る親や町の人がいることを、ぜひ見ていただきたいですね。それにあの辺りは地域全体が緑に包まれて、空気はきれいで水は澄んでいます。木曽谷についてもぜひ知っていただければと思います」

 今年8月、木曽福島町で初めて全国中学生相撲大会が開かれる。相撲部員は全国の強豪を迎え討つべく懸命に稽古に励んでいる。キャプテンの横山君を中心に、起くんの弟で、体は小さいが頑張り屋の孝志くんもめきめき力をつけてきた。苦しい稽古に励む部員たちとそれを見守る親や地域の人々。山の町には、まだそんなほっとさせる温もりが残っている。それを全国の視聴者に少しでも感じていただければ、番組制作者にとってこのうえない喜びだ。


<番組タイトル> 第8回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『どすこい! 〜中学相撲部七人衆〜』
<放送日時> 1999年7月21日(水)深夜26:20〜27:15
<スタッフ> プロデューサー : 片山 健(長野放送)
ディレクター : 南 直敏(長野放送)
ナレーション : 寺瀬今日子
撮  影 : 梨子田 真(ビデオ企画)
<制 作> テレビ宮崎

1999年7月6日発行「パブペパNo.99-216」 フジテレビ広報部