FNSドキュメンタリー大賞
スキーのジャンプの事故で車椅子を余儀なくされた男性と、彼を献身的に支える妻の生きざまを通して、ひたむきに生きることの素晴らしさ、家族の大切さを訴える渾身のドキュメンタリー!!

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『旅立ちの夏〜障害者と家族の再出発〜』 (制作 石川テレビ)

<2003年1月21日(火)27:28〜28:22放送>
 「障害者たちが沖縄で遠泳を計画している。そういう話を聞いたのが去年の10月。早速、話を聞こうとメンバーの1人、見田進一さんに会うために入院中の病院を訪ねました」石川テレビの米澤利彦ディレクターは番組の取材を始めたきっかけについて話しています。見田さんは元々健常者です。去年の2月、スキーのジャンプで転倒して首の骨を折り、身体を動かす機能をほとんど失いました。
 「それだけにショックもさぞかし大きいのではと思っていましたが、実際に会ってみると本人は至って明るく、びっくりしました。元々、進一さんは水泳の選手で、障害を持っても水泳がしたいと思ったのが遠泳計画のきっかけのようでした。遠泳は他の9人の障害者と一緒にチームを組むということでしたが、進一さんの前向きな姿に惹かれ、彼を主人公に番組をつくろうと思い立ちました。明るく、楽しいものにしたいと考えています」(米澤ディレクター)。

 進一さんは柔道整復師の資格を持ち、金沢市内で接骨院を経営していました。床をバリアフリーにして高齢者に配慮したり、女性が来院しやすいように託児ルームを設けるなど、ユニークな接骨院として話題を集め、予約で一杯の日が多かったそうです。進一さん一人では対応できなくなり、もう一人若い先生を雇っていたほどです。そんな進一さんの家族は妻の尚子さん、小学生の2人の娘の計4人。
 尚子さんは進一さんが入院してからも接骨院を守っていました。「2人のいろいろな思いを込めて開業した接骨院だけに、そう簡単には閉めたくなかったんです」と尚子さんは話します。しかし、主の進一さんがいなくなって患者は減るばかり・・・。徐々に経営は難しくなっていました。尚子さんには他にも心配事がありました。進一さんが退院してきた後に住む家を探さなければならなかったんです。今の自宅は団地の2階で、車イスの進一さんには無理でした。民間のアパートは家賃が高く、尚子さんは同じ公営住宅をあたっていましたが、なかなか空きが見つかりませんでした。
 しかし、進一さんの前ではそういう苦労話は一切せず、リハビリに専念して欲しいと願っていました。
 「進一さんの前向きな姿、実はその背後に尚子さんの大きな支えがある・・・。取材を進めるうちにそう思うようになっていました。それから番組は尚子さんの目線で取材を進めていくことにしました。カメラマンも同じ思いでいたようで、すぐに納得してくれました」(米澤ディレクター)。

 取材班が想像していた通り、その後は、尚子さんに次々といろいろな難題がふりかかります。熟慮に熟慮を重ねた末の接骨院の閉院、仕事探し、自宅の引っ越し、バリアフリー工事。そんな難問を尚子さんは次々解決しながら、進一さんの遠泳の指導も行なっていたのです。実は尚子さん、以前にスイミングスクールでコーチをしていた経験がありました。尚子さんは「誰でも私たちと同じ状態になるとみんな同じ。一生懸命になりますよ」と謙遜しますが、彼女のパワフルな姿に取材しているといつも逆に勇気を貰っているような気になるスタッフでした。
 実は尚子さん、最初に進一さんから「沖縄で遠泳をしたい」と打ち明けられた時は反対したそうです。「こんな時にレジャーより他に考えなければならないことがあるはず」と考えていた尚子さんにとって進一さんの姿は楽観的に映ったそうです。それからしばらくは夫婦の間に微妙なすれ違いもあったそうです。しかし尚子さんは家族の出直しを図る意味でも何か目標が必要だと考えるようになりました。やがて尚子さんの気持ちは「遠泳を応援しよう」に変わり始めていました。「障害者になっても引きこもって欲しくない」。そんな思いもあったようです。

 今年4月、進一さんは1年2ヶ月ぶりに退院し、尚子さんが探してくれた新しい我が家に帰ってきました。尚子さんも探していた仕事が見つかり、働きに出ていました。朝晩は子供たち、そして進一さんの世話、日中は厳しい保険の外交セールスの仕事。土日には進一さんの水泳練習が待っています。文字通り大黒柱の尚子さんの肩に子供たちのこと、家のすべてのことが重くのしかかっているようでした。年中無休の忙しさです。

 今年7月19日、いよいよ沖縄での遠泳の日がやって来ました。台風一過の夏空に恵まれ、コンディションは最高。進一さんは尚子さんたち家族の声援に押され、約20分かけて目標の50メートルを泳ぎきりました。進一さんにはこの遠泳が大きな自信につながりました。ふたりの娘たちも父親のそんな姿を見て何かを感じたようです。尚子さんは目標を達成した夫の姿を見ながら、娘たちが助けてくれるまでは頑張ろうと気持ちを新たにしていました・・・。

 米澤ディレクター「進一さんの状態は固定しており、悪くなることはあっても今以上に良くなることはありません。相変わらず首から下の神経はマヒしたままです。客観的に見て、今後展望が開けるようには思えませんが、でも尚子さんは違うのです。何かに必死につかまり、家族の道を切り開こうとしているように思えるのです。不景気でご主人がリストラされ、途方に暮れている奥さんも多いと思いますが、そんな人たちに少しでもヒントを与えられたら、それがこの番組の大きな狙いであり、願いでもあります」と話しています。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『旅立ちの夏〜障害者と家族の再出発〜』
<放送日時> 2003年1月21日(火)深夜26:33〜27:28
<スタッフ> プロデューサー・構成 : 赤井朱美(石川テレビ)
ディレクター : 米澤利彦(石川テレビ)
撮    影 : 堀口祐子(石川テレビ)
編    集 : 斉藤淳一(いちまるよん)
ナレーション : 美保 純(女優〜ラヴァンス所属)
<制作・著作> 石川テレビ

2002年12月11日発行「パブペパNo.02-333」 フジテレビ広報部