FNSドキュメンタリー大賞
「黒子」が支える世界経済
“モノ作り大国ニッポン”復活のカギが見えた!?

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『狙われた技術屋集団〜地方工場の新世界戦略〜』 (制作 仙台放送)

<12月17日(火)深夜26:33〜27:28放送>
 今年1月、宮城県大和町にあるNEC宮城の工場の売却が発表された。売却先はカナダに本拠を置くセレスティカ社という我々が耳にしたことない外資系企業である。彼らにとって、日本の大企業が見放した工場を買収する理由はどこにあるのだろうか。そして、工場ではどのような変化が起きたのだろうか・・・。

 現在、「モノを作らない企業」が増える一方で、「作りたくても作れない工場」が数多く存在する。特に欧米では、大企業が製造部門を切り離し、研究・開発に特化する傾向が強い。商品のライフサイクルが短い市場においては、自社で製造することは非効率的なことなのだ。また、世界を吹き抜けるIT不況の波は日本にも数多くの「作りたくても作れない工場」を生んでいる。かつて国内で生産されていたものは労働コストの安い国々へとって代わられた。国内の工場は人員削減、工場閉鎖など厳しい選択を迫られ、高度な技術と設備を持て余している。
 そして今、その両者を結びつけるべく外資が動いている。それが、EMS(電子機器製造請負業)と呼ばれる製造専門の企業だ。彼らは各地の「お荷物工場」を買収し、そこで作ったモノを「モノを作らないメーカー」に供給する。自分のブランドでモノを作らないEMSは「製造業の黒子」、「影の製造業者」と呼ばれる。  だが、EMSは従来から製造業に存在してきた「下請け」とは大きく異なる。90年代、EMSは、世界中の「お荷物工場」の買収を繰り返し、マーケッティング、部品調達や物流まで自前でまかなうまでに成長を遂げた。中には世界20カ国以上、従業員数万人を有する大企業となった社もある。彼らの登場により、電子業界の勢力地図は大きく塗り替えられることになった。ある意味、「黒子」が「主役」を演じているといえる。

 セレスティカ社もそのEMSのひとつ。6年で世界各地に40の拠点を築き、4万人の従業員を抱える大企業といえども、我々がこの企業の名前を知らないのはむしろ当然のことかも知れない。
 旧NEC宮城工場はNECブランドの名門工場として光通信事業の中核を担ってきたが、IT不況により急速に業績が悪化。不採算を理由にEMSへの売却が決定された。その過程においては「生産は競争力の源泉」であるとする反対論と、「製造業再生の切り札はEMS」とする推進論がNEC社内でも対立したという。かつて、日本の繁栄を支えたのは「製造と開発の一体化」であり、日本には安い労働力もない。売却はこうした「常識」や「定説」を覆すものである。しかし、EMSによる日本の工場買収は、一企業、宮城県のみならず全国各地で続いている。

 4月、工場は看板が変わり、新たなスタートを切った。世界の製造業を動かすEMSという大潮流に飲み込まれ、世界を相手に自立を迫られる地方工場。250人が工場を去ったが、残された従業員たちはこの転機をチャンスと捉え、積極的に仕事に取り組んでいる。
 これまでは本社の指示のもと、決められた製品しか作れなかった一地方工場が、これからは世界のマーケットを相手に、これまでと全く違った製品の受注をしたり、取引のなかった新規顧客とビジネスができる。工場長の大歳 剛社長もその可能性に燃えている一人だ。
 大歳さんはNEC本社の経営企画部長を辞して、あえて地方子会社に乗り込んできた熱血社長。売却問題に揺れる地方工場へ東京に家族を残してやってきた。買収後も、引き続き工場長(社長)を務めている。

 番組を取材した仙台放送報道部の佐竹 郁ディレクターは、大歳さんについてこう語る。
 「買収先が工場長に日本人を就任させたのは日本という特殊性も考えてというのもあるでしょう。外資買収という暗いトピックを描く中では、彼の明るいキャラクターに助けられたところがありますね。セレスティカ社はいわば世界各国の落第工場の集合体ですが、中には業績が急回復し、世界の工場で指導的役割を果たしたり、その業績により本社の役員に昇格した例もあります。彼が従業員に、そして自分自身に求めているのは、いい意味での野心かもしれないですね」

 事実、大歳さんの仕事ぶりは明るいエネルギーに満ち、精力的である。海外にも積極的に足を運ぶ。従来の一地方工場の工場長ではありえなかったビジネスに挑む姿は、「地方から世界が見える」という番組コンセプトに重なっていく。

 大歳さんはセレスティカ・ジャパン・EMS(株)発足の日、従業員に向け「世界の舞台が用意された。日本の製造業復活の範となろう」と力強く呼びかけた。この式典にはセレスティカ社のマービン・マギー社長も出席。工場への期待の高さを感じる一方で、従業員たちの不安げな顔も見える。もう、後戻りはできない。式典後のパーティーで『明日があるさ』を歌う明るい表情の奥に、EMSの日本市場での可能性に賭ける決意がにじむ。

 グレーの作業着から白衣に着替えた従業員が精力的に動く工場内。多品目小量生産、ITの活用、役割分担による効率化、製造ラインのフル稼働…。EMSの概念の浸透に本社の外国人スタッフによる研修の実施、他工場の視察など大歳さんも積極的に動く。世界の激流の中で工場が生き残るための道筋が、大歳さんの中に描かれ始めていた。また、従業員もそれに応える。技術職から営業職に異動した社員も新たな仕事の獲得に奔走する。EMSとは何か、そこから始まる営業を根気強く続け、新たな顧客が見つかり始めた。
 工場では、今日も大歳さんの陣頭指揮のもと、900人の従業員が闘いを続けている。

 番組ではEMSがもたらす変化を、大歳さんの仕事ぶりを中心に長期取材。あえて日本の工場を買収したEMSの狙いと、世界を相手に戦う工場・従業員の闘いを描いていく。
 取材を振り返って、佐竹ディレクターはと話している。
 彼らの戦略から、「モノ作り大国ニッポン復活」への一つのモデルが見えてくるはずだ。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『狙われた技術屋集団〜地方工場の新世界戦略〜』
<放送日時> 12月17日(火)深夜26:33〜27:28
<スタッフ> プロデューサー : 及川眞則、庄子勝義
ディレクター : 佐竹 郁
構    成 : 高橋 修
ナレーション : 堀 秀行
撮    影 : 清水哲哉、畑中雅明
<制  作> 仙台放送

2002年12月5日発行「パブペパNo.02-326」 フジテレビ広報部