FNSドキュメンタリー大賞
タンチョウの野生復帰に人生をかけたひとりの自然保護センターの研究員の10年間の取り組みにカメラが密着、その軌跡を通して21世紀に求められる街づくり、環境づくりを考える渾身のドキュメンタリー!

第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『近くて遠い空 〜タンチョウと飼育員の3600日〜』 (制作 岡山放送)

<11月5日(火)26:33〜27:28放送>
 絶滅が危惧され、国の特別天然記念物として保護活動が進められているタンチョウ…。そんなタンチョウの野生復帰に人生をかけた、自然保護センターの研究員・井口萬喜男(いのくち・まきお)さん(61)にカメラが密着。彼の10年間の取り組みの軌跡に迫ります。

 タンチョウは世界的に大変稀少な種で、自然界での生息数は北海道の800羽を含め、世界中で2500羽ほどにすぎません。こうした中、岡山県は平成3年、佐伯町に自然保護センターを建設し、タンチョウの保護と増殖に取り組んできました。
 センターの主任研究員・井口萬喜男さんは、後楽園でタンチョウの飼育を担当して以来、タンチョウの増殖に向けて調査と研究を進めています。平成4年には世界的に珍しいタンチョウの人工授精に成功し、人工孵化でも大きな成果を挙げています。
 ところが、順調だったセンターでのタンチョウの飼育に、ある「事件」が起こります。センターで飛行訓練を行っていた2羽のタンチョウが空高く舞い上がり、行方不明になってしまったのです。また、おりの中というストレスから卵を産まない鳥や子育てを放棄する鳥も出始めました。
 「タンチョウをおりから出して大空に帰したい」
 井口さんはタンチョウの野生復帰を目指して野外での行動調査に取り組むことになりました。自然の中でエサが採取できるか、野犬や狐などの外敵に対して自己防衛できるか、全国初のタンチョウの野外調査が始まりました。
 調査が始まって4年目の平成10年に大きな節目を迎えることになります。総社市の高梁川の中州に放されたマコトとアカネにヒナが誕生、野外での子育てが始まりました。センターでは井口さんに愛情表現を繰り返していた2羽が、ヒナに近づく井口さんを威嚇するようになりました。野生復帰に向けての大きな1歩を踏み出したようです。
 しかし、その一方で大きな課題も浮かび上がりました。それは、人間との共生。中州は、レジャーを楽しむ人やハンターのたまり場で、タンチョウにとって安住の地ではなかったのです…。

 21世紀は「環境の世紀」といわれ、豊かな自然と健全な生態系を保全し、将来にわたり人と自然の持続可能な共生関係を築くことが求められています。しかし、私たちを取り巻く自然を見ると、湿原や干潟の減少、貴重な野生生物の絶滅などさまざまな分野で環境問題が広がっているのです。
 タンチョウも絶滅が危惧される稀少種で、現在国の特別天然記念物として保護活動が進められています。岡山県では自然保護センターを中心にタンチョウの保護と増殖に取り組むとともに、将来は野外での飼育を含め、飼育数を100羽に増やす将来構想をまとめました。
 「地方の時代」といわれて久しい今、どんな街づくりを進めるのか、どんな魅力を打ち出すのか、地方都市の個性、アイデンティティーが問われています。岡山県が目指す「タンチョウの舞う里」は、心の豊かさが問われる21世紀の街づくりの方向性を示しています。
 岡山に「タンチョウの舞う空」を実現する取り組みは経済発展を追求する一方で、私たち人間社会が置き去りにしてきた「心の豊かさ」を取り戻す取り組みでもあります。
 11月5日(火)深夜26:33〜27:28放送の第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『近くて遠い空 〜タンチョウと飼育員の3600日〜』(制作 岡山放送)は、タンチョウの野生復帰に人生をかけた井口さんの10年間の取り組みにカメラが密着、その軌跡を通して21世紀に求められる街づくり、環境づくりを考えます。

 番組を取材した岡山放送の太田和樹ディレクターは、「井口さんの10年間の取り組みにカメラが密着することにより、タンチョウが徐々に野生を取り戻していくさまを克明に記録することができました。ストレスで自分の身体を傷つけたり、自分を人間と思いこみ井口さんに求愛するタンチョウ、貴重な鳥ゆえの保護活動は一方でさまざまな問題を生んでいました。しかし高梁川の中州に放たれたマコトとアカネは卵に近づく井口さんを激しく威嚇し、自力で自然の中での子育てを順調にこなしていきます。より自然に近い形でタンチョウを育てるコスチューム飼育、飼育員の皆さんの真剣な思いと情熱とは裏腹に、ユニークな飼育の姿には思わず笑みがこぼれます。岡山放送が初めて井口さんを取材し番組として放送したのは1992年、それから10年…。これまで主に4人のディレクターが取材に携わり井口さんの取り組みをカメラで追い続けてきました。取材テープは300本近くにのぼっています。飛ぶことを忘れたタンチョウを大空に帰したい…10年前は井口さんがたった1人で始めた取り組みが行政や地域の住民を動かし、夢は一歩一歩実現に向かっています。岡山に“タンチョウの舞う空”は実現するのでしょうか…。1人の男の壮大な夢への挑戦をこれからも追い続けたいと思っています」と話しています。

 北海道のタンチョウの専門家はこう指摘します。「本州でタンチョウを再生させようとするのは幻想にすぎない」…それほど人間との共生は難しいのです。
 しかし、「タンチョウが住みやすい環境は人にもやさしい環境である」と井口さんは語ります。21世紀に求められる環境とは? その答えをタンチョウが私たちに教えてくれるかも知れません。


<番組タイトル> 第11回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『近くて遠い空 〜タンチョウと飼育員の3600日〜』
<放送日時> 11月5日(火)26:33〜27:28
<スタッフ> 構    成 : 高橋 修(フリー)
ディレクター : 太田和樹(岡山放送)
取    材 : 岡阪美佐夫(岡山放送)、島田麻衣子(元岡山放送)
撮 影・編 集 : 浦上順司(OHKエンタープライズ)
ナレーション : 藤田淑子(青ニプロダクション)
<制  作> 岡山放送

2002年9月30日発行「パブペパNo.02-256」 フジテレビ広報部