FNSドキュメンタリー大賞
「幸せになるために生きるんです」
歌を生きがいに手に手を取り合って明るく、つつましく生きる視覚障害の夫婦の1年

第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品
『ささえあって』 ※音声多重放送 (制作 サガテレビ)

<11月14日(水)深夜26:55〜27:50>
 佐賀県嬉野町(うれしのまち)に住む山下光義(やました・みつよし)さん(39)と満枝(みつえ)さん(49)夫婦は視覚障害者です。二人ともわずかな光しか感じることしか出来ません。夫、光義さんはもともと目に障害がありました。生まれてすぐ白内障と診断され、生後3ヶ月で3回の手術を受けましたが、結局視力を得ることができませんでした。手術から40年経ち医学も進歩した現在、山口県下関市に住む光義さんの父親、山下定さん(70)は、息子に再検査と手術を勧めています。「自分が生きている間に、自分の片方の目をあげてでも見えるようにしてあげたい」と言います。
 妻の満枝さんは、28歳の時に視力を失いました。網膜色素変性症という病気でした。現代医学をもってしても視力を取り戻すのは不可能だそうです。失明した当時のことを振り返り満枝さんは「どん底だった」と言います。

 そんな二人が出会ったのは16年前、現在二人が勤務しているマッサージ店ででした。生来明るい山下さんと出会うことで、満枝さんは少しづつ元気を取り戻していったそうです。そして二人は結婚。満枝さんが10歳年上の姉さん女房です。もう結婚して15年にもなりました。しかし、二人は子供を作ることをあきらめてきました。夫、光義さんは「生まれてきた子供が、自分たちと同じ境遇だったら…」という不安が二人にそうさせたそうです。医学的にも両親が視覚障害を持っている場合、その子供も障害をもつ可能性があるといわれています。
 視力を失った二人ですが、前向きに明るく生きています。夫、光義さんの生きがいは「歌」。7歳で盲学校の寮で両親と離れて暮らした山下さんは、両親のいない寂しさと上級生のいじめに耐える日々でした。そんな光義さんが、松山千春の歌に出会ったのは中学生の時でした。松山千春にあこがれ、自分で詩を書き曲を作り、シンガーソングライターになることが夢でした。これまでに20曲以上の歌を作ってきました。その中には満枝さんのために作った歌もあります。今、二人の夢は、一生懸命仕事をして山下さんが作った歌を「CD」にすること。昨年末、光義さんは満枝さんのために、新しい曲を作りはじめました。歌のタイトルは「もしも、君が」。満枝さんへのいたわりが、歌詞に綴られました。
 障害者として生まれた山下光義さん、28歳で障害者になった満枝さん。山下さん夫婦と二人の友人たち。そしてふるさと下関から障害を持つ息子夫婦を案じる両親。1年間山下さん夫婦の生活する姿を通して、障害を持つということ、夫婦の絆、生きることの意味を考えていきたいと思います。

 我々スタッフが山下さん夫婦に出会ったのは昨年夏のことでした。サガテレビで行った『STSカラオケ選手権』の予選会でした。会場で自分の順番を待つ山下光義さんは、ロングの髪に金髪、サングラス。どう見ても普通の人には見えない風貌でした。その段階で山下さんが視覚障害者とは知らずに、外見だけで私たちは山下さんを警戒しました。しかし、予選会が始まり、付き添いの人に手を引かれ、ステージに向かう姿を見たとき、自分たちが外見だけで、とんでもない偏見を山下さんに対して持ってしまったことを恥じました。そして、山下さんが予選会で歌った松山千春の「君を忘れない」は、会場にいた全ての人たちの心を打つものでした。割れんばかりの拍手が送られ、山下さんが予選会を通過したことは言うまでもありません。予選会が終わり、付き添いの人と三人並んで会場を後にする山下さん夫婦。そのとき、妻、満枝さんも視覚障害者であることを知りました。
 その後、私たちは一年近く山下さん夫婦を取材しました。これまでまったく知らなかった視覚障害者の生活。山下さん夫婦の日常の生活に接し、驚きと感動の連続でした。私たちが障害者に対して持つ、「偏見」と必要以上の「同情」。「みんなが思うほど私たち夫婦は不幸でもなければ、卑屈でもない」と言う山下さん。歌をつくり、歌い、多くの人たちとの関わりを広げてきました。「幸せになるために生きるんです」と山下さん夫婦は取材の最後に話してくれました。私たち制作スタッフが1年間の取材を通して感じてきた思い。そして、山下さん夫婦の明るく、つつましく生きる姿を伝えたいと思います。
(この番組は音声多重放送です)


<番組タイトル> 第10回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『ささえあって』 ※音声多重放送
<放送日時> 11月14日(水)深夜26:55〜27:50
<スタッフ> プロデューサー : 永尾三明(サガテレビ制作部)
ディレクター : 広橋時則(サガテレビ制作部)
撮    影 : 花森 勇(Sプロジェクト)
音    声 : 溝口勝秀(Sプロジェクト)
編    集 : 富石浩通(Sプロジェクト)
効    果 : 萩尾仰紀(メディア21)
ナレーター : 内田信子(サガテレビ報道部)
<制 作> サガテレビ

2001年10月29日発行「パブペパNo.01-359」 フジテレビ広報部